【7-6】蹄の印 下

【第7章 登場人物】

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【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 ヴァナヘイム国の中枢に居る者のなかに、現場の総司令官からの要求に理解を示す者が出てきたら――。



 トラフの脳裏に、1人の少女の姿が浮かぶ。


 大粒の涙をこぼし、自分も連れて行ってくれとせがむ、淡い赤髪の少女。


 祖母から遣わされた迎えの馬車に、諦めたように乗り込む小さな背中――。



 彼女のに出てきた、ヴァナヘイム国におけるのうち、軍務省次官と農務大臣はまだ健在だ。


【5-8】少女の冒険 ② 新聞

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 帝国東征軍は、ヴァナヘイム軍殲滅せんめつを想定したものである。同時にブレギア軍――大陸最強ともいわれる騎翔隊――まで相手にすることを想定して編成されてはいない。


 ヴァ軍指揮官のものと思しき発想と、ヴァ軍軍務次官のものと思しき行動力に、トラフは舌を巻くほかなかった。


 背中に流れる冷たい一筋を知覚し、彼女は思わずレイスの顔を見上げた。


 上官の顔色は、優れないように見える。それは、下火になりつつある糧食を焼く炎や、心もとないカンテラの光のせいだけではないだろう。


 帝国東征軍が、危機的状況に陥りつつあることを、誰よりも初めに見抜いた彼こそ、冷や汗をかいているに違いない。




 ブレギアとヴァナヘイムが同盟締結か――。


 帰営後、セラ=レイス少佐からの報告を聞いても、エリウ=アトロン大佐は、形のよいまゆに微妙な角度を生むばかりだった。


 にわかに信じがたいという心情を、眉だけで表現しきるとは……レイスは女上司の器用な一面に気が付かされた。


「こいつは……」

 しかし、この紅毛の部下が現場で回収したマナナン社製のくらを差し出すと、レディ・アトロンも二の句を継げなくなったのだった。




「ブレギアとヴァナヘイムが軍事提携だと?」


「貴官は、この暑さで頭をやられてしまったのではないかね?」


 翌朝、レディ・アトロンは、昨夜の輸送隊襲撃の顛末てんまつをエイグン=ビレー、ゲイル=ミレド両将軍等に報告していた。


 しかし、帝国軍の右翼を任されている中将とその幕僚たちのなかで、事態の深刻さに気がついた者はいなかった。


 無理もない。


 ブレギア建国前から両国が戦い続けていることは、子どもでも知っている事実である。


「平民向けの三流新聞だって、もっと現実味のある記事を書くとは思わないかね」

 中将は仰々ぎょうぎょうしく首をかしげてみせる。


 その面白くもない冗談にへつらうように、大袈裟な笑い声が起こった。


 それらから視線をそらし、聴覚を遮断すると、レディ・アトロンは1人敬礼し、きびすを返した。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


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抽選で10名様に、レディ・アトロンの眉芸を披露いたし……薔薇彫刻入りの白刃――アトロン家名刀――が秋山の首筋に当てられました。残念ながら当企画は見送らせていただきます💦


フォロー🔖や⭐️評価は随時受付中です!

レイスたちの乗った船の推進力となりますので、よろしくお願い申し上げます🚢




【予 告】

次回、「親書 上」お楽しみに。


ブレギア国主、フォラ=カーヴァルのもとに、ヴァナヘイム国王の親書が届いたのは、帝国暦383年5月29日のことであった。


義弟のウテカ=ホーンスキンがたまらず声をかける。

「義兄上、ヴァナヘイム国はなんと?」


「……我が国と手を携えたいと言って参った」

カーヴァルは、大儀そうに親書を義弟に手渡した。

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