作戦会議
「まぁこんな暗い話は良いとして! で、どう? やってくれる?」
急にいつものテンションに戻った玲音によって、俺も現実に戻らされる。
「うーん、やるって言っても勝機が見えないからな……」
そう、全く勝てる気がしないのだ。
俺が何を口先で言いくるめようとしようが、あいつらが耳を貸すとは思えないし。
それこそいっその事こと、俺も物理的攻撃で挑んでみるという手もあるかもしれない。
放課後、体育館裏に呼び出してぶん殴る。
人気のない静かな場所で、ボコボコに。
漢は拳で語り合う。
――いや、それはないな。
それだとあいつらとやってる事が同じだ。
困ったら手を出すなんて、低脳で野蛮で愚かな人間のする事である。
もはや玲音の言う通り、残された手は心の奥に秘められた俺の本心を曝け出すしかないのかもしれない。
誰にも言ったことない、そもそも自分でもつい昨日思ったことだ。
それをぶちまけてみるしかないのかもしれない。
「そもそもなんで伏山と仲直りするのにグループに喧嘩売らなきゃいけないんだ?」
ふと気になってそう聞くと、玲音はニッコリ笑って言った。
「仲直りだけが目的じゃないでしょ?」
「はぁ……?」
何をいきなり言い出すんだ。
他になんの目的があるというのだろうか。
すると玲音は意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「陽キャ全体を潰そうよ」
「怖えよ!」
「本心だよ。だって、私の彼氏をこんなになるまで殴ったりしたんだよ!? しかも一ヶ月前も結局失敗して、負けたままじゃん」
「お前が喧嘩売らなきゃ殴られることもなかったし、お前が告らなきゃここまで酷くはならなかったがな」
「まぁそれは置いといて。今度こそ二度と口が聞けなくなるくらいに、恥かかせてやろうよ!」
随分とお口と性格が悪い玲音ちゃん。
どうしたのだろうか。
頭こそおかしかったが、流石にここまでお口は酷くなかったはずだが。
「恥かかせるって、どうやって?」
「さぁ、それは依織くんの仕事でしょ?」
「丸投げかよ」
結局一番しんどいのは俺がやるのかよ。
「私たちの絆を証明して、赤岸柚芽とかいう害虫も蹴散らしてやろうよ」
「害虫言うな」
「じゃあゴミ虫」
「……」
メラメラとした闘争心を目に露わにする玲音に、俺は罪悪感を覚える。
こんな事になったのは俺のせいだからだ。
俺がもっと早く赤岸のことに気付けばよかった。
そしたら、こんな事にはならなかったはずだ。
「まぁ私は私でやる事あるんだけどね」
「だからそれはなんなんだよ……」
「内緒! ていうかもう進めてる」
「はぁ!?」
あくまで詳細は教えてくれないらしい。
前と同じだ。
前回も最後まで教えてくれなかった。
「今回はまともなの頼むぞ」
「任せて」
自信満々に、ただでさえ窮屈そうな胸を反らせる玲音に俺はため息をつく。
これに関しては本当にお祈りでもするしかない。
嫌な予感しかしないが、今回こそは上手くやってくれると信じるしかない。
そんなことを思っていると。
「あはは」
「どうした?」
急に笑い出した玲音に聞くと、笑いながら答えた。
「いや、なんだか一ヶ月前を思い出して。
私はあの頃、依織くんのことただ単に優しい人だと勘違いしててさ」
「……」
「でも違って。本当はオタクだったり、怠け者だったり、実は妹さんがいたり。
喧嘩は弱いし、イケメンでもないしね」
なんだろう。
痛ぶられてる?
俺、もしかして今悪口言われてるの?
「なのに、君はカッコいい」
しかし、玲音の言葉に俺は耳を疑う。
「臆病なくせに、面倒ごとは嫌いなくせに。
だけど、しっかりと他人のための問題には向き合ってる。
お兄ちゃんから聞いてるよ。両親と上手くいってないんでしょ?
妹さんのために、お兄ちゃんの条件蹴ったんだしょ? 妹さんの結婚は俺が決める事じゃない。なんて言ったりして」
初めて晶馬さんと会った日の事だろうか。
そんな事を言ったような気がしないでもない。
「私のために一昨日は富川くんから守ってくれたよね。初めて会った時も、道を教えてくれた。
初めて会う人に道案内なんて緊張するのに、君はわざわざ教えてくれたし、一昨日の件に関しては、本当に怖かったよね。
誰だって殴られるのは怖いもん。
でも、依織くんは守ってくれた。
君は、他人のためには勇気を惜しまない人なんだよ。自分では気付いてないかもしれないけど」
玲音はそう言うと、全てを包み込むような笑顔で続けて言った。
「だからこそ。私は今回、君が自分のためにその勇気を使って欲しい。
そのために協力もするから」
不思議な気分になった。
勇気……
俺にそんなモノがあるなんて、思った事もなかったし、言われた事もなかった。
びっくりだ。
まさか玲音にそんな風に思われていたなんて。
俺は、今まで色んなものから逃げ続けた。
両親とのことに始まり、玲音への気持ち。
そして赤岸からの好意や晶馬さんからの話。
俺が初めに晶馬さんの話を蹴ったのは、妹のためだけではない。
単純に怖かったのだ。
自分のせいで会社が倒産するということが。
責任を感じたくなかった。
俺は、あの時逃げただけだったのだ。
さらに今、まさに目の前に伏山那糸との仲と校内カーストへの不満から逃げようとしている。
玲音には勇気があるなんて言われたが、俺はそうは思えない。
たが、果たして、このままで良いのだろうか。
このまま逃げ続けるだけでいいのだろうか。
答えはNoだ。
いいわけがない。
これを機にでも逃げの人生に終止符を打つべきだ。
俺はそう思い、玲音の顔を正面から見つめ直す。
そして言った。
「わかった。俺、やってみるよ」
すると玲音は嬉しそうに飛び跳ねると、
「じゃあ明日の放課後、頑張ろうね!」
「あ、明日……!?」
明るい笑みに乗せられた軽い口調。
だが、伝えられた内容は重い。
やっぱり青波玲音はこうでなくてはならないのだろう。
俺は震える拳を握りしめた。
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