第17話


 ……私と兄さんのラブラブ計画その一。

 まずは学校から関係をアピールすることだった。


 滅茶苦茶緊張していた。

 ……私、外ではほとんど兄さんと関わっていないから。


 いや、遊びにはよく一緒に行っていた。ゴールデンウィーク最終日だって、兄さんに誘ってもらったし……ふへへ。

 けど、そういうときの兄さんと学校での兄さんは違う。


 学校での兄さんはうまくオタクっぽく擬態している。いや、実際オタクなんだけど……とにかく、私としては目立たない見た目をしてくれているから凄い安心していた。

 だって、兄さんの本当の魅力に気づく人がいないからだ。だから、兄さんにはあのままでずっといてほしいと思っていたけど……今はそれは関係ない。


 凄い緊張して、一緒にお弁当を食べようと誘った私は――なぜか一緒についてきた八雲さんに驚いていた。

 ……何こいつ? 私こんな追加注文はしてない。


 私のオーダーは兄さん一人だけだ。

 八雲さんはついてくるのが当然とばかりに私たちと一緒に歩いていた。

 ……それになんだか、私に対して変な目を向けてくる。

 

 というか、滅茶苦茶目立つ容姿をしていて、廊下を歩いているときも周りの視線がビシビシと突き刺さってきた。

 ……本当になんなのこの人?


「いやぁ、一輝にこんなに可愛い妹さんがいたなんて驚いたし。芽衣、って言うんだね」


 な、なに気安く、か一輝……って呼んでいるの!? 私だって兄さん以外で呼んだことないのに……っ!

 私は彼女を敵と認識した。

 ……よく見れば、八雲さんの兄さんに向ける視線は……女のそれだ。メスの臭いだ!


「……ああ、そうだけど……なんで八雲は一緒に来たんだ?」

「いいじゃん別に……それに、この前の遊園地の話もしたかったしさ」


 ゆ、遊園地!? それってゴールデンウィークに行ってきた奴で間違いない!?

 ま、まさか……八雲さんが一緒に行った相手? じ、実は敵は学校内にいた?


「……あー、あれは」

「一応、ほら……クラスで色々話したら、嫌だと思ったから一応気を遣ってたんだよ」

「……まあ、それはそうなんだが……だからって……ある意味いますげぇ目立っているっていうか……」

「ま、そうだよね。両手に花って感じ?」


 勝手に自分を兄さんの花に収まろうとしないでくれます? 私はいいですけど、私はいいですけど……っ。

 私は笑顔が引きつっているのを自覚しながら、兄さんとともに中庭へと移動した。

 空いていたベンチに座り、私は弁当を広げる。


「八雲さんは弁当じゃないんですよね? 大丈夫ですか?」

「あっ、あーしはもう軽く食べてるから大丈夫だし」

「そうですか。……それじゃあ、兄さん。こちら今日の弁当になります」


 ……本当は朝から用意してあったけど、この作戦のために私は作っていないと嘘をついた。

 嘘をついてごめんなさい兄さん。けど、これは必要な嘘だったんです。


「……ああ、ありがとないつもいつも」

「気に、しないでください。兄さんのお弁当を作るのは私の仕事ですから」


 私は、ふふんとアピールする。ちらと見ると八雲さんが、顎に手をやっていた。


「いつも作っていたら大変じゃない? 今度あーしが作ってこよっか?」


 なに言っているのこの人!?

 やっぱり絶対兄さんに気がある! 危険危険!


「……は? いやいや、八雲が俺に作る理由はそれこそ欠片もないんじゃないか?」


 そうだそうだ! 兄さんもっと言ってやれ!


「……いや、その芽衣が大変そうだしね。それに、ほら、一輝だってあーしの手料理食べられるんだよ? 一石二鳥じゃない!?」


 まったくもって論理だっていない! 私別に大変じゃないし。

 そこで兄さんが考えるような仕草を見せる。に、兄さんまさか……私の負担を気にしてくれているの?

 それはとてもとても嬉しいけれど、私は慌てて首を振った。


「兄さん、私は大丈夫ですから。八雲さんも、余計なこと言わないでください」

「……」


 八雲さんがじっとこちらを見てきた。

 ……少し、強く言い過ぎただろうか?

 けど、線引きはしておかないといけない。

 私の兄さんを守るために……っ。


 八雲さんがじっとこちらを見てきたので、私は兄さんとの距離をわずかにつめる。

 それから私は自分の弁当箱を広げ、おかずを一つ箸で掴み、兄さんに向ける。


「兄さん、はい。どうぞ」

「……いや、俺まったく同じ弁当があるんだけど」

「い、いいですから……ほら、兄さん食べてください」


 ……滅茶苦茶恥ずかしい。

 だが、ここで八雲さんにアピールをしておくしかない。

 兄さんは少し困った様子でいたが、すぐに私の差し出したおかずを食べてくれた。

 兄さん……。

 私は天にも昇る心地でいたが、ここでトリップしている場合ではない。八雲さんの反応を見ると、驚いたような悔しそうな顔になっていた。


 ……やっぱり、そうだ。確信した。


「そういえば、八雲さん。遊園地の話と言っていましたけどそれってなんですか?」

「え? あ、あー……そうだった。けど、その前に一つ質問してもいいかな?」

「なんでしょうか?」

「……二人は、兄妹、なんだよね?」

「はい、義理の、ですけど」


 私がにこりと微笑んでそういうと、八雲さんは露骨に表情が変化した。


「ぎ、義理のなの……?」

「はい。義理ですから結婚とかしても問題ないですね。ね、兄さん」

「……一応はな。ま、妹相手に結婚はしないが」


 に、兄さん……っ。

 八雲さんに大ダメージを与えたようだ。私もだいぶ今ので削られたけど、痛み分けだ。


「それで、八雲さん、遊園地というのはなんでしたっけ?」


 私がそう訊ねると、八雲さんはちらと兄さんを見た。


「……いや、その。カフェの後輩さんだっけ? その子と一緒に遊園地に遊びに行ってたんだよね。そこであーしがたまたま通りかかったんだよね」


 な、なに!? カフェの後輩って家まで見送る仲の!?

 兄さんはあまりその話はしたくなかったようで、表情が険しかった。


「……に、兄さんどういうことなんですか?」

「……いや、その。別に隠すつもりじゃなかったんだけど、まあ、一緒に行ったんだよ。っていっても、先輩に誘われて、それでたまたま席が二つ余っていたから、俺たちが行っただけだ。別に変な関係はないからな? ほんと、あんまり変なこというと二枝に迷惑かかるから……マジで勘弁してください」


 兄さんがすっと私と八雲さんに頭を下げていた。

 二枝……二枝……。確か兄さんの部屋に貼ってあるシフト表にあった名前だ。

 二枝……二葉だ。うん……よく兄さんと一緒のシフトに入っていたから、警戒していた一人だ。


 ま、まさか……すでに遊園地デートまで関係が進んでいたなんて。うらやま――じゃなくて油断した……ッ。





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