Game15:他チームの動向(4)
同時刻。東地区、レッドチーム。
唸りを上げて振るわれる大斧をアルフレートが間一髪のタイミングで躱す。それを見ているジョージーナは文字通り寿命が縮む思いであった。
「こいつ!」
大斧を躱した隙に反撃でサーベルを相手の胴目掛けて薙ぎ払う。サーベルが脇腹に食い込む。しかし何と相手はお構いなしに強引に斧を振り上げてきた。
「何っ……」
「ウゴアァァァァッ!!」
奇声を上げながら大斧が縦に振り下ろされた。
「ちぃ!」
アルフレートは舌打ちしながらサーベルを手放して後ろに跳んで躱した。敵の攻撃は躱せたが替わりに武器を失ってしまった。
「ア、アルフレート……!」
「下がってて、ジョージーナ。……参ったな。こんな『化け物』に遭遇するとは。こいつが主催者の言ってた『ギミック』って奴か?」
今、二人の前には優に身長が2メートル、体重は200キロを越えそうな体格の大男がいた。田舎の農夫が纏うようなオーバーオール姿に顔は溶接作業用のヘルメットで隠れている。その両手には人間の首など一撃で断ち切れそうな巨大な斧が握られていた。
ファーマーズ・マーケットに到着した二人を出迎えたのがこの『怪物』であった。その迫力のある姿を見ただけでジョージーナは震え上がって腰を抜かしてしまった。
幸いというか『怪物』は知能が足りないのか、それとも自信があるのか、ジョージーナを狙わずに前にいるアルフレートのみをターゲットにしていた。
「グルルゥゥゥ……!」
『怪物が』が再び斧を振り上げて突進してこようとした。咄嗟に身構えるアルフレート。だが……
――ガツンッ!
「……!」
何かが『怪物』の頭に物凄い速度で当たり、その衝撃で『怪物』がよろめいた。ジョージーナが視線を巡らせるとそこには何かを投げた姿勢の『怪物』にも劣らない大男がいた。緑色のシャツを着ていた。
ジョージーナは男の顔に見覚えがあった。他のチームの参加者。グリーンチームだ。
「おい、デカブツ! お前強そうだなぁ! 俺と勝負しろや!」
大男は吠えながら『怪物』を挑発する。頭に瓦礫をぶつけられた『怪物』は怒り狂ってターゲットを変更した。
「ヌガアァァァッ!!」
「おおおおぉぉぉぉっ!!」
大男もスレッジハンマーを取り出し振りかぶる。お互いの武器が正面から衝突し、重量級同士の押し合いになる。
「おら!」
大男が『怪物』の脚にローキックをかます。『怪物』が体勢を崩すと一気に畳み掛けようとするが、『怪物』は意外なほど器用な動きで大男のスレッジハンマーをいなす。今度は大男が体勢を崩す。
『怪物』が斧を振り下ろす。大男は相手の腕を抑える事でその攻撃を止めた。再び組み合い、押し合いになる。両者の力は拮抗しているようだ。だが怪物はアルフレートの存在を忘れていた。
地面に落ちたサーベルを拾って『怪物』の背後に忍び寄った彼は、大男との押し合いに集中している『怪物』の首の後ろ辺りにサーベルの切っ先を突き入れた!
「……ッ!!」
『怪物』の巨体がビクンッと跳ねる。延髄の辺りを正確に貫いたようで、さしもの頑丈そうな『怪物』も一溜りもなく即死したようだ。ゆっくりと地面に倒れ込む。
だがアルフレートはいささかも緊張を緩めず、サーベルを構え直した。敵はもう一人いるのだ。グリーンチームの大男の方も両手でスレッジハンマーを構える。一触即発の空気が流れ、ジョージーナはゴクッと喉を鳴らした。だがその時……
「やめな、アダム!」
女の声。見ると大男の後ろに、今のジョージーナと同じ格好でタンクトップの色だけが違う女性がいた。ジョージーナは気づかなかったが割と近くにいたらしい。考えてみればこの首輪があるので離れて隠れているという訳にも行かないのだ。
大男――アダムの相方と思われる女性が足錠の鎖を鳴らしながら進み出てきた。意外にもアダムは女性の言葉に従って身を引いた。信じられないがどうやら女性の方が主導権を握っているらしい。
「アタシはナタリア。こっちはアダムだ。男前の兄さん。一旦武器を降ろしてもらえないかい? アンタ達と取引がしたいんだ」
女性――ナタリアの言葉にアルフレートは訝しげな表情になる。
「取引だって? 俺達は敵同士だぜ? 取引の余地があるとは思えないな」
「あるさ。理由はコイツだ」
そう言ってナタリアは『怪物』の死体を足で小突いた。
「コイツならたった今死んだだろ」
「ああ、アタシ達が手伝ったお陰でね」
「……!」
アルフレートの眉がピクッと上がる。
「おかしいと思わないかい? 『キー』がこんなに早く、そしてあっさり見つかるはずない。それに他の四チームはどこで何してるんだい?」
「む……」
