Game19:ゲームの裏で……
『視聴者の皆さん、こんばんわ! 今夜もM&Dエンターテイメントの時間がやってきたよ! 司会はお馴染みのこの僕、マックスと……』
『はーい! 私、デボラがお届けしまーす!』
『ありがとう、デボラ! 今夜も絶賛中継中の『ケルベロスの顎』ルール、【ダムセル・イン・ディストレス】の見所を紹介していくよ!』
『今日は何といってもA、B両ルートでサード・ギミックを攻略したのが大きな見所ですねぇ、マックス!』
『そうだね、デボラ! やはり『同盟』の効果は大きかったみたいだ。何と両ルートとも脱落者なしでサード・ギミックを攻略したよ!』
『いやー、手に汗握る戦いでしたねぇ! でも相変わらずアルフレートがカッコよくて私は大満足でーす!』
『ははは! 借りを作ったままじゃいられないって子供っぽい所もむしろ君には魅力的に映るようだね! 僕もアンジェラが一人で敵を引き付けた時には仰天して絶対に負けたと思ったよ!』
『彼女凄かったですねぇ。意外と言えばダリアの行動も意外でしたけど!』
『本当にね! 彼女のお陰で僕は大損せずに済んだよ!』
『あははは! ホワイトチームも中々の強運ですねぇ! でも……次のフォース・ギミックは強運だけで乗り切れる物じゃないですよぉ?』
『Bルートは下水道……。下水道といったらやっぱり『アレ』だよねぇ。ネイサンはあんな物一体どこで調達してきたのやら……』
『あはは、Bルートはフォース・ギミックで全滅もあり得ますねぇ。ご愁傷様です!』
『君も笑ってる場合じゃないぞ、デボラ。Aルートのコメリカ・パークの方だって充分危険だよ。あの隠れる場所もないフィールドで『あんな物』に襲われたら……少なくともどっちか一チームの脱落は必死だろうねぇ?』
『むむっ! 脱落するとしたらグリーンチームの方ですよ! アルフレートなら絶対大丈夫です!』
『ふふふ! お互い賭けてるチームがフォース・ギミックを乗り越えられるかどうか……僕達も正念場になりそうだね、デボラ!』
『望む所です、マックス! 負けませんよぅ!?』
『ははは! それは楽しみだね! 視聴者の皆さんも、白熱必至のフォース・ギミックを絶対見逃さないように、是非チャンネルはそのままで!』
****
EBSの本社。着々とカウントされる視聴率を示す数値を見ながらネイサンは唸った。今の所は良い数値をキープ出来ている。だがまだ足りない。この程度では何かあればすぐに『レッド・バブル』に追い抜かれてしまう。まだまだセーフゾーンには入っていない。
今の所は参加者に女性を起用した事の話題性などで引っ張っているが、参加者が順調にサード・ギミックもクリアした事で視聴者の中にも『飽き』が出始めている事だろう。次のフォース・ギミックではそろそろブルーチームに続いての脱落者が欲しい所だ。でないとマンネリ化してしまう。
流石にネイサン自身が用意したフォース・ギミックであれば、視聴者が満足するような展開を起こせるはずだ。だがそこで完全に全滅してもらってはゲームが終わってしまう。さじ加減が難しい所で、ネイサンの采配の見せどころでもあった。
そんな彼の元にADが駆け寄ってきた。彼に面会希望者がいるとの事だった。名前を聞いたネイサンはすぐに応対に出向いた。何といってもEBSのスポンサーの一つであり、今回のゲームの『発起人』でもある相手だ。無下には出来ない。
「やあ、済みませんな。お待たせしました」
応接室には既に二人の人物がソファに腰掛けて待っていた。どちらもネイサンより年下の若い男だ。だがその内の一人の立場を知っているネイサンは遜った態度で接する。
「ミスター・ブロデリック。番組が好調なようで何よりだな」
その人物が立ち上がって手を差し出す。ネイサンは彼――ベルゲオン社の若きCEO、ギルバート・フィッツジェラルドと握手を交わす。
「ええ、お陰様で」
対面のソファに腰掛けながらネイサンが内心を押し隠して頷く。だが……
「しかし今一つ伸びが悪い……。もう一押しが欲しい。そう思っているのではないか?」
「……っ!」
容易く内心を言い当てられたネイサンが思わず動揺してしまう。ギルバートの笑みが深くなる。
「時にミスター・ブロデリック。『ケルベロスの顎』でも今までに優勝者が一人も出ずに全員脱落、という回が何回かあったと記憶しているが……」
「え? ええ、まあ、それは……」
相手の言いたい事が解らないまま、ネイサンは渋々ながら認めた。参加者の戦力を考慮しながら何度も協議を重ねてゲーム形式やギミックを考えるが、それでも神ならぬ身ではどうしてもミスをする事は出てくる。
基本的にデスゲームは誰が、もしくはどのチームが勝ち残るかを賭けるのが醍醐味となっているので、全員脱落という結末を視聴者は望んでいない。他の番組のデスゲームもこの辺りのさじ加減を間違えて何回も連続で優勝者なしの結末を迎えてしまい、視聴者から苦情が殺到して打ち切りに追いやられた番組は数知れず。
プロデューサー他スタッフの采配に掛かってくる部分は非常に大きい。このプレッシャーに負けて八百長に走るプロデューサーは多い。しかし八百長は必ずどこかで発覚する。そして八百長が発覚した番組は、TV局ごと信用を失う羽目になる。そんな局を今までにいくつも見てきた。
ネイサンが名プロデューサーと言われる所以もそこにあり、彼が『ケルベロスの顎』のプロデューサーに抜擢されてからというもの、優勝者なしのゲームは一度もなく、それでいて優勝者だけが生き残り他の参加者は全滅するという絶妙なラインを演出してきた為だ。勿論八百長は一切なしでだ。
ギルバートはかぶりを振った。
「なるほど……。君の目から見て『彼女』はこのゲームをクリアできそうかな?」
「彼女、ですか……。確かに彼女がここまで生き延びる事は予想外でした」
彼女――アンジェラの指揮官としての采配は見事なものだった。マックスを始めホワイトチームに掛けた大穴狙い達は今頃予想外の健闘に期待に胸を膨らませている事だろう。
「ふむ……。だが我々としては彼女がこのゲーム内で死んでくれないと少し困るんだよ」
「そ、そればかりは、私にもなんとも……。彼女は次のフォース・ギミックで『アレ』に当たるはずですから。そこで死ぬ可能性は充分ありますが」
どこか特定のチームだけが死ぬように仕向けたら、それは立派な八百長行為だ。ネイサンは自らの矜持に掛けて、八百長に手を染める気はなかった。
「いや、何。君に迷惑は掛けないよ。今日僕がこうして出向いたのは、もし『彼女』が次のギミックを乗り切った場合に……『キー』を入手する前の最後の関門に『彼』を使って欲しいんだ。僕の『頼み』はそれだけだ」
ギルバートはそう言って、隣に座っている同席者の方に視線を向けた……
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