第28話 大切な部下
麻沙美とさくらちゃんがお見舞いに来てくれてから約1週間が経つ。俺は大分回復してきた。点滴と休養を取ったお陰だろう。横になっているとLINEがきた。すぐに開いてみると副店長の福原大介からだ。本文は、
[お疲れ様です。今からお見舞いに行っていいですか?]
というもの。暇だから大歓迎だ。
[お疲れ。良いぞ、待ってる]
今月のシフト表は持ってきてあるので引き出しから取り出して見た。
「今日の休みは……福原さんと、」
俺は一人でブツブツと喋っている自覚が無かった。隣に入院している60代のおじさんがこちらを睨んでいる。うるさかったか。顔を背けて喋らないことを意識して、見続けた。
少しして福原さんはやって来た。やって来た彼は部屋の中を見回し俺と目線があったところで笑顔を見せてくれた。ゆっくりとこちらにやって来た。
「こんにちは」
と、言われて起き上がった。
「オス! 俺は大分良くなったぞ」
そう言った。
「そうですか! 良かったです」
福原さんは持っている買い物袋に手を突っ込んだ。
「これ飲んで下さい」
そう言って出したのは栄養ドリンクとコーラだった。
「お! サンキュ。ん? 栄養ドリンク?」
俺は吹き出してしまった。
「はい。栄養つけて欲しくて」
「そうか、ありがとな。早速いただくわ」
言ってから俺はそれを飲んだ。スッポンドリンク! 変な味がした。でも、精力がつきそうだ。
「どうですか? 元気になりましたか?」
俺はそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「そんなに早くは効かないだろ」
俺は突っ込んだ。彼は笑っている。
「それでボケたつもりか!」
福原さんは周りのことも考えずに大笑いした。俺は小声で、
「おい、福原さん。声をもっと小さく」
「あ、すみません」
彼は振り返って頭をペコペコ下げた。俺からも、すみません、と言った。
「ところで、店の方は大丈夫か?」
俺は急に話題を変えて真顔に戻った。その対応に福原さんは戸惑った様子。
「あ、はい。店の方は何とか回してます。店長は今、療養中なので、仕事のことは考えずにゆっくり休んで下さい」
「悪いな、でもありがとな」
「いえいえ」
「俺はあくまでも予定だが、あと1週間くらいで退院だから」
福原さんは笑顔になり、
「待ってますね。じゃあ、そろそろ帰ります」
「来てくれてありがとな」
「はーい」
言いながら帰って行った。良い奴だ。ああいう部下を大切にしないとな。俺は改めて思った。粗末にした覚えはないけれど。
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