Game4:『ダムセル・イン・ディストレス』
「今回は今までよりも厳しいルールになるから、賞金も高いのさ。つまりそれが、特殊ルール『ダムセル・イン・ディストレス』という訳だがね」
ネイサンの言葉と共に、刑務官達の中から何人かが進み出てきた。その手には首輪のような物がいくつも握られていた。いや、ようなものではなく、それらは実際に首輪そのものであった。やはり外装が六色にペイントされており、同じ色のシャツの男女にそれぞれ首輪を装着していく。アンジェラも白い色の首輪を嵌められた。
全員に首輪を装着し終わったのを確認して、ネイサンがリモコンらしき物を取り出してスイッチを押す。すると首輪の端に着いている小さなランプが点灯してロックされた。
「これで良し。さて、もう感づいていると思うが、今回は男女ペアによる初のチーム戦となる。ゲームの基礎的なルール自体は今までのゲームと同じだ。即ちこれから六つある各ゲートを潜ってこの壁の向こうに入ってもらい、これと同じ箱に入ったマスターキーを入手し、入ってきたのと同じ対応した色のゲートから壁の外に脱出したチームが『優勝』となる。当然マスターキーは一つしかないので誰かに先に入手されても『強奪』は自由だ。相手の生死に関係なくね。勿論入手される前に他のライバルを全員『黙らせて』しまうのも、ね」
「……!」
ネイサンは自分の持っている箱を掲げて示す。箱の蓋には大きく『EBS』のロゴが印字されている。
「またそうした生存や戦いに有利になる武器や物資が入ったトランクが、一定時間経過後に投下される。トランクにはその他に、マスターキーの置いてある場所のヒントも入っているので、優先して確保しておく事を勧める。またそれ以外にも様々な『ギミック』を仕込んであるので、『敵』はお互いだけとは限らないと忠告しておこう」
「…………」
アンジェラも含めた参加者達は表情や態度は異なるものの、皆一言も聞き漏らすまいと黙って説明に耳を傾けている。もう既に『戦い』は始まっているのだ。
ルールを聞く限り単純な戦闘能力は勿論、他にも情勢を読む為の戦術能力も要求されそうだ。だがそれらはアンジェラの望む所であった。戦闘でも戦術でも、生半な男に後れを取るつもりはない。そう思うアンジェラであったが、その時何故かネイサンが彼女の方を向いて薄く笑った。
「……と、ここまではまあ今までのゲームでもやってきた事と大差ないルールだ。ここからがいよいよ新ゲーム『ダムセル・イン・ディストレス』の真骨頂だ! まず先程君達に着けてもらったその首輪……それは同じ色の首輪がお互いに連動していてね。どちらかの生命反応が停止すると、ペナルティとしてもう一方の首輪が爆発する仕組みになっているんだ。まさに一蓮托生という訳だ」
「な……!?」
参加者達は皆ギョッとしたように首輪を触る。
「ああ、勿論無理に外そうとした場合や、定められた方法以外でこの壁から出ようとした場合も爆発するからそのつもりで。後、報道用ドローンを意図的に攻撃した場合も失格扱いで爆発するから気を付けてね?」
「……っ」
ネイサンはにこやかな顔で忠告して参加者達を牽制しつつ、説明を再開する。
「そしてそれだけじゃなく……同じ色の首輪が五メートル以上の距離や高さが離れた場合も警告が鳴り始めて、五秒以内に戻らないと爆発するから注意するように。一蓮托生だけじゃなく、まさに一心同体という奴だね! いや、素晴らしい!」
「……ッ!!」
何故か一人で笑って手を叩くネイサンとは対照的に、参加者達は慌てて互いの『パートナー』の近くに寄る。アンジェラの方にも、例の白いシャツの細メガネが寄ってきた。
これだけでも充分に難易度の高いゲームになるはずだが、それでもまだ何かある気がした。先程のネイサンの嫌らしい笑いが気に掛かった。そのアンジェラの嫌な予感を肯定するように、ネイサンが笑みを深くする。
