【9-29】 最年少オラヴ

【第9章 登場人物】

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【世界地図】航跡の舞台※第9章 修正

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817139556452952442

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 ダイアン=キェーフトと名乗るは、タレ目の端に涙を浮かべ、銀色の通信筒を差し出した。アトロンのからの紹介状が入っているのだろう。


 ――帝国東岸領南部・ダイルテンガを治めるアトロン少将のことかしら。

 キイルタは、頭のなかを整理しつつ、筒蓋つつぶたを開ける。


 愛想はないが、少将の朴訥ぼくとつとしたお人柄を覚えている。父ロナンとも親交があったからだ。



 果たして、紹介状の末尾には、「ズフタフ=アトロン」のサインが記されていた。


 冒頭には、達筆な文字で「ロナン=トラフ公の求めに応じ、1人の医師を紹介する」とある。


 以下、その医師の経歴がつづられていた。


 オーク大学医学部を飛び級で卒業。学生時代から多くの外科手術を成功させ、卒業早々学問の長オラヴを名乗ることが許されたとのくだりには、キイルタは驚かざるを得ない。


 オラヴとは、太陽信仰ルイド教僧侶の階級に対して用いられ、学問の分野では、最上級の「博士」や「学問の長」を意味する。


 オラヴには、多額の研究費の支給はもちろん、租税のほか鉄道船舶運賃・関所通行料等すべてが免除されるなど、様々な特権が与えられていた。そればかりか、軍籍に入れば、たちまち大佐相当官の地位になる。



「帝国史上最年少のオラヴ様……」

 キイルタは、玄関先に立つ短身ジト目の(少なくともは年上のはずだが)を見つめる。 


「そうじゃ、少しは敬え」

 そういう白髪のしゃべると殊更ことさら幼く見えてしまう)は、確かに白衣を羽織ってはいる。


 しかし、背丈は14歳のキイルタよりも小さく、白衣の裾は床に引きずっていた。何より髪は綿わたのように真っ白であり、その前髪の下にある小さな鼻は、まだ赤く腫れている。


 何度見ても、キイルタの灰色の瞳には、幼年学校の生徒にしか映らない。



「それじゃ、さっそくお邪魔するぞい」

 初見の相手に、そうした感想を抱かれているのには慣れているのだろう。キイルタの品定めするような視線を意に介する様子もなく、白衣を蹴り上げるようにして(だから「少女」ではない)は、屋内へと進んでいく。


 医療器具が入っているのだろうか、黒い革のトランクケースを引きずりながら。


 キイルタもすぐに後に続く。


 いまは外見などに頓着している場合ではない。久々に来てくれた医者である。


 しかも、紹介状のとおりの腕であれば、エイネ様の未来が開ける。そうなれば、願ってもない話ではないか。


 何より、父ロナンの必死の訴えと、それに応じてくれたアトロン少将の心意気に、キイルタは感無量であった。彼はブリクリウ派閥など意に介さず、はるか南・ダイルテンガの街から、この医者を送り届けてくれたのである。



 しかし、最年少オラヴ・ダイアン嬢が、勇ましく屋内を進んだのも、わずかな間のことだった。廊下を行きつ戻りつしては、(もう「少女」でいいか)はしている。


「こ、こら、さっさと案内せんか」

「……」

 彼女は、さして広くもない館のなかで進路に迷い、キイルタに先導される身に落ち着いた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


このドジっ子お医者さん、大丈夫かいなと思われた方、

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セラとエイネが乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「執刀」お楽しみに。


額に浮かび目元へ流れる汗をキイルタに拭わせ、襟足に浮かび首筋へ流れる汗に構わず、ダイアンは左右の手で金属製の医療器具を駆使していった。

その手捌きに一切の迷いなく、銀色の軌道は芸術そのものであった。


合の手を入れるように、セラが一番水を次々と煮沸させては、それら使用済の機器を滅菌していく。

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