清楚ちゃんの心理
あれから、週末を挟んで新しい週になった月曜のこと。
「依織くん、ちょっといいかな」
と、青波に声をかけられた時、俺は軽くパニックになった。
「え、何?」
時は放課後。
珍しく陽キャ軍団も残っていて、クラスは賑やかだ。
そんな中、青波が俺に話しかけてきた。
どうして、ここで?
そして何故このタイミングで?
そんな疑問が浮かぶ。
当然、伏山なんかも俺の方に注目してきて、居心地が悪い。
「少し、打ち合わせがあるの」
「ここで?」
俺は伏山たちに目をやる。
すると威圧的な視線を返された。
怖い。
流石クラスカーストトップ。
「あ、そうだね。屋上いいかな?」
「うん……」
何のためにLINEを交換したんだろうか。
こういう連絡を取るためだろうに。
よくわからないまま、俺はいつもの屋上へ向かった。
---
「うーん、やっぱりここの屋上好き!」
元気に伸びをして青波がそんなことを叫ぶ。
「俺はあんま好きじゃないけどな。高いとこ嫌いだし」
「えー! 意外」
「意外って何だよ……」
俺が苦笑して返すと、青波は、
「だって依織くんってなんか、一人で屋上に来て『終焉も近いな……ここともお別れか』なんて言ってそうじゃん」
「痛い設定付けんじゃねぇ」
なんだその飛んだ中二野郎は。
俺はオタクだが、中二病ではないぞ。
しかもなんだその設定。
終焉ってなんだよ。終わってんのはお前の頭ん中だよ。
「いやぁ、それにしても今日も怖いねー。伏山くんたち」
「まぁな」
俺は屋上のベンチに座る。
「あんま教室で俺に話しかけるのやめろよ」
「なんで?」
「なんでって、俺みたいなのと一緒にいたらハブられるぞ? 俺も伏山に睨まれるから嫌だし」
「別に依織くんといてもハブられないし」
青波は口を尖らせた。
なんだかちょっと怒っている。
「そもそもなんで俺を救おうと思ったんだ?」
俺はずっと気になっていたことをこのタイミングで聞いた。
すると、青波は当然のように言った。
「私を助けてくれたからだよ」
「え?」
「だから、初めて会った時に私のことを助けてくれたでしょ? だからその恩返し」
恩返し……
その言葉が俺の頭の中をぐるぐる回る。
「そんな理由だったのか……」
「そんな理由って、立派でしょ?」
「まぁ、うん。そうですね」
「もー、何それ」
もう会話が頭の中に入ってこない。
たった一度の親切がここまでになって返ってくるとは思わなかった。
下心丸出しの、道案内だ。
美少女に恩を売りたかっただけ。
可愛い子と話したかっただけだった。
それが、今こうして青波は俺のために恩返しをしようとしてくれている。
なんだか申し訳ない気分になってきた。
「俺は、そんなたいした奴じゃないよ」
そんな言葉が口をついて出る。
余計な話だったが、一度開いた口は塞がらない。
「俺はただ単に親切心で青波に道案内したわけじゃない。
下心丸出しの欲望だらけの親切だった。可愛い子とお近づきになれるかも……って淡い期待を抱いてたんだ。ごめんな、俺多分青波が可愛くなかったらスルーしてたよ」
申し訳なかったのだ。
勘違いされたまま、恩を返させるのが。
しかし、青波は首を振る。
「そんなの関係ないよ。大事なのは君が私に道案内してくれたっていう事実だけ。
その前の君の心情や、仮定の話なんてどうでもいいんだよ」
泣かせることを言いやがる。
「だって私、あの坂に着いてからどれくらい迷ってたと思う?」
そして、急に質問をしてきた。
「え、五分くらいか?」
「ううん、多分一時間くらい」
「は? ずっと一人でか?」
「うん、まぁね」
青波は悲しそうな顔をして言った。
「色んな人が通り過ぎて言ったんだけどね、目すら合わせてもらえなかったの」
そういえば、俺も元はと言えば青波に笑いかけられたのが始まりだった。
きっと他の人はその笑いかけを無視したんだろう。
「全員素通り、物置のようにスルーして行くの」
「青波の綺麗な瞳や、日本人離れした容姿から声がかけにくかったのかもしれない」
「かもね。それでも、傷つくよ」
そして青波は俺の目を見て微笑んだ。
「そんな時、君が助けてくれたの」
そんな言葉にドキッとする。
「だからさ、私に依織くんを助けさせて?」
「あ、うん」
そこまで言われては余計なお世話だとは言えない。
俺は頷いて今日の本題を聞いた。
「わかった。で、なんだ? 打ち合わせって」
すると青波はスッと目を細めて言った。
「決行日は明日の放課後にしようと思うの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます