清楚との会話
朝のホームルームが終わると、転校生の周りにクラスメイトが一斉に集まった。
ラノベでもお馴染みの光景。
転校生お決まりのイベントってやつだ。
まぁもちろん、集まっているのはクラスの中心核、イキリ陽キャどもだけだが。
俺のようなタイプは、コソコソと話から離れたところで話している程度だ。
ちなみに、転校生の席は窓側のクラスの端っこになった。
権三の隣にはならなかったのである。
「ねぇねぇ玲音ちゃん! 帰国子女なの?」
伏山が転校生に興味津々に早速食いついていた。
そういえば、転校生の名前は、青波玲音というらしい。
名前からして凄い綺麗。
この名前で不細工に生まれたらさぞ悲しかっただろう。
「いや、帰国子女じゃないよ。生まれも育ちも日本」
「えぇ! 英語とか喋れるの?」
すると転校生はにっこり笑って、
「Yes,I has been learning English ever since I was 2 years old.(うん。私は二歳の頃から英語を学んでるよ)」
凄まじいネイティブな発音に、俺を含めクラスの全員が驚く。
身近な外国人といえば、ATLの外国人の先生くらいのものだし、本格的なのを聞くのは初めてに近いから、皆目を見開いた。
そして、そんな油断をしている時。
「ねぇ、昨日の人だよね?」
「え? うぉえ!?」
急に声をかけられて驚いた。
びっくりしすぎて椅子から落ちそうになるのをギリギリで耐える。
危なかった。
こんなところで死にたくないぞ。
しかし、そんなことより。
どうして目の前に、いつの間に。
「昨日、坂で」
「あ、え? うん。はい」
急過ぎて返答がおかしくなる。
頭がショートしかけた。
なんかバグってたぞ。
大丈夫か俺の脳みそ、仕事しろ。
「昨日は助かったよ。ありがと」
「いやいや、俺の方こそ」
すると、転校生は首を傾ける。
頭の上に、はてなマークが浮かんでいるようだ。
「俺の方こそって何?」
「あ、えと、その。なんか、とにかく。何でもないです」
ヤバい。
ただの頭おかしい奴だと思われる。
ってか既に周りの視線が痛い。
特に伏山辺りだ。
自分達の会話を無視してオタク野郎に横取りされたとでも思ってそう。
あー怖い怖い。
助けを求めて権三の方を見た。
だが、あいつは俺に裏切られたかのような目を向けているだけである。
友達なんていなかった。
闘いはいつも孤独なのである。
「ねぇ、名前なんて言うの?」
「お、俺?」
「いや、君しかいないでしょ。一対一で、他に誰の名前聞くって言うの?」
「それもそうだ」
俺は何を言っているんだろうか。
キモオタ全開過ぎるな。
「俺の名前は海瀬依織。漢字は海の海に瀬戸内海の瀬、依存症の依に機織りの織です」
「うん、分かりにくい情報ありがと。よく分かんないや」
俺の渾身の自己紹介を一蹴された。
なんて言うことだ。
結構あっさりしたタイプみたいだ。
ていうかマジでさっきから何言ってんだろ、俺。
「これからよろしく! 依織くん!」
そんな俺に躊躇いなく転校生は、手を差し出して来た。
なんだろう、これ。
握手しろって事なのかな?
でも、俺なんかが握っていいもんなのかね?
とあるラノベ主人公も迷っていた。
自分なんかが握り返してもいいのかと。
あれを読んだときは、『何考えてんの? 握手求められてんだから握り返せや』くらいに思ってたが、実際に自分が同じ立場になると気持ちがわかる。
ごめんなさい、雨○君。
ぼっちゲーマーだった君の気持ち、今ならわかるよ。
しかし、俺は勇気を振り絞って握り返した。
優しく、だけど力強く。
すると転校生も満足したらしく、笑顔で席に戻って行った。
「ふぅ……」
いやはや。
俺みたいな諦め隠キャにこういうイベントは辛いっすわ。
対応策ないんだからね。
ちょっとは気を遣ってくれ。
本当に何のラノベだよ、これ。
変な汗をかいてしまった。
まだ朝だというのに、面倒だ。
くそ、二次元歴が長過ぎて三次元の女子への対応が追いつかない。
しかし、俺への試練は終わらなかった。
「海瀬君、意外と親切なんだね」
「へ?」
間の抜けた声が出てしまった。
そんな俺にクスクスと笑う。
「ふふっ……海瀬君って面白いね」
声の主は、隣の席の子だった。
あまり話したこともない女子。
容姿はまず可愛いんだが、垢抜けた雰囲気の割に無口なイメージの子だ。
それが何故か話しかけて来た。
「あか、赤岸さん……?」
俺がそう言うと、赤岸さんは可笑しそうに笑って言った。
「はい。
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