第21話
二枝を連れたって、家へと戻った。
二人はリビングに案内して、スーパーで買ったものを片付けていく。
それも終わったし、俺はもうここにいる必要もないんじゃないだろうか? そう思い、部屋へと戻ろうとしたが、芽衣に腕を掴まれた。
「兄さん、聞きたい事があるのでまだ残ってください」
「え、俺もなのか?」
「はい」
そういって芽衣に引っ張られるままにソファへと行き、俺と芽衣が並んで座った。
八雲と二枝がこちらをちらと見てくると、芽衣は俺の腕をぎゅっと掴んできた。
……普段では考えられないほどに距離が近い。
芽衣の表情は少し不安げだ。……まあ、二枝はともかく八雲は自分の学校の上級生だもんな。
「それで、聞きたい事ってなんだ?」
「……ゴールデンウィーク。兄さんと二枝さんは……一緒に遊園地に行ったんですか?」
……その話は八雲と昼を食べたときにもしたが、改めて二枝の口からききたいということだろうか?
確かにそれならば、俺と二枝の二人に質問をしたいという理由もわかる。
「はい、行きましたよ。ね、先輩」
「ああ、まあな」
別に隠すことでもないしな。
俺たちが頷きあうと八雲と芽衣の表情が変化した。
「そ、それで何をしたんですか!?」
「……芽衣、落ち着いてって」
八雲が芽衣をなだめるように声をかける。芽衣はこくこくと八雲の声に従い、深呼吸をしていた。
……あれ? 二人の距離が縮まってる?
というか、何をしたって……別に普通にアトラクションに乗っただけだよな?
俺が確認するように二枝を見ると、彼女がこくりと頷いた。
にやっと、口元が歪んだのが見え、あっ、こいつ余計なことをいうかも、止めないと……とおもったときには二枝はすでに口を開いていた。
「先輩と私はただ普通に遊園地デートを楽しんだだけですよね?」
「で、ででで!?」
芽衣がおぼれたような声をあげ、八雲がばっとこちらを見てきた。
「デートって……一輝、そうなの!?」
「……デートじゃなくて普通に遊びにいっただけだ。嘘言うなよ二枝」
「えー、嘘って私との関係は遊びだったんですか?」
「関係はただのバイト先の先輩後輩ってだけだろ?」
俺が真実だけを伝え、この場をかき乱そうとしている二枝を睨んだ。
彼女は少しだけむっと頬を膨らませ、
「けど、先輩から手を握ってきてくれたじゃないですか」
「だっ!?」
芽衣が餌を求める金魚のように口をパクパクと動かしながら、俺を見てきた。八雲もまた驚いたような顔だ。
そして……おい、なんで二枝は勝ち誇ったような顔をしているんだ。
……こいつ、そんなに俺をいじめて楽しいのか!?
「手を握ったのは……まあ事実だけど……」
「事実なんですか!? そ、それはどちらから何ですか兄さん!」
「一輝先輩からですっ」
「兄さん!?」
ジャッジを求めるように八雲と芽衣がこちらを見てきた。
……いやまあ事実はそうなんだけどな。
「俺から手を握ったのは確かだが――」
「兄さんっ!」
芽衣がすがるように俺の腕を掴んできた。今にも泣き出しそうな顔である。
い、いや……最後まで人の話を聞こうなおまえ。
「ただ、条件をつけられたんだよ。……その前まで散々絶叫系マシンばっかり乗せられてな、疲れてたから落ち着けるお化け屋敷を提案したら、手を握ってくれるならって言われてな」
「それで先輩は私の手が握りたくて了承したんですよね?」
「余計なこと言わないでくれる? そんな事実は欠片もないからな」
……誰が女子の手を握りたいというのか。緊張ばっかして無駄に疲れるだけだっての。
俺の説明を聞いて、多少納得したようで芽衣が落ち着きを取り戻した。
……まったく、散々に場をかき乱してくれやがって。
次に口を開いたのは八雲だ。
「他には何もなかったの?」
何もなかったって……何かあってたまるか。
「俺たちはそのまま普通に一日遊んだだけだ。……というか、バイト先の先輩も一緒だったから午後からは合流して色々回ったんだ。……だから、特に楽しいような話はないぞ? そもそも、俺たちには親しい関係があるわけじゃないんだからな」
……八雲がここまでついてきたのは、俺と二枝の関係を暴き、学校で話のネタにしたいからなんだろう。
悪いが、これ以上悪目立ちはしたくない。二枝のような可愛い相手と付き合っている、なんて噂になれば俺に対して不当に恨みがぶつけられることだろう。
なんとしても、その事態を避けるためにそういったのだが……なんか二枝が露骨に不機嫌になったな。
これは二枝を守るという意味もあるんだから、その態度はよくわからない。二枝だって、俺と噂になったら嫌だろう。彼女が通っている女子高もわりと近くにあるんだしな。
「親しい関係はない……ね。まとめると、今一輝は……完全なフリーってことだよね?」
……なにフリー? 俺は誰かからパスでもうけるのか?
「付き合っている人とかいないんですよね、先輩?」
「兄さん、いませんよね?」
……ああ、そういうことね。こいつら、そんなに俺の恋バナをしたいのか?
俺のこの見た目で誰かと付き合っているはずがないだろう。
年齢=彼女いない歴だ。きっとこの先もこれを継続していくはずだ。
いつかは魔法使いになって、メ〇くらいは打てるようになるかもしれない。
恋バナするにしたって、相手を選んでほしいものだ。誰が俺の話しで盛り上がるというのか。
それとも、いかにもなオタクで静かな人間が一体どんな相手と付き合うのかとかは需要があるのだろうか? 見た目の通り、誰とも付き合っていませんよーだ。
女子高生ってのはよくわからん。ソファに深く腰掛けてから、頷いた。
「ああ。まったくもってそんなことはない」
そういうと、三人は揃ってほっと息を吐いたようだった。
「まあ、そういう話ならまあいっか」
「……そうですね。とりあえずは……お互いにこれからに期待するといいますか」
「……ですねっ。私は譲るつもりはありませんから!」
二枝がそういうと八雲が腕を組み、芽衣もきっと目を細めた。
「あーしもだし」
「わ、私もです」
……三人の中で何かの話しがまとまったようだ。
さっぱり話が見えてこないが、もう俺は用済みでいいだろうか?
「話が終わったのなら、暗くなる前に帰ったほうがいいんじゃないのか? 最近は物騒だしな」
「そうね……それじゃ、あーしはそろそろ帰ろうかな」
「私も、色々聞けて満足しましたし……一輝先輩の部屋にお邪魔するのはまた今度にしますねっ」
え、次もあるのか? 不穏な言葉を残していった彼女らを、玄関まで見送っていった。
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もしも時間のある方は、新作の『わがまま幼馴染と別れた途端、何やら女子たちの目の色が変わりましたよ?』も読んでくれれば嬉しいです。
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