第27話 見舞い②

「こんにちは!」

 言いながら見渡すと四人部屋。晃は入口から見て左側の手前に横になっていた。点滴をしている。何に効くのかな。

「おっ、麻沙美とさくらちゃん。来てくれたのか」

 晃は元気がない。病気が悪化したのかもしれない。さくらがあたしより先に喋りだした。

「晃さん、大丈夫?」

 彼は苦笑いを浮かべながら、

「あまり大丈夫じゃないな。すまんな、心配かけて」

 あたしは売店で買ったものを手渡した。

「これ。大したものじゃないけど」

 それと、見舞金も渡した。すると、

「いや、見舞金はいらん。悪いけど返すよ」

 彼は顔を背けて言った。

「どうしてよ? 入院したらいろいろかかるでしょ」

「まぁ、そうだが」

 晃の気分を害してしまったかな。でも、現実問題、必要になるのはお金。それを分かっていない訳がない。ましてやコンビニの店長なんだし。

「なら、その足しにしてよ」

 彼は黙っている。そして、

「すまないな」

 と、愛想のない表情で言った。布団の上に上がっている封筒を引き出しの中に乱暴にしまった。

「迷惑だった?」

 あたしは思い切って訊いてみた。

「いや。そんなわけないだろ」

 気まずそうに彼は言った。

「点滴して入院してるってことは、相当無理したんじゃないの?」

 彼は、うーんと唸り、

「特別無理したわけではないと思うんだけどなぁ……」

 私は黙って聞いていた。

「なんで調子悪くなったんだ、俺。麻沙美に言われて気付いた」

 考えたら分かりそうなものだけど、と思った。言わないけれど。

「どれくらい入院するの?」

 晃はベッドの隣にある引き出しから紙を取り出した。それを私に見せてくれた。書いてある内容は、病名と症状、入院期間などが書かれていた。期間は14日と記入されていた。

「2週間の入院なんだね」

「そうだな」

 さくらが元気ない。

「どうしたの? さくら」

「晃さんの小説が2週間も読めないのかぁ……」

 晃は笑った。

「さくらちゃん、有難う、良くなってきたら入院中も書くから」

「えっ! 本当?」

 さくらは嬉しそうに微笑んでいた。

「けど、あまり焦らせないでくれな。良くなるものが遅くなるからさ」

 さくらは真顔になり、うん、と頷いていた。その表情には少し残念そうなガッカリとした色が垣間見えた。けれど、ここは我慢してもらうしかない。良くなったらいくらでも書いたら読ませてもらえるから。


 晃の様子を窺うと疲れた表情で顔色も良くない。なので、

「さくら、そろそろいくよ。長居しちゃ晃も辛いだろうから」

「……わかった」

 私は思った。さくらが晃に懐いてくれるのは嬉しいことだけれど、気持ちは恋愛感情もあるのではないかなと。

 でも、それはないかと考え直した。母親の彼氏に恋する娘、そんなドラマのようなことはないと思う。考えただけで吹き出しそうになった。

「じゃあ、晃。また近い内に来るね」

 さくらは黙ったまま彼に手を振っていた。私達は後ろ髪引かれる思いで部屋を出た。

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