第27話


 八雲と一緒に廊下を歩いている。

 が、この状況は非常にまずい!


 芽衣も学校では目立つほうだが……八雲はそれ以上に目立つ!

 すでに廊下の視線を一身に集めている俺は、大変居心地が悪かった。

 特に、さっきまで芽衣と一緒にいた場面を見ている生徒もいるようで、嫉妬のような視線が俺に突き刺さっている。


 嫉妬するのはお門違いだ。八雲の狙いは俺ではなく、芽衣なんだからな。

 嫉妬するなら芽衣の方にしてほしい。


「さっきみたけどさ、妹ちゃんと一緒に登校してきてたんだ?」


 ……こいつ。探りをいれてきたな?

 あわよくば、もしかしたら一緒に登校したいとか考えているかもしれない。 芽衣は友達以上の関係になろうとするのなら、敵だと言っていた。


 兄として芽衣を守るという意味でも牽制しておかないとな。


「まあな。たまには兄妹で登校ってのも悪くないと思ってな」

「……ふーん、なるほど。これからも一緒に登校するんじゃない?」

「いや、今回だけのつもりだ」


 どうなるかは分からないが、そう言っておいたほうがいいだろう。


「……そっか。それならさ、あーしとも今度一緒に登校しない?」


 ……は?

 何が狙いだ? ……芽衣と一緒に登校できるか分からない状況でこう聞いてくるなんて。


 ――俺と仲良くなっておけば、芽衣との登校も自然にできる。

 そう言いたいんだな?

 八雲の作戦を見破った俺は、再び牽制しておく。


「俺と登校しても、芽衣はいないぞ?」


 ……これはもはや、喧嘩のようなものだ。

 俺の断言に対して、彼女は――表情一つ乱さない笑顔を浮かべた。


「それなら好都合じゃん。明日、一輝の家に行くね」


 好都合だと!?

 さっぱり分からん。

 少し八雲の狙いを考えてみる。


 八雲の狙い……俺の家に来て、俺と一緒に通うという意味――。

 わかったぞ。

 八雲は芽衣に朝の挨拶をかわすところか始めようとしているんだろう。


 俺を待つということは、つまり芽衣を待つということでもある。

 ……ならば、その対策は簡単だ。

 俺が先に家を出てしまえばいい。

 そうすれば、芽衣と八雲が会うことはなくなる。彼女の計画を崩せるだろう。


 ただし俺は、今日の登校以上の視線にさらされることになるだろうが……。


「……まあ、いいけどさ」

「ほんと!? マジで行くからね? 何時ごろいつも家出てるの?」

「七時半くらいだな」

「そっかっ、それならその時間に家に行くね」

「……おう」


 普段の芽衣が7時20分くらいだからな。これなら、大丈夫だろう。

 廊下にいた生徒たちからこそこそと噂されている。


「なんか、目立っちゃってるねあーしたち。変な誤解とかされちゃってるかも?」


 こいつも人をからかうのが好きだったよな。

 ただ、二枝と同じで悪意満点のからかいではないのはなんとなくわかる。

 ちょっと恥ずかしかったが、俺はそれを表情に出さない。これ以上からかわれても困るからな。


 二枝との訓練でそう言うのは得意だ。ありがとう二枝。初めて二枝に心の底から感謝した。


「誤解、か。八雲は大丈夫なのか? 彼氏とかに何か言われるんじゃないのか?」

「か、彼氏!? あーしそんなのいないんだけど!? どこ情報それ!?」

「……い、いや……見た目から判断したんだけど」


 軽い探りでもあった。

 ……彼氏がいるかどうかはあくまで噂と俺の判断でしかなかった。

 もしも彼氏がいれば、芽衣が狙われる可能性も減るのではないかと思ったのだが、予想以上の反応に驚いていた。


「遊び慣れてないし……っ! 何それ、偏見!」


 ぷくーっと八雲が頬を膨らませる。

 なんなら目じりに涙をためているため、俺はわりと本気で驚いていた。

 ……ここまでの反応をするって昔何か嫌なことでも言われたのだろうか?

 

 トラウマとか刺激してしまったのなら、本当に申し訳なかった。


「……わ、悪い」

「……もう、あーし、今は完全なフリーなんだから。……わかった?」

「あー、わかった」


 ……それってもしかして、芽衣を本気で狙っていますアピールなのだろうか?

 

「だ、誰にだって……こうやって接しているわけじゃないからね。そんな節操なく見える……?」

「いや、見えない……大丈夫だ」

「……いま、みえたんでしょ?」


 ……こいつ、よくわかったな。

 俺が黙っていると、八雲は一度頬を膨らませてから微笑んだ。

 ……誰にでもこうしているわけじゃないか。


 つまり、俺は特別というわけなんだよな。

 その特別な理由は、芽衣がいるから、なんだろう。

 ……難しい話はなしで、聞いてみるか。


「……単刀直入に聞きたいんだが、八雲は芽衣と仲良く……なりたいんだよな?」


 俺の言葉に八雲は一瞬目をぱちくりとしてから、小さくうなずいた。


「まあ……最終的にはその、仲良くしたい、かな。ほら、妹さんなんだし……その、ね?」


 『仲良くしたい』……やはり、そうか。

 八雲の狙いが芽衣で確定した瞬間だった。

 ……けど、芽衣は八雲に友達以上は求めていない。オタクの俺としては、別にそういう世界も全然応援するが、芽衣が望んでいない以上無理強いさせることはできない。


 けど、八雲の本当に仲良くしたそうな雰囲気に……俺も強くは言えなかった。


「……芽衣は、難しいぞ?」

「が、頑張る……」

「……」


 ……諦めるとは言ってくれないのか。

 八雲とともに教室へと入ると、皆がぎょっとした目を向けてきた。

 俺は何も言わず席に座り、八雲は友人たちに合流する。


 「なんで一緒に来たの?」という声が聞こえ、八雲が適当にはぐらかしているのが聞こえてきた。

 ……人付き合いというのは難しい。


 八雲にはっきりと、芽衣は諦めろ、と言えればいいんだが……俺は言えなかった。

 はぁ……ごめんな芽衣。


 俺は心中で謝罪を述べてから、机に突っ伏した。

 周りの雑音が色々と耳に入ってきたが、すべてシャットアウトする。


 本当に、人はうわさ話が好きなんだな……。

 

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もしも時間のある方は、新作の『オタクな俺がポンコツ美少女JKを助けたら、お互いの家を行き来するような仲になりました』も読んでください!


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