第7話 ペレニアル砦攻略
深い森の中に居を構えるペレニアル砦は、数百年前の大戦時にこの地を治めていた領主が建設したものだ。
かつての激戦の名残で砦は一部が崩落しているが、堅牢さは健在で拠点としての機能は十分に果たしている。
元より地元の猟師くらいしか近寄らない深い森の中という立地も相まって、盗賊たちにとっては絶好の根城であった。
盗賊団が住み着いて以降は猟師たちも周辺に近寄らなくなり、正義感や懸賞金目当て訪れた傭兵達もことごとく魔剣士オニールに返り討ちに遭った。噂は瞬く間に広がり、今やこの砦は生半可な覚悟では立ち入れぬ死地と化している。
一方で襲撃者が減った結果、見張り番の盗賊には少なからず油断が生じるようになっていた。どうせ侵入者なんて来ない。見張り番など退屈な仕事。そんな風に油断を積み上げていた。
「はあー、眠――」
「安心しろ。これから好きなだけ眠れる」
早朝、欠伸を噛み殺していた見張り番の心臓が突然背後から貫かれた。望み叶って、見張り番の盗賊は決して起き上がる事のできない永劫の眠りへと付いた。
悲鳴を上げさせる間もなく一撃で確実に命を奪い取る。長年魔剣士と対峙してきただけあり、ダミアンの殺しは非常に手慣れている。
「こちらも終わりましたよ」
ほぼ同時に、イレーヌももう一人の見張り番を迅速に排除していた。ダミアンほど手慣れてはいないが、苦痛なく殺すと伝わる慈悲の剣の効果によってか、こちらもまた悲鳴を上げさせることなく始末を完了した。事、秘密裏に殺すことに関して慈悲の剣の非常に効果的だ。
「見張りは潰したし、通用口から入らせてもらうおう」
見張りの懐から通用口の扉の鍵を拝借する。この時間帯、正門は強固に閉じられている。強引にぶち抜くことも可能だが、わざわざド派手に突入する必要もないだろう。ダミアンとて悪党に容赦するつもりはないが、本命はあくまでも魔剣士の頭目だけ。むやみやたらと存在をアピールする必要はない。
「私の目的は頭目一人だけだ。立ち塞がる者だけを切り伏せ、ひたすら奥へと進ませてもらう。お前の方にまで気を回すつもりはない」
「ご心配なく、私は私で好きにやらせて頂きます。ダミアンさんが頭目を討ってくれるというのなら、私は邪魔が入らないよう他の盗賊たちの相手をします。悪党は許せませんから」
気合い十分にイレーヌは再度抜剣。先陣切って通用口から砦内部へと突入していった。
「こいつらどこか――」
寝起きだったのだろうか? 上半身裸のまま
「侵入者か!」
遠目に状況を目撃した盗賊が、壁にかけてあったバトルアックス片手にイレーヌ目掛けて斬りかかった。返り血を帯びたイレーヌが盗賊へ
「えっ――」
呼吸の間を縫うようにイレーヌは音もなく距離を詰める。瞬時に「慈悲の剣」で盗賊の首を突き刺した。絶命したのを確認すると、そのまま右方向に斬り進めて刃を抜く。
「剣士とはいえ相手は女一人だ。数で押しつぶせ!」
異変を察した盗賊たちが通路から続々とエントランスへと集結。この場をまとめる長髪の盗賊が部下に指示を飛ばす。
「……中の奴らはどうした?」
砦の最奥、かつての指揮官用の執務室の方角の通路からは盗賊は一人も姿を現さない。戦闘の混乱に乗じてダミアンが向かった方向だ。今後も増援が現れることはないだろう。
「くそっ! この女強え! 誰か頭を呼んで――」
「呼ばせないし、呼んでも来ないと思うよ」
長髪の盗賊の首が勢いよく飛んだ。音もなく背後から一撃されたことを、狼狽の死相は知る由もない。
一撃が俊敏かつ非常に強力。相手はたかが華奢な女が一人と楽観視していた盗賊たちの間にも、次第に恐怖心が
数の暴力でどうにかなる相手ではない。これ程の剣士を相手出来るのは魔剣士の頭目くらいだが、助けを呼ぶ猶予さえもイレーヌは与えてくれない。攻撃性を失い、防戦一方の盗賊達の姿には日頃の残虐さは見る影もない。中には情けなくも武器を手放し、戦場と化したアジトから逃走しようとする者も出始めた。
「悪行のツケが回って来たのだと観念なさい。せめて苦痛なく、慈悲深く終わらせてあげるから」
正面から斬りかかって来た長剣使いを一刀両断すると、イレーヌは慈悲の剣で弧を描くようにして血払いした。
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