第18話
「そうしたら、未来が変わる。未来が変われば…今ここに居るこちとらは消滅する。」
「……そうか…。」
「恨まないでね。過去のこちとらも、未来のこちとらも……必死に試行錯誤をしながら世界を支えているつもり。元から、忍でもなかった存在なんだから。」
「お前は、何者なんだ?」
「遠い、遠い…過去の時代、人の目知らずの愚か者。異物といってもいい。」
「異物…?」
「何十、何百、何千の年月日を超えて、幼い人に成りすまし…今度は忍に化ければ…未来で神と崇められ…その先のことはその先に生きるこちとらにしかわからない。表裏の歴史を作る者、変わり目を魅せる者。ややこしい存在。この時代にとっては異物。」
「二次元的突飛な話だな。長、お前は未来から何故ここに?何の目的があって来た?」
「未来の主の為に、ちょいとお使いをね。」
「なんだ?」
「例えば、便利なモノを過去へ置いておこう。誰にも知られない場所に。未来に戻り、それを取り出そう。無いはずの場所から便利道具が現れる仕組み。その作業。まぁ、この時代にはまったく関係がないのだけれど。」
「ということは、その未来では、まだ人は滅んでいない?いや、地球を離れていない?」
「この地球を一度は離れた。けれど、また一部は戻ってくる。神様気取りの妖には、こう古い手作業でしか事を運べないのさ。」
「…そうなのか。」
「あまり長話をしている暇は無いはず。覚えている。こちとらが次に何をするか。あんたらには遅刻されては困る。ただでさえ、既にいくつか未来のこちとらが消滅してるっていうのに。」
「なんだと!?」
「異なる時代に触れた代償。強大な力には必ず代償が付与される。こちとらが本気になり暴走するのも、何もかも全て。完璧なんてありゃしないのさ。時代を超え手を加えれば未来は僅かでも変わる。すると、未来が変わったことによって存在する条件を満たすことができず消滅を強制される。目の前で未来のこちとらが消滅した時には、流石にキツいものがあったけど。」
「それを、止めることは?」
「未来のこちとらが、消滅を覚悟でやったことだからね。きっと、その未来でどうしようもない状況に陥ったんだと思う。救いようもない状況に陥った時の最終手段…。」
「過去に行って未来を変える?」
「まさに。」
「だが、そんなことが可能なのか?運命には逆らえない、だとか聞くが。」
「変えられない未来があるのなら、変えられない原因に手を出せばいい。ただ、それがどれほど昔の時代に落ちているのかはわからない。遠い過去であればあるほどに消滅するモノは多い。だから、最悪の場合…こちとらが産まれた時代から全てを変えなきゃいけなくなる時が来るかもしれない。」
「……それは…。」
「冗談だけどね。未来のことはわかんないけど、過去の事ならわかる。こちとらの記憶に無いんだ。だから、有り得ない。全てが消滅することは無い、と断言できるね。なんてったって、時代を行き来してんだから、こちとらだけは時が止まってんだ。心配なら、過去のこちとらに聞けばいい。全てが終わった後にでも、ね。」
「一つ聞いていいか?未来のお前ならわかるはずだ。過去の…今俺たちが居る時代の長に、迷いはあるか?何か、重い鎖を背負っていないか?」
「成程ね。じゃぁ、過去のこちとらが救われるようにあんたにお願いするよ。過去のこちとらに鎖をかけて。」
「鎖、を?」
「ある意味、これは暴走。主にかけられた鎖が絶たれた状態。野に放ってはいけなかった。」
「どういう意味だ。」
「証を取り戻そうと量産化されたクローンを殺し証が受け継がれる部位を抜き取る。僅かな証がその行為によって消滅していくのに、さらに恐怖を持ってあんたを分身を通して見た時、残るはこれだけだと覚悟した。それでも、あんたを殺せなかった。あんたから証を抜き取れるほど、あんたに受け継がれた証は小さくなかった。」
「何故…そこまで証にこだわる?」
「こちとらに最初に鎖をかけたのは、その証だったから。最後に鎖を残したのも、その証。だから、夜影は逃げられない。こだわりたいんじゃない。自由になりたくないの。」
「なら、今は?未来の長に、証は必要か?」
「それはあんた次第だね。」
「…証を殺せないのは何故だ?」
「忍の名残り。忠誠を誓った主を殺すことはできない。クローンだから、と割り切って僅かな証を殺すのが限界だった。それに、今でもまだ思う。その証はこちとらを制御する力がある。それに逆らえない。どうしても。」
「絶対に?」
「暴走してても、どうやっても。絶対に。」
「今もか。」
「克服できないらしい。あんたの目を見てると…。」
「それは、お前の正体に関係があるんじゃないのか?」
「忍使いの武雷…そのまた昔は先祖が陰陽師でもやってのかねぇ?さて…と。長話が過ぎたんじゃない?」
「夜影の新たな居場所を掴んだ。行くぞ。」
「あぁ。」
「過去の才造も、未来と変わんないねぇ。どうよ、未来のこちとらは?」
「これは浮気になるのか…?」
「才造?」
「気にするな。その口振りだと、どうやらそっちのワシも健在だな。」
「当然。こちとらの旦那がそう早死にするこたないよ。あんたの嫁は、その時代ちょいと荒れてるけどね。」
「構わん。宥めるだけだ。だが…。」
「うん?」
「夜影…色気が増したか?」
「はいはい、お楽しみは未来に取っときな。そんじゃ、行くわ。」
「長、後悔は無いか?」
「無かったよ。そんで、今も無い。『S』、覚えてて。」
「『S』?」
「あんたの名前の欠片。持ってお行き。」
「俺の名前の…欠片…。」
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