「あのEBSのヘリはトランクをニつ積んでた。アンタ達が見つけたのはその内の一つだろ? もう一個は『別ルート』用で他のチームの手に渡ったに違いないよ」
「別ルートだって?」
「ああ。アタシの予想だとここには『キー』なんてない。あるのは恐らく『次のポイント』へのヒントだね。そうやってポイントからポイントを渡り歩いて最終的に『キー』のある場所に辿り着くって寸法さ」
「な、何でそんな事があなたに解るのよ?」
ジョージーナが当然の疑問を呈すると、ナタリアはチラッとだけ彼女を一瞥し、何故か小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「兄さん。アンタならアタシの言ってる事が解るだろ?」
ナタリアは再びアルフレートに視線を戻す。ナタリアの彼を見る目が少し熱っぽいのがジョージーナには気になった。
「……そうか。視聴者の事を考えればこんなにあっさり『キー』が手に入るはずがない。そして俺達を確実に『ギミック』に追いやりたいなら、確かにポイントごとに待ち構えているのが一番効率が良いな」
「そう。サバイバル、バトルロイヤルであると同時に、ステージクリア型のゲームでもあるって訳さ。全く良く出来てるよ」
ナタリアは乾いた笑いを上げる。
「なるほど、それで俺達と手を組みたいって訳か。次のポイントでも何があるか解ったものじゃないからな」
「そういう事。アダムは頼りになるけど、それでも戦力は多ければ多いほど生存率はより高くなる。なら手を組んだ方が得ってもんさ。そうだろ?」
「じゃあ取引っていうのは……」
「『キー』を入手するまではアタシ達の力を貸してやるよ。その代わり物資も仲良く分け合おうじゃないか」
「…………」
アルフレートが考え込む。確かにアダムの力を借りられるのは大きい。ナタリアもかなり頭が回るようだ。だがそれだけにいつ裏切られるか分かったものではない。
「信用できないかい? まあそりゃ当然だね。ならこうしようじゃないか。普段はアンタとアタシ、そしてアダムとその女をペアにして行動させりゃ良い。勿論夜寝る時や用を足す時も、ね」
「な……!?」
ジョージーナはギョッとしてナタリアを見やる。一体何を言い出すのかと正気を疑う。が……
「……人質という訳か?」
「そうさ。女が死ねば男の方も首輪が爆発して死ぬんだ。つまり互いに相手の生命を握ってる状態だ。それなら下手な事は出来ないだろ?」
「『キー』を見つけた後は?」
「勿論その時は互いに出し抜くのは自由って事だね。どうする? 乗るかい?」
アルフレートは再び考え込むような姿勢になったがすぐに顔を上げた。
「……彼女におかしな真似は絶対するな。それが条件だ」
「アルフレート!?」
ジョージーナは愕然として相方を見やる。だがアルフレートはかぶりを振った。
「済まない、ジョージーナ。だがこの化け物の恐ろしさは君も体験しただろう? この先どんな『ギミック』が待ち受けているか分からないんだ。君と僕が生き残る為だ。協力して欲しい」
「……っ!」
そう言われてしまうと彼女にも文句は言えない。確かにそれが最も合理的な判断だからだ。それを見たナタリアが肩をすくめる。
「安心しな。アダムにはアタシから釘を差してあるからね。じゃあ取引成立って事でいいかい?」
「ああ」
アルフレートは短く頷いた。巨体のアダムがジョージーナの方に近寄ってきた。
「へへへ、そういう訳だ。宜しく頼むぜ、姉ちゃん?」
「……っ」
怯んだジョージーナは思わず救いを求めるようにアルフレートの方を見た。彼は難しい顔でこちらを見つめていたが、彼女と目が合うと大丈夫だ、という風に頷いた。
「ふふふ、アンタの名前を教えてよ、ハンサムな兄さん?」
ナタリアが浮ついた笑みを浮かべてアルフレートにすり寄る。その態度を見ると彼女があのような提案をしたのは体よくアルフレートに近づく為だったのではないかとさえ思える。
ナタリアがジョージーナの方を向いて笑ったような気がした。いや、明らかに挑発するように笑った。
「……ッ!」
ジョージーナの目が吊り上がりかけるが、寸での所で堪える。所詮ナタリア達とは敵同士なのだ。優勝するには最終的にはグリーンチームを排除しなければならないはずなので、それまでの我慢だと自分に言い聞かせる。
その後、二チームでマーケット内を捜索するとすぐに不自然に真新しいロッカーが見つかり、その中には追加の物資と『次の行き先』を示したメモが入っていた。ナタリアの予想は正しかったのだ。
地図の添付された次なるポイントは……『退役軍人病院』であった。
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