第22話 密かな考え
俺は具合が悪い中、以前気にしていて夢に出てきた茶色く長い髪の女のことを思い出した。平麻沙美という彼女がいるのに今更思い出すなんて。俺の頭の中はどうなっているんだ。おかしい。
そこで一本電話がきた。相手は副店長の福原大介からだ。どうしたのだろうと思い電話に出た。
『伊勢川店長!』
「どうしたんだ! 俺は具合いが悪いんだぞ」
『前に伊勢川店長が気にしていた夢に出てきた茶髪の女、店に来ましたよ』
俺は、おっ! と思った。思い出したことと同じことが実際にあるなんて。不思議だ。まるで、テレビドラマのようだ。
「それで、そのまま帰ったのか?」
半ばどうでも良いような訊き方になった。
『いや、それがですね。伊勢川店長のためにお客様のための店のアンケートっていうのを即興で思いついたので、名前と電話番号とアンケートを紙に書いてもらいました。アンケートに関しては少し出来るまで時間もらいましたけど。』
その話に俺はキレた。
「福原さん! あんたお客を騙すような真似してもいいと思ってるのか? そりゃ、俺のことを思ってしてくれた気持ちは有り難いが、やはり手口がやばいよ」
「……」
副店長は黙ってしまった。そして、
『すみません。やり過ぎました』
と、声を発した。俺は、
「その個人情報を書いた紙は捨ててくれ、もったいないけどな」
と、言った。
『……わかりました』
そう言って電話を切った。俺には麻沙美がいる。他の女にうつつを抜かしている場合じゃないんだ。密かに考えていることがある。それに向けて俺は日々頑張って仕事をしている。考えている内容を今は言わないが。
麻沙美は今、何をしているかな。さくらちゃんも元気にしているかな。気になったのでLINEを送った。
[久しぶりだな。麻沙美やさくらちゃんは元気にしてるか? この前会ってから一週間になるな。俺のことなど忘れたか? 何ていうのは冗談だ]
という本文。
今は15時20分頃。体調不良はまだ良くならない。LINEの返信もまだだ。それから約2時間後の17時30分頃。LINEがきた。
[久しぶり、晃。あたしもさくらも元気だけど、仕事しようかと思って動いていたからバタバタして連絡出来なかったの]
仕事? 聞いてないぞ。でも、良いことだと思い更に返信した。
[そうなのか。それは良いことだな。勤労は国民の三大義務だからな。えらい。どんな仕事だ?]
やや間があり、
[介護だよ、老人の]
随分思い切ったなと思った。
[大丈夫か? 資格いるんだろ?]
返事はすぐにきた。
[それは入社してからでいいらしいよ]
俺はLINEを打つのが面倒なので電話をかけた。すぐに繋がった。
「もしもし」
『もしもし、急に電話きたからびっくりしたよ』
俺はニヤリとした。
「頑張れよ、介護。すぐにやめんなよ!」
『やめないよ。やる前から変なこと言わないで』
彼女が新しい道を歩むので俺は応援しようと思っている。頑張れ! 麻沙美!
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