第11話 過去の女たち

 今日は仕事だ。昨夜の幻聴も治まり、なんとか出勤できた。昨夜、あれから執筆したけれど、思うように進まなかった。今夜でも帰宅したら書こう。今から楽しみだ。気分はまるで小説家のようだ。


 仕事をしながら夢に出てきた例の茶色の髪の女のことを思い出した。俺は副店長の福原さんにちょうどおたがい事務所にいたので訊いてみた。


「福原さん、訊きたいことがあるんだけどいいかな?」

 俺は機嫌よく笑顔で話した。


「なんです?」

 彼も俺に釣られたのか、笑顔になった。


「昨日、俺の夢に出てきた茶髪の女、店に来た?」

 福原さんは昨日は仕事だったので来たかどうか知っているはずだ。


 少し考えてから、

「いや、昨日は来てないですね」

 それを聞いて俺は残念に思った。

「そうなんだ。わかった」

 俺のテンションが下がったのを感じたのだろう、彼は、

「その内来るんじゃないですか?」

「まあ、長い目で見るか」

「その方が良いですよ」

 そうだなと、俺は納得した。


 俺は売り場に出た時、毎回のように例の彼女がいないか見渡した。でも、いなかった。俺は溜め息をついた。さっき、長い目で見ると言ったばかりなのに、もうこれだ。自分に呆れる。


 俺としては探しようがないから、この店で待つしかない。それが歯痒い。もう来ることはないのだろうか。


 俺は窓の外を見ながら黄昏ていた。勤務中に事務所で過去に付き合ってきた女を思い返していた。俺は今年で41歳になる。今までで5人の女と付き合ってきた。

最初は、高校2年生の時。相手は1年生。1年付き合って、向こうが俺に興味が無くなって振られた。2人目は、21歳の時。あの頃は俺もチャラくて、海で出会った2人の女の内の一人と付き合った。その女は年上の25歳だった。出会ったその夜に抱いた。それから付き合い出したが一年ともたなかった。結局、浮気されて、別れを切り出された。相手の男とは本気になってしまったようだった。3人目は友達の紹介。26歳の時。相手は19歳だった。相手は未成年だったが、外見が凄く可愛くて惚れてしまった。こいつとは2年付き合って、結婚しようかと話していた。だが、不幸なことに彼女は交通事故に巻き込まれてこの世を去った。俺は毎日のように悲しい気分で過ごしていた。その時はさすがに麻沙美に話しを聞いてもらった。聞いてもらいながら泣きたいだけ泣いた。彼女は沢山励ましてくれた。有難かった。


 それから2年が経ち、心の傷も癒えて新しい出会いがあった。4人目は30歳の頃。ネット恋愛だ。俺は北海道に住んでいて、相手も同じく北海道の女。20歳の女だった。何度もツイッターでやり取りし、ようやく逢うことが出来た。顔写真は見たことがあったので、俺の地元で会った。その子は、いろんなことに強欲で性欲も強かった。一回目、会っただけで「いいことしないのぉ?」と甘えた声を出して俺に近付いた。俺もその気になり、抱いた。避妊はしたものの、あとになって「あなたの子どもが出来た」と言われた時には驚いた。俺は籍を入れる覚悟を決めて、「産んで欲しい」と伝えると、「は? 産むわけないじゃん」と言われ、あっさり俺の意見は却下され、すぐに中絶した。費用を請求されたので、仕方なく支払った。産まない理由は、もっといろんな人と遊びたいから、だという。俺はそれを聞いてショックを受けた。もう二度と会いたくないと思った。でも、彼女は執拗に連絡を寄越した。徐々に嫌いになったので思い切って、「君のことは嫌になったから、もう連絡してこないでくれ!」と強い口調で言った。何で? と、驚いた様子もなく訊かれたので、「嫌なものは嫌なんだ。君の行動や言ってることが」。そう言うと、「は? あたしを抱いといて、子どもまで作らせて何言ってんの? 離さないよ」そう言われ、困ってしまった。変な女に絡まれたな、と思った。でも、暫くこちらから連絡しないでいると、自然と向こうからも連絡は来なくなり、付き合いは途絶えた。この四人目の女が厄介だった。今は一切、連絡はこないけれど。


 そして、最後に付き合った五人目の女は心の病を持つ、病院で知り合った女だ。その人は2歳年上で、38歳だった。彼女は、うつ病を患っていて子どもが2人いた。ちなみに、1人目は19歳で女の子を出産したらしく、2人目は21歳の時にまた女の子を産んだようだ。当時は生活保護を受けていて1人暮らしだったが、1人目を出産した後、旦那のDVと浮気で離婚したらしい。俺は最初、子どもがいることは知らずに付き合っていた。子どもの親権は父親にあったから同居していないのは当然だな、と後になって思った。最初、彼女との関係は良好で、肉体関係もあった。しかし、ある日、男性が彼女の自宅に俺がいる時やって来た。元旦那だった。すぐに因縁をつけられた俺はそいつに何の理由もないのに殴られた。理不尽さを感じた俺は頭にきて殴り返そうとしたが彼女に止められた。しかも、子どもの前で。呆れ返った俺は、後から事情を彼女から聞いた。ヤクザだという。俺は、そういう関係の人間は苦手なので、繋がりのある彼女とも付き合いづらくなり、結局別れた。別れを切り出したのは俺の方からだ。その時、彼女はすまなそうな顔をしていた。


 俺の恋愛はそこでストップしている。今は誰とも付き合っていない。気になるのは夢に出てきた茶色い髪の女の存在のみだ。もっと、出会いを俺は求め出している。小説新人賞と女。俺は今、それを求めている。

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