第41話 夕食の時話そうとしたこと 

 俺たちは車で実家に向かい、今到着した。俺の車の音で察知したのか、家の中から母が満面の笑みで出てきてくれた。俺達も車から降りた。たえみさんは兄貴の次に降りた。


「オッス! 母さん」

「亮! 晃! 来てくれたね。そちらにいるのは?」

「おれの彼女だ」

たえみさんは一歩前に出て、

「初めまして。大山たえみといいます」

と、母に丁寧に挨拶をした。

「あら、亮の彼女かい。初めまして。亮と晃の母です。」

母も丁寧に挨拶してくれた。

「亮とはしばらく会っていなかったけど元気だった?」

「ああ。この通り元気だ。母さんは?」

母さんはドヤ顔で、

「元気に決まってるじゃない! まだまだ、若い者には負けてられないよ」

そう言って皆で爆笑した。


「外で話すのも近所迷惑だから家の中に入りましょ」

母さんはそう言い、皆、家の中にぞろぞろと入った。


「今、飲み物用意するから座ってて」

と母さんが言うと、

「あっ! 俺たちも買って来たんだ。車から降ろすから、母さんそれ飲もう」


俺は、車に戻り重い買い物袋2つを持って家の中に戻った。

「持って来たぞ。重い……」

母がやって来て1袋持ってくれた。

「サンキュ!」

「あら、ずいぶん重いのね」

母さんの袋の中には肉類が入っている。


「あっ!」

兄貴が大きな声を上げた。

「どうした?」

「野菜買ってくるの忘れた」

「野菜なら家にあるよ」

母さんがそう言うと、

「良かったー。すっかり頭から抜けてた」

そう言ってたえみさんは笑っている。


「ホットプレートあったよな、母さん」

母さんは指を差しながら、

「物置に入ってるよ」

俺はそれのある場所を知っているから取りに行った。

「あ、晃なら知ってるね」

と、母さんは言った。俺は乱雑に置いてある物置の中からホットプレートを取り、台所のテーブルの上に置いた。しばらく使ってないから埃が溜まっていたので母さんに言って洗ってもらうことにした。


本当は麻沙美とさくらちゃんも来て欲しかったけど、無理にとは言えない。

「そういえば、お前の彼女来ないのか?」

「え? 彼女? 晃に?」

母が敏感に反応した。

「兄貴。ここで言うなよ」

「じゃあ、どこで言えっていうんだ」

「母さん、今のは無しだ」

母さんは笑みを受けべながら、

「あとでじっくり聞かせてもらうわ」

と言った。俺はすかさず、

「いやいや、いいよ。兄貴余計なこといわないでくれ」

俺は焦りまくった。


「母さん、食事しながら話したいことがあるんだ」

「うん、聞くよ。いい話であれば」

兄貴はもったいぶっているのか黙っている。たえみさんは黙っている兄貴を見詰めている。何か言いたそうだ。でも、何も言わない。


母はこんにゃくに白菜、椎茸などを切り始めたようだ。俺らはジンギスカンとカルビ、焼き鳥のパックを包んでいるラップをはがした。うわ、うまそ! と兄は言った。俺は黙って見ていて、たえみさんは半笑いで白い歯を見せている。




 食事も終わり兄貴は一人でビール6缶空けたのでへべれけになっている。俺は運転があるから飲めないし、母はアルコールは飲まないし、たえみさんもアルコールは苦手と言っていた。たえみさんは、飲めないと言っていたから。それにしても見事に完食した。旨かった! 焼き鳥は塩コショウをふって食べたし。カルビはタレ付きだった。ジンギスカンは買ってきたタレをつけて食べた。絶品だった。たえみさんも満足そうだ。


「たえみさん、ジンギスカン美味しかったですね!」

「そうですね! また食べたいですね」

俺は笑みを浮かべながら、

「食べるのに皆夢中で兄貴との関係の話できなかったですね」

と、言った。

「そうですね。でも、明日でもいいので」

たえみさんは少し残念そうに見えた。今日、兄貴から話があると思ったからだろう。母も訊いてこないし。忘れているのだろうか。いやいや、母のことだからそれはないだろう。食べる前に少し話してたし。


今は深夜11時を過ぎたところ。兄貴はまだ居間で寝ている。母は片付けが終わったのでテレビドラマを観ている。俺は疲れたから居間にある黒いソファに座って休んでいる。たえみさんは母と一緒にテレビを観ている。不意に、

「たえみちゃんは亮と付き合ってるの?」

「あ……。はい。お付き合いさせていただいてます」

「本当は、亮から聞きたかったけどこの有様だし」

たえみさんを見ていると苦笑いを浮かべている。それもそうだろう、こういう場合は男から話すのが筋ってものだろう。

「詳しいことは亮に訊くけど、東京からわざわざ来たということは大切な話があって来たんでしょ?」

「まあ、そうですね」

母は笑みを浮かべながらたえみさんに訊き、たえみさんは緊張している様子。

「兄貴、寝てるけど俺の部屋に泊まる予定だったんだ」

「そう。まあ、今夜は泊っていきなさい。人数分の布団はないから雑魚寝になるけど。さすがに、たえみちゃんを床で寝かせるわけにいかないから、わたしの布団以外にもう1組あるからそれで寝てね」

「はい!」

母は兄貴の横に布団を敷いた。たえみさんのために。それから、俺と兄貴のために毛布を2枚持ってきて1枚を兄貴にかけて、もう1枚を俺に寄越した。

「ストーブはたいたままにしておくから寒くはないと思うよ」

「ありがとうございます」

と、たえみさんは母にお礼を言った。母は何も言わなかった。きっと、たえみさんのことも悪くは思ってないだろう。そんな気がする。


俺も今まで頑張ってきたから朗報を母に伝えたい。でも、それは今じゃない。

もうしばらく経ってからだ。













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