泉の守護者の章
第1話 命の泉
大陸の東、ヘレボルスの森の奥深くには、命の泉と呼ばれる不思議な力を持った水源が存在するという。
噂いわく、その泉の水を口にすると、不調を抱えた者は病や怪我が癒え、健康な者が飲めばあらゆる邪気を跳ねのける加護が身に付くとか。
しかし、泉に興味を抱く者が純粋に救いを求める者ばかりとは限らない。命の泉は、荒事を
泉の力を手中に収めれば、
しかし、噂が広まってから三ヵ月が経った今現在、泉が何者かの手に落ちたという話は聞かれない。時期を同じくして現れた一人の剣士が、泉の力を狙う悪漢を全て撃退しているというのだ。
目的は不明だが、神聖な泉を悪漢から守り抜くその姿から、剣士は何時からか「泉の守護者」なる通り名で呼ばれるようになった。
目撃者の談によると剣士は風を操る不思議な能力を持っているそうで、その存在が泉の噂の信憑性をより高めている。
〇〇〇
「その剣士は風を操っていたんだな?」
「ああそうさ。泉に立ち入ろうとした悪徳商人お抱えの傭兵部隊が、まるでかまいたちにでも遭ったかのように全身を刻まれた。あんなの、剣技でどうこう出来る話じゃねえよ」
ヘレボルスの森に程近いアピウムの町の大衆酒場にて、三つ揃えのツイードスーツにハンチング帽、腰には刀を携えた洋装の
最愛の妻を喪って以来酒に
「命の泉とやらには、どう行けばいい?」
「見たところ健康体のようだが、何だい、兄ちゃんも泉の加護とやらで強くなりたい口か?」
「力は間に合っている。私の興味は泉の守護者とやらの方だ。一介の剣士として、不可思議な技を使う剣士の存在は気になる」
「なるほど。物好きってわけだな。まあ、行き方を教えてやらんこともないが……」
そう言って目を細めた猟師の視線は、棚の奥のこの店で一番高い酒へと注がれている。本人的には駄目で元々。手頃な酒をもう一杯奢ってもらえたらそれで十分だと考えていたのだが。
「マスター。この店で一番高い酒をこの人に頼む」
即決して数枚の金貨を取り出す様子に店のマスターや他の客はもちろん、物欲しげだった猟師自身がこの場で一番驚いていた。酔っ払いの戯言に、対価として決して安くはない酒を振る舞う。滑稽な印象が一周回って奇特とさえ思えた。
「兄ちゃん、本当にいいのかい?」
「私は『泉の守護者』に会わなければならない。そのためならば安い出費だ」
「そいつはどうも。申し訳ないから、せめて一緒にどうだい?」
そう言って猟師は、マスターが持ってきたこの店で一番高い酒のボトルを持ち上げて見せたが。
「私は
「ここまでしてもらって案内するだけじゃ恩知らずってもんよ。案内がてら、俺の知っている範囲で色々と教えてやるよ」
満面の笑みを浮かべた猟師はどうせ自分以外は飲まないのだからと、豪快にボトルに口をつけて酒を流し込んだ。
「潰れるなよ。案内出来なくなったら元も子もない」
無感情にそう言うと、自身も腹ごしらえをしておこうと、ダミアンはマスターに軽食を注文した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます