エピローグ
清楚とはなんぞや
赤い夕陽が照らす下校道。
朝まで雨が降っていたこともあり、水溜りに夕陽が反射している。
通りの公園では近所の子供らが集い、汗を流しながら走り回る。
そんな午後六時過ぎ。
俺の隣には上機嫌で鼻歌を歌う少女が歩いていた。
「上手くいってよかったね!」
「おう」
明るい夕陽に良く似合う、花のような笑顔。
本当に玲音のおかげだった。
「お前、凄いな」
俺が今日何度目かもわからない感嘆を漏らすと、玲音はニコニコと顔をゆるませる。
「そうでもないよー。ちょっと亜美ちゃんに協力を要請しただけだよー」
「それでも凄いよ。上手くいくと思わなかった」
正直言って成功するとは思ってなかったのだ。
相手はあの伏山達。
富川に殴られて御陀仏になるケースだって予想できたし、伏山に俺の真意が伝わらない場合だってあり得た。
だから、今回成功したのは改めてこの青波玲音という女の有能さ故だった。
素直に見直した。
「そういえば前に言ってた、お前のやることって」
「あぁ。亜美ちゃんとのコンタクトの件だよ。
どうせ富川が出てくるんなら、その彼女使って潰してやろうってこと。人間色恋沙汰が絡むと弱くなるものですからねー」
この女は人の弱みを見つける天才だろうか。
今回は良かったが、今後その才能を俺に向けるのはよして欲しいな。
「まぁとにかく。上手くいって良かった!」
「まぁな」
俺はそう言って立ち止まる。
すると玲音も足を止めて俺に振り返った。
「どうかした?」
可愛く小首を傾げる玲音。
そんな様が、あざといわけじゃなくて本当に似合ってしまう超絶美少女。
最近は欠陥だらけのその性格しか見ていなかったが、よく見ると本当に可愛い。
思えばあれは一目惚れだった。
一ヶ月前のあの日、坂のてっぺんで。
俺たちは出会った。
「玲音、今日は本当にありがとう」
俺は今から玲音に酷いことを言う。
ずっと心の中にあった感情。
隠し続けるのも悪いと思うから。
俺は重い口を開いた。
「俺さ、正直ずっとお前のことそんなに好きじゃなかったんだ」
「……え?」
玲音の笑顔が凍りつく。
「告白をオーケーしたのも実は手違いでさ、俺本当は断ろうとしたんだ。
どうせ本気じゃないんだろう。なんの魂胆があって俺にそんな嘘告するんだって」
「そんな……」
「さらに無茶振りが凄かったり、変態だったり、正直お前のことよくわからなかった。
そしてさらに自分のこともわからなくなった。
そんな時、柚芽がふと現れたんだ」
俺はそこで大きく息を吸うと言った。
「柚芽は俺の初恋の相手なんだ。
で、向こうはまだ引きずってる。
これはチャンスだ。今ならまだ引き返せる。
道徳感さえ捨ててしまえば、今からお前と別れて付き合うこともできた」
「……」
「でも、違ったんだ」
そう、そこで俺は気づいた。
こいつが、玲音が俺のことを本当に好きでいてくれていて、俺もその気持ちに応えたいと思っていることを。
「柚芽は違ったんだ。昔の俺しか見てなかった。
でも玲音は今の、こんな捻くれた考えしかできない俺を認めてくれた。
お前が初めてだったんだ。両親も、幼馴染みも、そして妹さえも、今の俺を認めてくれなかった」
俺はそこでふと笑う。
「おかしいよな高校生にもなって。でも俺、多分寂しかったんだ。
家族や周りから見放されて、周りに誰もいないこの状況で過ごすことが」
「高校生とか、関係ないよ」
「ありがとう。でも、情けないのは情けないだろ」
「そうだね」
相変わらず素直な玲音。
だが、それでいい。
「今まで俺を導いてくれてありがとう」
俺は玲音のことが大好きなんだ。
この気持ちは揺るがない。
「俺、今凄くお前のことが好き」
「え!?」
「なんだその反応」
てっきり感動で両手を顔に持ってくる的な仕草をするものだと思ったが、予想とは違った。
何故か驚いた風に目を見開いて素っ頓狂な声を上げられた。
「今のは振られるながれかと思った……よ?」
「え?」
「だってそうでしょ。相手のことを散々変態だとか言っておいて、『今までありがとう』だよ?
そりゃ振られると勘違いするでしょ?」
「……確かに」
「第一下手な芝居打たなくていいよ。依織くんは頭悪いんだから」
「うるせえよ!」
なんだこれ。
どうしてこうなった。
「何その感動のシナリオ的な演劇。
流石長年ぼっちだね。一人演劇似合ってるよ」
「……え?」
「やっぱキモオタだね。陰キャが調子乗ったらイキり陰キャに成り下がるだけだよ」
どうして今俺は痛ぶられているのだろうか。
――って!
「そう言えばさっきお前陰キャとか陽キャとか関係ないって言ってたろ!」
「それは建前だよ」
「なんだと!?」
なんだこの女!
悪気なさそうに平気に嘘つきやがる!
「依織くんのカッコつけって本当に寒いよね」
「……」
「でも、そんなところが好き」
往来で痴話喧嘩をするカップル。
道行く人が面倒そうに俺たちを避けて通る。
そんな中、赤い顔でそう言った玲音に俺は目を丸くした。
「いや、今寒いって」
「夏場だからちょっと寒いくらいが過ごしやすいの」
「夏が終わったら縁切れるのかよ!」
俺が天に向かって大声を上げる。
もう人の目なんてどうでもいい。
すると、玲音は小悪魔ちっくにウインクして言った。
「それは君次第じゃないの? 童貞くん」
「清楚」(せいそ)とは、清らかですっきりとしたさまを指す。 外見上は控えめで清潔感がある容貌に、謙虚なふるまいをし、慎ましい美しい身のこなしの保守的な女性を表すことが多い。
(ウィキペディアより)
まるで清楚ではない青波玲音。
でも、それならそれでいい。
「帰ろうか」
どちらともなくそんな事を呟いて俺たちは手を繋いだ
そう言えば何気なく手を繋ぐのは初めてだったかもしれない。
未だに家族の件の問題は多く残る。
両親に妹の婚約騒ぎ。
まだまだ目白押しだ。
でも、そんな事でさえ、玲音となら上手くいく気がするのだ。
「とりあえず今週末は水族館デートだな」
これは、少し普通じゃない女子高生と、俺が送る日常の話。
楽しい青春の物語なのである。
もちろん、俺の精神は病む前提だがな。
転校してきた『清楚風』ハーフ女子は、純粋無垢な俺の心を病みに染める 瓜嶋 海 @uriumi
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