第28話



 俺の教室での立場……特に言うなら、北崎を中心にしたグループに目をつけられていたようだ。

 それは体育の時間だった。

 

 今日はソフトボールで、憂鬱な気分だったのだが、更衣室で着替えているとき、北崎たちに睨まれた。


「おい、おまえ最近調子乗ってるだろ?」

「……いや、別に」

「なんでおまえみたいなのが、真理とか芽衣ちゃんと仲良くやってんだよっ」


 北崎が苛立ったように声をあげる。

 ……えぇ、別に仲良くはしてない。


「ただ、たまたま話す機会があっただけだ。……別にそれ以上、何かあるわけじゃないんだけど」


 北崎の怒りはそれで治まらないようで、小さく舌打ちをした。

 ……とはいえ、授業がはじまるのでそこでいじめも終わりだ。


 ……本当になんだというのか。

 俺は小さくため息をつきながら、去っていく北崎たちを見るしかなかった。


 体育はまず、キャッチボールからだ。二人組を作れという教師の言葉によって別れるのだが、俺の相手がいない。


 ……北崎が仕組んだのか、ニヤニヤとしていた。いや、仕組まれなくてもいつもぼっちだから相手いないんだけどな。


 仕方なく教師とキャッチボールして、その後は試合となる。

 ……そして、いつもの如く外野になった俺は、ボールが飛んでこないことをひたすら祈る。

 しかし……案の定来てしまった。


 ボールの目測を見誤り、思い切りバンザイする。

 もう片方のコートで試合をしていた女子たちのほうにまでボールがいってしまい、俺はもう本当に恥ずかしかった。


 向こうを見ると、すでにランニングホームランしてしまったようだ。向こうで北崎たちが笑っているのが見えた。

 ……だから、体育はきらいなのだ。


 女子のベンチまで転がってしまったボールを取りに行く。

 女子たちもなんだか笑っているような気がする。

 ……久々に惨めな気持ちを味わっているな。


 まあ、昔は毎日のようにこれだったから、慣れているんだけどさ。

 と、八雲がこちらにボール投げてきた。


「ソフトボール苦手なの?」

「……球技全般はな」

「へぇ、そうなんだ。それじゃあ、自慢の身体能力も生かせないじゃん」

「……別に自慢じゃない」


 体力はあるがそれだけだ。というか、他人に見せびらかしてまた悪目立ちしても困るので、あまり目立つような行動はしないでいた。

 彼女からボールを受け取った俺は、それから自分のコートへと戻った。


 ……あー、もうしばらくこの地獄の時間が続くのか。



 〇



「ぶははっ、本当どっかの運動音痴面白かったよな!」

「マジで運動神経悪いよな! あんなみっともねぇ男見たことねぇよ!」


 更衣室で露骨に俺を馬鹿にしている彼らに、小さくため息をつく。

 ……あまり何か言われても気にしない性格だが。それでも、こうも正面から言われるのはな。


 無視だ無視。気にしていてはいけない。

 そう思いこみ、さっさと着替えて教室へと戻る。


 次は昼休みなので、芽衣との昼飯だ。

 体育なんて週に三回程度しかないのだ。いちいち気にしていても仕方ない。 

 教室に戻り、飲み物くらいは持っていくかとペットボトルを掴んでいると、戻ってきた北崎たちがにやりと笑った。


「よっ、運動ダメダメ男。どっか行くのか?」

「……別にいいだろ」

「ほんと、情けねぇよな? 喧嘩とかもしたことないんだろ? 男じゃねぇよ男じゃ」


 喧嘩ならあるが……喧嘩はそもそも自慢にならないからな。

 力でしか解決できなかった、ということの自慢にしかならない。

 八雲たちも戻ってきて、教室へと入ってくる。と北崎が八雲に近づいた。


「なあ、八雲見てたろ? こいつのダメっぷり」

「え? 何が?」

「何って、ほら、オレがランニングホームランしてやったときのことだよ。かっこよかったろ?」

「うーん、別に?」

「……は? はぁ? けど、こいつよりはかっこよかったろ!?」

「いや、別に。ていうか、一輝は運動ができないわけじゃなくて、球技が苦手なだけみたいだし、ね一輝?」

「……はぁ!? 球技出来ねぇ奴が、運動できるわけねぇだろ!」


 北崎がこれほど俺に突っかかってくる理由は、もしかしたら八雲なのかもしれない。

 八雲との仲は以前の一件から微妙なものになってしまったようだが、それをどうにかしたいということなんだろう。


 ……だから、最近八雲が良く関わる俺と自分との間に大きな差があることをアピールして、もう一度自分を見てほしいのかもしれない。


 え、めっちゃいい迷惑なんですけど?

 北崎はまだ腹立たしかったようだが、八雲の微笑の前に目をつりあげる。

 

「ちっ、覚えとけよ!」


 なぜか俺にぶち切れて、北崎は去っていった。

 ……えぇ。俺にどうしろというのだ。

 ていうか、また余計なことに巻き込まれようとしているんじゃないだろうか?


 小さく息を吐きながら、俺は廊下へと出ようとしたのだが、八雲に腕を掴まれた。


「なんで言い返さないの? 絶対、一輝のほうが凄いし」

「……いや人って凄い、凄くないで比べるもんじゃないだろ」


 目立つ人とかはいるけど、そういうものじゃないだろう。

 第一、あそこで変に言い返すってかっこ悪いし。


「……それじゃあ、あーし余計なことした?」

「……言われっぱなしもストレスたまるし……まあ、ちょっとすかっとはした」


 ……ただ、おかげで余計に注目を集めてしまっているけど。


「……とりあえず、俺ちょっと用事あるから。それじゃあ」

「あっ……」


 八雲から逃げるように廊下を走った。

 教師がいれば、注意されていただろうがちょうど運よく誰もいなかった。

 昨日の中庭に行くと、すでに芽衣が待っていた。


 ちょっと不安そうな顔をしていたが、俺を見るとぱっと輝いた。


「兄さん……良かった来てくれたんですね」

「悪いな遅くなって。体育があったからさ」

「はい、校庭で体育していたの見えましたよ」

「……マジか」


 情けないところも一緒に見られたのだろうか?

 ……もうちょっと球技の練習をしたほうがいいかもしれないな。

 練習してどうにかなればの話だが。



 〇



 放課後。

 今日は芽衣は友人と用事があるようだ。八雲に絡まれることもなかったので、一人での帰宅だ。

 やはり一人は良いな。落ち着くわぁー。

 そんなことを考えながら校内を歩いていると、門の辺りに人が集まっているのが見えた。

 なんだ?


「……なんだよあのこ、めっちゃかわいいよな」

「誰か待ってるみたいだぞ? 彼氏とか? 羨ましいなぁ」

「ていうか、あれ元女の制服だよな? ……あの学校の生徒が彼女とか、一体どんな奴なんだよ?」


 元女。うちの高校近くにある女子高だ。

 ……あそこは結構なお嬢様しか通えないらしい。

 俺はそれに対して疑問を抱いている。二枝が通っている学校だからな。

 お嬢様の基準というのは案外軽いのかもしれない。

 俺も野次馬的気分でそちらを見ていると、北崎たちがいた。


「な、な? 一緒に遊びにいかね!?」

「そうそう、オレたち楽しませちゃうぜ!? それに、キミの友達も呼んで楽しくやらない!?」

「女子高じゃ出会いなんてないだろ?」


 ……北崎たちが、その元女の女子生徒に滅茶苦茶絡んでいた。

 ナンパ、という奴か。ある意味見習いたいものがある。

 俺はとてもじゃないが、あんなことはできないからな……。


 彼らを横目で見ながら門の前を過ぎようとしたときだった。


「あっ、すみません……っ。私探していた人が来たので!」

「ちょっ! まっ!」


 ……聞きなれた声だ。

 北崎の声じゃなく、その元女の女子という輩のほうだ。


「先輩、朝ぶりですね! 一緒に帰りましょっ」


 そういって、彼女が腕を組んできた。


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追放物のファンタジーです

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オタクで陰キャでぼっちな俺が、モテるはずがない 木嶋隆太 @nakajinn

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