「そしてこれが最後の追加ルールだ。君達、『ダムセル・イン・ディストレス』の言葉の意味は解るかな?」
ダムセル・イン・ディストレス……。
大昔のコミックや映画などで、毎回捕らわれて危機を演出してヒーローに助けられるヒロインを揶揄する言葉であるはずだ。
「…………」
アンジェラは猛烈に悪い予感に囚われた。その予感を裏付けるように、先程首輪を持ってきた刑務官達がまた近付いてきた。その手には……電力式の手錠。
自分の予感が当たった事を確信したアンジェラは唇を噛み締める。刑務官達はアンジェラを含む六人の女性のみを選り分けて、彼女らの両手を後ろに回して手錠を掛けた。
「お、おい! 何すんだよ!?」
黄色のタンクトップを着たギャング風のヒスパニック女が抗議しながら抵抗するが、銃を突き付けられると大人しくなった。更に両足首にも、ゆとりを持たせた長い鎖で連結された足錠を嵌められる。
「その手錠と足錠はゲーム中ずっと着けていてもらうよ。何らかの手段で勝手に外したり鎖を切ったり、もしくは身体の前に持ってきたりした場合、内蔵されているセンサーが作動して、やはり首輪が爆発する仕組みになっている」
「……!」
つまり女だけは後ろ手錠のまま、このサバイバル・デスゲームに臨めという訳か。手錠だけでなく足錠によって、蹴りを入れたりも出来ない。つまり最低限の自衛すらまともに出来ない無力な状態にされてしまったのだ。全力で走ったりも難しくなる。ギャング女や他の四人も一様に顔を青ざめさせる。だがこの連中はまだマシだ。何故なら……
「いやー、でも君らは運が良いね! それぞれ隣にいるタフガイが、君らを守る為に必死になって戦ってくれるはずだよ! 何せ『一蓮托生』だからね! 男に守ってもらうお姫様気分が存分に味わえるぞ! 嬉しいだろう!?」
そう。他のチームは見た目からして『タフガイ』が揃っている。アンジェラの目から見ても明らかに素人ではない強者も何人かいる。だが反面アンジェラの『パートナー』は、お世辞にもタフガイなどと言えた感じではない。明らかに荒事は素人のようであった。現にまるで女達のように顔を青ざめさせていた。
自分が矢面に立って牽引し率先して戦っていけば大丈夫だと思っていた矢先に、この理不尽極まりないルールである。アンジェラは歯噛みして、後ろに回された拳を握り締めた。このルールとこの組み合わせに悪意を感じた。
(まさか……ベルゲオン社が絡んでいるのか?)
そんな邪推までしてしまう程だ。ネイサンが手を叩いた。
「さあ、そんな訳で『オリエンテーション』はここまでだ! これからチーム毎そこに並んでいるカートに乗って、各ゲートまで移動してもらう。そして全員が一斉にゲートを潜ったら……新ゲーム『ダムセル・イン・ディストレス』の開始だ!」
ネイサンの合図で進み出てきた刑務官達に銃で促されて、それぞれのカートに乗り込む。待機していた六台の報道用ドローンが各チームを俯瞰する位置に控える。こいつらが悪趣味な視聴者達に迫真の娯楽映像をお届けするという訳だ。
「ああ、因みに解っていると思うが、『優勝』は一チームのみだ。どこか一チームがキーを入手してゲートを脱出した時点で他の首輪は一斉に爆発する。後、制限時間……一週間が経過しても『優勝』が決まらなかった場合は、勝者無しで全員爆発だ! そのつもりで気張ってくれ給えよ!?」
カートに乗り込んだ参加者達の背中に、追い討ちを掛けるネイサンの言葉。
(くそ……ふざけるな! 私は絶対に生き延びてみせる……! こんな……こんなゲームなんかで死んでたまるか! 生き延びて……『自由』を勝ち取ってやる!!)
カートに揺られながら、アンジェラは決意に燃える瞳で聳え立つ灰色の壁を睨み付けるのだった……
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