【7-7】親書 上

【第7章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428974366003

【世界地図】航跡の舞台

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927860607993226

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 ブレギア国主・フォラ=カーヴァルのもとに、ヴァナヘイム国王の親書が届いたのは、帝国暦383年5月29日のことであった。

 

 ブレギアは、ヴァナヘイムの北東に隣接する新興国家である。


 北は北海沿岸まで領有しているが、国土の大部分を占めるのは草原であった。


 古くより馬をはじめとする畜産が盛んであり、ブレギア建国後は一貫して帝国の支配を拒絶し続けてきたことは、先述のとおりである。


【4-5】産を殖やし業を興す 上

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【4-6】産を殖やし業を興す 下

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 ブレギア王国を建国し、帝国の干渉からの自立は、この国の主君に多大な生命活力の消費を求めた。


 「小覇王」の名で、周辺諸国から恐れられたブレギア君主も病み衰え、久しく顔色がすぐれない。


 特にこのひと月は、2日に1度床に伏せることが続いていた。肌は土気色となり、親書を握る手はこころなしか震えている。



 国主カーヴァルは気だるげに息を吐くと、親書とともに目を閉じた。


 義弟のウテカ=ホーンスキンがたまらず声をかける。

「義兄上、ヴァナヘイム国はなんと?」


「……我が国と手を携えたいと言って参った」

 彼は、大儀そうに親書を義弟に手渡した。


 ウテカは読み進めていくうちに、その大きな目をみるみる見張り、憤っていった。

「なんと虫のいい話か!奴らは、2年前に国境くにざかいを侵したばかりではないか」


 第一、頭髪や髭も整えていないような、小汚い男を送り付けてくることからして、ウテカは隣国のことが気に入らないのだ。



 国主義弟がテーブルに放り出した親書に、彼の一族であるブラン=ホーンスキン・スコローン=ホーンスキン等も、次々と目を通していく。


 2人は、ぎょろりとした両目こそ持つものの、体格は巨漢そのものであり、短身痩せぎすのウテカとは似ていない。


「帝国に追い詰められて、泣きついてくるとは」


「我が君、使者をこの場で斬ってしまいましょう」


 重臣たちも、異口同音にホーンスキン一族に同調をはじめる。


「逆に、我らもこの機にヴァナヘイムへ攻め入る好機ではないでしょうか」


「さよう。宰相のご方針では、領土拡大の好機を逸しますぞ」



 ブレギアはこの十数年、隣接するヴァナヘイム国と攻防を繰り返してきた。


 ここにいる臣下たちも、その戦いに度々臨み、配下や同僚、何より家族を多数失っている。


 そうした彼らが一様に憤りを示し、隣国との即時決戦を、顔色の優れない主君に迫るのも当然であった。


「待て、待て。我らだけで結論を急いではならぬ。ここは、ラヴァーダの意見も聞いてみようではないか」

 カーヴァルは物憂げに右手を挙げると、憤る臣下たちを枯れた声でなだめるのだった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスが推測したとおり、ヴァナヘイム国とブレギア国の接近が水面下で進んでいたな、と思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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【予 告】

次回、「親書 下」お楽しみに。


ヴァナヘイム国の使者が訪れていた頃、ブレギア宰相キアン=ラヴァーダは王都を離れ、同国西端の城塞都市アリアクにいた。


ブレギア国主との会見を終えたヴァナヘイム国の使者は、アリアク城塞へ向けてダーナを出発した。


出国前に散髪し整えたはずの頭髪は既に乱れ、髭の手入れもろくになされていない。

しかし、その儀礼用の軍服はさすがにまだ新しく、見た者に対し、彼が一国の使者であることをかろうじて認識させることはできている――。

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