第24話



 ……私は滅茶苦茶映画が怖かったのもあるけど、これは良い機会なのでは? とも同時に思った。

 だって、私が何かしたいときに映画を理由に兄さんにくっつくことができるからだ。


 ……映画を見ているときは二つの意味でドキドキだった。

 兄さんにくっつけてうれしかったことと、映画が単純に怖かったことだ。


「兄さんは別に干さなくてもいいですよ?」

「いや、さすがに一緒にいて何もしないのはな……干せるものだけほしていくから」

「……わかりました」


 ……確かに私も逆の立場だったら手持ち無沙汰になるのできっと同じように申し出る。

 けど、私としては兄さんに家事を覚えてほしくなかった。

 

 だって、私は兄さんのお世話が好きだったから。それに、兄さんが一人でなんでもできるようになってしまったら、いよいよ私が必要なくなってしまうからだ。


 弁当とかだって作れるようになったら、私は必要ない。

 ……だから、私は兄さんにできる限り何もさせないようにこれまでしてきた。

 弁当……かぁ。


「兄さん、明日も一緒にお昼食べてもいいですか?」


 拒絶されたらどうしようか。そんな緊張が私の中にあった。

 今日の昼休みだって、兄さんに嫌がられたらどうしようという気持ちがあった。

 けど、ああでもしないと、ほかの人に兄さんをとられてしまうと思った。


「まあ、別にいいけど……友達といつもは食べてるんだよな?」

「はい」

「そっちはいいのか?」

「大丈夫です。兄さんと食べると伝えていますから」

「……それで友達何か言ってこないのか?」


 特に言われたことはない。 

 兄妹仲良くてうらやましいとは言われたことがあるけど。


「大丈夫ですよ?」

「それならいいけど……それじゃあ、集合は中庭でいいか?」


 それは……良くない。


「……兄さんの教室まで迎えに行きますよ? そ、その……周りにアピールにも、なりますし……」

「そんなアピールしたっていいことなくないか?」

「あ、ありますよ!」


 大いにある! だって、あの教室には八雲さんがいる。

 私と兄さんがただならぬ関係であるとアピールできなければ、八雲さんが兄さんにぐいぐいと迫るかもしれない。

 それを避けるために、私がいる。


「けど、また八雲がついてくるかもしれないぞ?」

「中庭にしましょう」


 アレがついてきたら、せっかくの兄さんのお昼ご飯の時間が台無しになってしまう。

 ……周りへのアピールよりかは、そっちのほうが優先だ。


「それじゃあ、そろそろ寝るかね」

「……そうですね」


 兄さんとともに二階へとあがり、別れようとしたときだった。

 ……ベッドの下からはいずり出てきた幽霊を思い出し、私は兄さんの腕をつかんだ。


「な、なんだ!?」

「に、ににに兄さん……っ。ひ、一人で寝るの……無理です……」

「いや、さすがにそれは俺にもどうしようもないぞ?」

「い……い、一緒に、寝てくれませんか?」

「はぁ!?」


 兄さんが驚いたように声をあげる。……い、今私がとんでもないことを言っている自覚はある。

 さすがに私もそこまでやるつもりはなかったっ。だって、兄さんが突然狼になって私に襲い掛かったらどうする?

 子どもは何人できるの? 名前は? まだそういったことまで考えていない!


「……っていってもな。さすがに一緒に寝るのはな。おまえのベッドも俺のベッドも一人用だろ?」


 ……兄さんは時々、ずれた発言をする。

 天然ボケなタイプなんだろう。そういうところがまた可愛らしくもあった。


「……そうですね。それでしたら、母さんと父さんが使っているベッドにしませんか?」

「シーツとかはあるのか?」

「はい。わりと定期的に洗っていますので、問題ないです」

「……はぁ、まあそれならいいか」


 い、いいんだ。

 兄さんはまんざらでもなさそうな顔である。

 ……や、やっぱり、私が一番兄さんと距離が近いんだと思う。

 

 すぐに両親の部屋へといき、ベッドにシーツをしいた。

 ……思っていたよりも大きい。二人が横になって寝がえりをうってもぶつからないようなサイズだ。


 兄さんはここで誕生したのだろうか? いやいや、何馬鹿なことを考えているの私!


 私と兄さんは枕をとりに部屋へと戻る。

 ……もちろん、怖いので一緒にだ。

 兄さんはパジャマに着替え、枕を脇に挟む。私も同じくパジャマと枕を回収し、両親のベッドへと向かう。


 私たちはそこで横になる。兄さんが電気を消し、私は……心臓がバクバクとはねていた。

 ……兄さんも同じように緊張してくれているのだろうか?


 気になって寝がえりをうち、兄さんのほうを見る。兄さんはまっすぐ天井を見て、すでに目を閉じてる!


 わりといつも通り! ……私ばっかり意識しているということだろうか? もう、兄さんの馬鹿!


「に、兄さん……」

「なんだ?」

「……なんだか、最近の兄さんって……変わりましたよね」

「……そうか?」

「……そうですよ。だって兄さん女性が苦手だったじゃないですか」


 今まではあんなに女性に近づかれるだけで、気分悪そうにしていた。

 けど今はそれなりに普通に接していた。


「……まあ、バイト始めてから色々とな。……さすがにいつまでも今のままじゃまずいしさ」

「……そうですけど。なんだか、兄さんが遠くに行ってしまった気分です」

「……そうでもないだろ」

「そうでもあるんです」


 ぶすっとして返すと、兄さんがこちらを向いた。

 これから寝るということなので、もちろん兄さんは眼鏡をはずしていた。

 ……だから、いつも以上にどきりとさせられた。

 

「別に俺はいつも通りだ」

「兄さん……モテモテじゃないですか」

「それこそ、そんなことないだろ……」


 兄さんは疲れたような顔で息を吐いた。 

 ……いやいや、あの状況は誰がどう見てもモテモテだと思うはず。

 

 兄さんは一度あくびをしてから、目を閉じた。


「悪い、もう眠いから……寝る」

「……はい、おやすみなさい」

「おやすみ」


 兄さんはそういって、すぐに目を閉じた。

 私は兄さんの寝息を聞きながら、小さく息を吐いた。

 ……今までみたいに接していたらきっと兄さんは誰かのものになっちゃう。


 それは、嫌だ。……私も負けるわけにはいかない。

 これからは、今まで以上に兄さんにアピールしないといけない。

 ……頑張らないと。

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