清楚との同盟戦争開始
「あ、明日だと……?」
「うん、明日」
「明日ってのは、今日の夜寝たらくる次の日のことか?」
「うん、地球が回ってここ日本の地が日付変更線を超えた後だね」
俺は驚愕する。
「さ、流石に急すぎないか?」
「急も何も、先週から予告はしてたじゃん」
青波は肩をすくめた。
そして、くいっとメガネを上げる仕草をする。
もちろんメガネは付けていないが。
「私の調べによると、伏山くんたちは何故か火曜の放課後に残る習性があります」
何やら研究してきたようだ。
確かにそれは間違ってはいない。
だが、
「そりゃその日は毎日罰ゲームしてるからな」
そう、あいつらは毎週火曜に罰ゲーム付きの賭けをする。
具体的には、女子に嘘告して成功するかや、購買のパンの種類を当てたりなどくだらないことだ。
そんな遊びの最中に喧嘩なんか売ったら大変なことになる予感しかしない。
「むしろ好都合だよ」
「は?」
しかし、青波は予想外のことを言った。
「だって、みんな集まってるんでしょ?」
「みんなって言っても、うちのクラスの伏山と取り巻きの三人合わせた四人組だけどな」
「丁度いいじゃん。多過ぎもしないし、存在感アピールできるし」
「存在感は君がいつも話しかけてくるから、もう十分にアピールできてるよ」
遊んでいるメンツはいつも同じで、面倒な奴ばかりだ。
絡むとだるい奴。
そんな奴に喧嘩なんて売りたくない。
しかも、
「明日は文化祭の事前準備で放課後みんな残らないといけないんだぞ?」
明日は特別なのだ。
文化祭の事前準備の説明が放課後にある。
さらに俺のクラスは、ヒステリックな文化委員がクラスの担当のため、誰もサボらないし全員参加だ。
「そう、最高だよね!」
「どこがだよ!」
頭が腐っているのだろうか。
豆腐ならぬ頭腐ってか。
なんでもないです。
「みんないるってのも、クラス全体に知らしめられるから好都合! せっかく伏山くんに泡吹かせても、みんな見てなかったら意味ないじゃん!」
「まぁ、それは一理あるけどな……」
確かに、今回の作戦では知名度っていうか、認知度が必要不可欠だ。
だがその前に。
「青波、何する気なんだ?」
いい加減教えてくれてもいいだろう。
そう思って俺は聞いた。
「教えない」
青波は頑固だった。
ここまで頑ななのは意味がわからない。
「なんでだよ」
すると青波はニコッと笑った。
「言ったらつまんないもん」
「おい」
ふざけんなよ。
何が起こるかわからない状況で伏山たちに喧嘩を売る俺の身にもなってみろよ。
「まぁとにかく明日ね! 放課後終わったらすぐ! 文化祭の話し合いが始まる前ね?」
そんな俺の不安など知る由もなく。
青波は言い残すと走り去ってしまった。
「どうすんだよ、マジで」
俺の悲痛な独り言は誰の耳にも届かなかった。
---
てな訳で戦闘日の翌日になりました。
結局あれ以上は知らされないままに、俺はこの時を迎えてしまった。
本日最終授業、終了残り五分前。
台詞はもう考えてきている。
最近の悩みを全てぶつけてやるつもりだ。
俺は隣の隣の隣の席の……意外に離れている青波を見た。
すると、丁度目が合う。
『準備はオーケー?』
口だけ動かしてそんなことを伝えてきた。
準備はオーケーだ。
でもな。
心の準備は全くオーケーじゃない。
そして、ついにその時はきた。
「はい、授業終わります、号令」
「起立」
学級委員のご命令で俺たちは起立する。
「気をつけ、礼」
「「ありがとうございましたー」」
だらしのない挨拶をして、授業は終わった。
そして、始まった。
ついに俺の闘いは始まったのだ。
授業が終わるや否や、教室は騒ぎ声で溢れる。
今日の帰りの寄り道の話や、課題の話なんかだ。
そんなたわい無い会話を一つの声が静まらせた。
「おい、伏山!」
俺の声だ。
最後に大声を出したのは小学生の頃。
ずっと使っていなかった喉が一言で悲鳴を上げた。
ひ、貧弱な……
伏山は俺の声に反応し、ギョッと驚いた。
しかし、すぐに表情を作る。
オタクが話しかけてくんな、的な表情だ。
クラスメイトも注目する中、俺は続けた。
「最近、彼女にフラれたか何だか知らんが、俺を威圧するのやめてください」
間違えた。
口調を間違えてしまった。
何で喧嘩売ってるのに敬語になったんだよ。
くそ、長い陰キャ歴のせいか……
「はぁ?」
伏山がガチでキレたような顔をしてくる。
うん、的確に地雷を踏み抜いたぜ。
しかし、もう後には引けんッ!
「青波と俺が話す度に、睨んできてるだろ」
「殺すぞお前」
「え?」
俺がそう言うと、伏山の目が座った。
ヤバいな。
殴られるのは嫌だ。
俺は一歩下がる。
「あ? 何逃げてんだよ」
「地雷がそこにあるから」
「は?」
意味わからねぇ、みたいな顔された。
俺も自分が何言ってるのかわからん。
もういいや。
「お前、青波狙ってんの?」
俺がそう聞くと、伏山は頷いた。
「あぁ」
何という強靭メンタル。
クラスの全員の前で、よく言えるな。
みなぎる自信というやつか。
羨ましい。
「お前みたいなオタク野郎が勘違いしていい相手じゃねーんだよ?」
横から富川が顔を出してくる。
挑発全開な表情だ。
腹が立つことこの上ない。
うーん。
それにしても思ったんだが。
全然成功してなくね?
これでどうやってカーストから救出できるんだよ、青波さんよい。
「お前さ、調子乗ってね?」
伏山にドンっと胸を突き飛ばされる。
ここは何とか堪えた。
流石にこれで転けたりしたら無様過ぎるからな。
だがどうしよう。
ここまで何のフォローもないとは思ってなかったぞ。
「はっ!」
俺はこの状態で全てを察して声を上げた。
そうか、わかったぞ。
これは罠だったんだ。
青波もどうせ一枚噛んでいるんだろう。
それならばここまでフォローもない説明がつく。
「何こいつ、キモ」
富川がまたも挑発してくるが、もう俺はどうでも良くなっていた。
笑みすら溢れていた。
諦観という奴なのだろう。
もはや諦めきったのだ。
もうどうでもいいや。
なんとでもなれよ……
諦めしか出てこない。
しかし、そんな時だった。
女神は俺を見捨てちゃいなかった。
「もうやめてよ!」
一つの声が教室に響き渡った。
聞き間違えするわけもない、どう聞いても青波玲音の声であった。
そして、青波はさらに言葉を放った。
その言葉に、クラスメイト、及び伏山や富川、そして俺までも凍りついた。
曰く、
「私、本当に依織くんが好きなの」
どうなるんだ、これ。
青波玲音は、まるで愛の告白でもしているかのように顔を真っ赤にさせながらそう言ったのであった。
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