侮蔑の対象
「それならそれで、やっぱ仲直りとか無理だわ」
伏山のその言葉に俺は耳を疑った。
予想外すぎるその言葉に俺だけでなく、玲音や柚芽に富川まで、聞いていた全員が目を見開いた。
そんな中、伏山は首を振る。
「今更、無理だろ」
「……なんでだよ」
意味が分からない。
ようやく二人の行き違いが正せて、それなのにどうして。
何が、いけなかったんだ。
すると伏山は言った。
「もう俺とお前の友達の関係だって違うし、俺と仲直りするってことは、俺たち全員がお前のことを認めるって事になるだろ」
「まぁな」
「お前、こいつと仲良くできんのかよ」
伏山はそう言って富川の肩をガシッと掴む。
俺は無言で答えた。
「逆に富川、海瀬と仲良くできるか? 俺と話してるの見てて苛つかねえか?」
「ぶん殴りたくなるな」
富川は息を吐き出すようにそう言うと、凄い剣幕で俺を指差して嘲笑った。
「だって、この陰キャと那糸がつるむって事だろ? やべえって。腹痛えって」
伏山はその言葉を聞くと、悲しそうに首を振った。
「やっぱ陰キャのお前と仲直りするとか無理なんだよ。それに、そっちも一緒だろ。そこの苅田」
不意に名前を呼ばれた権三が肩をびくっと震わせる。
そんな様子に失笑しながら伏山は言った。
「俺はそいつの事、中学の頃いじりまくってたんだよ、知ってると思うけど。
で、そいつを不登校にまで追い詰めた事がある。
苅田は今でも俺にビビってんだろ」
そう言われた権三は歯をカチカチと鳴らしながら本当に怯えた風に黙りこくる。
一方伏山は、少し申し訳なさそうに俺を見た。
「な、わかるだろ。無理なんだよ」
圧倒的なカースト差がある友情なんて成り立たない。
そんなこと、古代の人間でもわかる。
この世を生きる上での常識。
奴隷と貴族の友達なんて聞いたこともない。
結局、理想論でしかないのだろうか。
ふと柚芽に目をやると、悔しそうに唇を噛んでいた。
それが答えなんだろう。
確かに、例え俺と伏山が仲直りしたとしても、俺たちがつるむことをよく思わない人間は多くいる。
それこそ今挙がった、富川や権三だ。
俺たちとしても、今の人間関係を崩してまで仲直りしたいかと言われればそうでもない。
正直、富川とは関わりたくないし、権三を伏山たちと関わらせたいとも思わない。
結局は、陰キャと陽キャなんだろうか。
陰キャは陰キャだけで、こじんまりとした領域を囲い、その中で細々と目立たぬように生活。
陽キャも陽キャらしく、陰キャとの交わりは絶ってパリピしなければならないのだ。
そしてそんな風習、壊せない。
自分たちの村に他の村人が入って来たら、その未知さに人は恐怖を覚え、迫害する。
いつの世も同じ。
人は同じことを繰り返す。
「陰キャのお前とつるむのは無理なんだよ」
重々しい口調でそう放った伏山。
対して俺の返す言葉は、ない。
結局はヒエラルキー。
この学校内の身分制度によって、俺たちの仲が元通りになることなんてないのだ。
「陰キャって何かな?」
まるで冷たい雨のように、俺たちの心にジワッと染み込む一つの声。
それは。
「れ、玲音?」
青波玲音だった。
玲音は自慢げに笑顔で歩み出てくると、俺の隣までやってきた伏山に対峙した。
「ねぇ伏山くん。陰キャって何?」
そんな質問に、伏山は面倒臭そうに答える。
「陰キャって、あれだろ。クラスとかでぼっちっていうか。暗い雰囲気纏ってキモいやつ」
「なるほど。確かに依織くんはその定義だと陰キャだね」
「は?」
玲音さん?
フォローに入ったんじゃなかったのか?
まさかのダブルパンチで俺は面食らう。
「じゃあ陽キャって?」
「それはクラスの中心にいて、明るくて人気者って言うか、面白いやつ」
「ふーん」
玲音はそう頷くと、見たこともないような冷たい目で笑った。
「君は陽キャなの?」
なんということもない、普通の質問。
その質問に、先ほどまで淡々と答えていた伏山の態度が変わった。
目を見開いて、明らかに動揺した。
「伏山くんは自分のことクラスの中心にいて、明るくて、人気者で、面白いって思ってるんだ?」
「……」
「凄いねー。依織くんは、ぼっちで暗くてキモいけど、自分のことはそんな評価してるんだ」
とんでもない特大ブーメランだった。
何も言えなくなってしまった伏山に周りは嘲笑うかのような冷たい笑いが起こる。
孤独だった。
伏山に、味方はいなかった。
富川ですら哀れむような視線を送っている。
伏山はそんな中恥ずかしさに背中を曲げる。
すると、そんな時だった。
「今の君。それこそ陰キャだよね」
玲音はそう言うと、周りを見渡してさらに言った。
「みんなは今、新たな陰キャをこの学校に生み出してしまいました。これってどう言うことかわかるよね?」
玲音はそこで伏山に向き直ると笑顔で言った。
「陰キャと陽キャなんて一瞬で変わるモノなんだよ。そんなのにしがみ付いてて、楽しい?」
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