第15話 彼女との時間

 麻沙美との交際をスタートさせた俺はその夜、彼女を抱いた。もちろん同意の上で。

 時刻を零時を過ぎていた。麻沙美は俺との情事が終わった後、こう言った。

「なかなか上手じゃない」

「そうか?」

 麻沙美は苦笑いを浮かべながら、

「あたし以外の人と関係もってたの?」

 俺は慌てた。

「そんなことはないよ。俺はただ女が好きなだけだ」

「そう。病気があるのに凄い意欲的ね」

 声を出して俺は笑った。俺と麻沙美はまだ裸のままだった。

「そろそろ帰らなくちゃ。さくらが待ってるから」

言いながら下着を身につけ始めた。

「帰るんだもんなー。仕方ない、送るよ」

麻沙美はくしゅ、と笑いながら、

「もしかして、帰って欲しくないの?」

「いや、そんなことはないよ」

 と、平然を装って言った。

「なあんだ、あたしの勘違いか」

 麻沙美は照れくさそうに笑っている。

「冗談だよ、冗談」

 俺は可愛いところもあるじゃないかと思って笑った。言ってはいないけれど。

「もう! 冗談かぁ」

 と、苦笑いを浮かべている。


 服を着て帰宅する準備を整えて、

「行こうか」

 そう言った。

「うん、よろしく」


 車中で俺は、

「帰ったら小説書くかな」

 独り言のように言うと、

「よく書けるよねー、凄い!」

 俺は得意気に、ふふんと、鼻をならした。

「いやあ、凄くはないよ。俺、そういうのが好きなだけだから。サンキューな」

 俺は嬉しくなった。

「あたしは思ったことを言っただけだから」

「麻沙美は昔から正直者だよな。嘘つかないな」

 助手席に座っている女は考えている様子。

「嘘はつくよ。嘘も方便って言うじゃない」

「良い嘘ってやつか?」

「そうね」

 なるほどな、と思った。

「さすがだな。頭の出来が違う」

 彼女は、ふふっと笑った。

「そんなことないよ」


 話している内に、彼女の住んでいるアパートに着いた。麻沙美親子は二階にいる。

以前、聞いた話しだと防犯上、2階に引っ越したと言っていた。

「到着」

 単語だけ発した。

「ありがとう!」

言いながら、麻沙美はシートベルトを外して、

「明日は仕事?」

 と、訊いてきた。

「仕事だよ」

「そう。頑張ってね。無理しすぎない程度に」

「じゃあ、またな」

 彼女はドアを閉めた後、笑顔で手を振っていた。あまり笑わない俺は、その時は寂しさを堪え、笑顔を作って手を挙げた。そして、発車させた。

 

 帰り道を走らせている時、俺は思った。彼女が出来ると、こうも心境の変化があるのだな、と。もちろん、良い意味で。


 帰宅してから、家の中を少しだけ片付けた。麻沙美が買って来てくれた飲み物等を冷蔵庫にしまったり、空いたペットボトルを捨てたり。


 時刻は夜11時頃。パソコンを起動させて、零時まで小説を書こう。目標は千字。あまり時間がないから書ききれない場合は明日にしよう。そして、睡眠薬を飲んで寝るか。シャワーは明日、出勤前に浴びよう。

 それにしても、麻沙美を初めて抱いたけれど凄く気持ちよかった。また、今度抱きたい。そう思いながら台所でコップに水を入れ、薬を飲み、決めた時間まで執筆してからベッドに入った。また、明日は仕事。麻沙美の言うように、無理し過ぎない程度に頑張るか。

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