第14話


 

「久しぶりに遊園地来たわね!」


 比奈と、もう二人を連れて、あーしは遊園地に遊びに来ていた。


「ま、そうだねー。てか、あーしら女だけとかちょっと寂しいね」


 あーしが冗談交じりにいうと、花奈(はな)がずーんと落ち込んだように肩を落とした。


「す、すまねぇみんな……私が男子苦手なばっかりに……」

「い、いやいいし別に。たまには女子だけで楽しもう」


 あーしがそういうと、ふなもこくこくと頷いた。

 花奈、比奈、ふな……あーしはこの三人をまとめて、はひふ三姉妹と呼んでいた。……別に血のつながりはないのだが、小学校の頃からずっと一緒なのだそうだ。


「私も……うん、女子だけのほうが気楽でいいから」


 ふなと花奈は、あまり異性と関わることが少ない。

 あーしとしては少し心配だけど、ま、いつか好きな人ができたら変わるでしょ。


「……私は、あのカフェの店員さんと一緒が良かったなぁ」

「……比奈、すぐに一目惚れすんなし。この前だって、北崎っていうハズレに騙されそうだったんだし」

「だ、大丈夫だよ! 今度はきっと!」


 比奈は……ふな花奈とちがい、惚れやすすぎる。

 ま、見ていて飽きない子なんだけどね。

 そんなことを考えていたときだった。


 ……けど、カフェの店員って……たぶん、長谷部のことなんだよね。

 あーしもちょっと気になってるんだよね……。

 とか、そんなことを考えていたときだった。あーしの横を一人の男性が過ぎていった。


「え?」

「ど、どうしたの?」


 あーしは驚いていた。あ、あれ……もしかして長谷部!?


「ちょ、ちょっと何でもない……トイレ行ってくる!」

「え? 分かった! じゃあ先にアトラクションのほう言っているね!」


 比奈がそういって、あーしはこくりと頷き、長谷部を探しに向かう。

 は、長谷部……足早すぎ……っ。

 どんどん彼の姿が遠ざかっていく。だが、彼はある自販機の前で足を止めた。

 よかった、ようやく追いつけそうだ。


 追いつく直前で、あーしは手鏡を取り出し、髪を確認する。……問題なし。

 ちょっと行ってこよっか。

 ……あ、あれ……あーし、凄いドキドキしてる。

 ふ、普段クラスの男子相手にこんなこと考えたことないのに。


 助けてもらったときのことを思い出し、さらに頬が熱くなる。

 そんなことをしていると、彼がこちらを見た。

 ……間違いない、長谷部だ。


「は、長谷部……だよね?」

「……あ、ああそうだけど……八雲か? こんなところでどうしたんだ?」


 それはこっちの台詞だ。

 ……だって、長谷部って普段外に出ないようなタイプだし。

 なんでここにいるのかって、凄い気になってしまった。


 長谷部の情報は色々と調べがついている。


 あーしはここ毎日のように長谷部を見ている。特に下校時に関しては、なるべく様子をうかがうようにしていた。

 ……その結果長谷部一輝に彼女はいないことがわかった。


 というか、学校の誰とも関わりがない。基本一人なのだ。わーいわーい! あーしにもチャンスがあるー!

 そんな風にあーしは喜んでいたのだ。


 ――少なくとも、カフェ以外には。

 そう、警戒するべきはこのカフェだ。

 長谷部は……学校とカフェではまるで別人だった。


 以前、担任との面談があったとき、あーしは色々と話をした。

 『学校だけの関係がすべてじゃない。将来を見据えるなら、アルバイトなり、ボランティアなり……外との関わる機会を持ったほうがいい。おまえの社交性が満点じゃない理由だ、八雲』、と。


 確かにあーしはそういうことは一切してこなかった。

 あーしにとっては、学校のカーストのトップにいることがちょっとした自慢だったから、ちょっとむっとしたものだ。


 けど、長谷部のように……学校以外で楽しめる場所を持つというのも、いいな、と思ってしまった。

 カフェでの長谷部は……結構カースト上位のグループにいるようだった。


 長谷部はカフェで一番人気といわれる店員と仲が良いのだ。その彼女さんという人ともだ。

 ……まあ、これはその彼女さんに直接聞いたことがあるからだ。……伊藤、さんだったかな?

 

 あーしが、長谷部をじっと見ていたのを指摘され、あーしがげろった。

 そしたら、伊藤さんが色々と教えてくれたのだ。


 彼はペットボトルを二つ持っていた。

 ここから予想ができるとすれば、いくつかある。

 ……まず長谷場は妹がいて、それなりに仲が良いみたい。


 つまり、妹と一緒に遊園地に来ているか。

 もう一つは、カフェの人気の店員さんと一緒か、だろうか?


 最後は……二枝二葉。

 あーしが何度かカフェに通ってわかったことは、二枝二葉は長谷部を狙っている、ということだった。

 あーしとしては、妹か人気の店員さんと一緒あたりだったらほっとできる。


 聞いてみる、しかない。


「こんなところでっていうのは、こっちの台詞だし。学校と全然様子違うじゃん? なに? 彼女とデートとか?」


 ……ただ、あーしはこんな聞き方しかできない。

 ……だって、あーしの本心が悟られたら……嫌だし。告白は……されたい、し。


「いや……別に」

「けど、誰かと一緒にいるんじゃない? 二つも飲まないっしょ?」


 あーしがペットボトルに指を向けると、長谷部はしまったという顔をしていた。

 ……しまった? やっぱり、もしかして女性と一緒にいるのだろうか?

 ……そんな顔をする相手で、まさか妹が出てくるはずがない。


 となれば――。


「あれ? 先輩? そちらの女性は?」

「……」


 その声は何度かカフェで聞いたことがある。

 あーしが顔を向けると、そこには二枝二葉がいた。



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