常に蚊帳の外

影宮

第1話

 影で生きる者…、忍。

 人に仕え、暗殺や諜報を主に暗躍していた。

 その過去は想像を絶する程に厳しく、修行の中で命を失う者もいる。

 死体を弔うことさえ出来ぬ影が、人の争いに道具のように使われてきた。

 そして、その姿は現在は消えてしまった。

 忍が実際に使用していた道具など、記録は残されており有名な忍の里はその名残りを、忍屋敷は数は少ないがカラクリがそのまま残っているものを保護し、観光にも利用されている。

 現在では、忍は存在しないと。

 伝説の忍も早くに消息を断っている。

 日ノ本一の戦忍は、その忍隊を率いて武雷家が滅んだ時に忽然と消え失せ、そしてその転生異能力を持って再びこの世に姿を見せたのは2002年9月12日、そしてまた消息を断ったのは2019年…年号が変わったあたりからだ。

 記録は此処でこの忍が最後だった。

 この忍と共に生きていた忍らの記録は、去るのと同じにして消えていった。

 そして2020年1月8日、伝説の忍が転生異能力を持つ日ノ本一の戦忍とその周囲の忍らと共に人に紛れて生活していたとする記録が発見された。

 その3日後、それらの記録が2018年に既に人の目に触れていた…つまり誰もが見ることの出来るように物語化し、あるサイトに投稿されていたということがわかった。

 それが、2019年の間に削除されたのか、多くの作品に埋もれた結果我らの発見が遅れたのかはわからない。

 ただ、その投稿者名は本名ではなくペンネームであった。

 作者が忍本人であるならば、話は早いがもし忍の記録を見て描いた想像である場合、忍本人でない場合はあまり期待はできない。

 作者が既に死んでいるということはなく、すぐに特定はできた。

 情報はあった。

 しかし、作者に会うことは叶わなかった。

 物語化された記録を読破し、物語が記憶を抜き出し描かれているところ、そして作者との接触が不可能であることから、忍本人と見た。

 忍が忍であることを隠し人に紛れ潜伏していただけであって、忍と認識され確認されていなかっただけであって、実は現在まで忍は生き続けていたのだということだ。

 忍の死体は確認されず、死因の記録さえなく、ただ消息不明。

 それが忍が滅んだと判断した理由。

 何故、我らがこうも忍にこだわったか。

 現在、忍が大きな組織を作り活動している。

 それが人の殺傷事件、事故に繋がっているばかりではなくなった。

 そもそもその時点で警察や軍隊は動いていたのだが、忍相手に大したことはできなかった。

 忍は機密情報を盗み出した。

 それが何に使われるにしろ、許されたことではない。

 忍へスパイを入れ込むことは失敗に終わり、面影すら残らない肉塊となって木箱に収められ、送り返された。

 忍自体、スパイ活動さえ得意とするのに「目には目を歯には歯を」では意味を成さないらしい。

 スパイである者とそうでない者を見極める方法というのはいくつもある。

 逆に忍にスパイされた時には気付くことが出来ず、スパイだとわかった時にはドロンだ。

 体内にチップを埋め込み、判別を可能にしていたのだが、どうやってすり抜けたのか最初はわからなかった。

 そう…なにも、人だけが体内に同じ判別用のチップを埋め込んでいたわけではないということだ。

 どこかの段階で、忍はチップを受け入れ埋め込んだ…スパイをする目的を最初から持って。

 人によってチップが埋め込まれる場所は異なる。

 チップを辿れば忍の組織へと入り込めるという考えは甘く、その忍は任務を終えてからチップを体内から取り出した、或いはチップが埋め込まれた部位を切断、処理した…若しくは…忍自体を始末したのだろう。

 チップのみを破壊することも、手段を持っているのだとしたら可能だろうが、あの忍の警戒心が許すとは思えない。

 つまり、任務としてチップを埋め込んだ忍はもう生きてはいないだろう。

 切断したのだとしても、その分足でまといになる。

 相手側に潜んだ者として様々な欠点から排除することも有り得る。

 だが、スパイは忍だけでなかった。

 二重スパイといって、我らの仲間が裏切ったのだ。

 忍へスパイとして潜り込み此方へ情報を流すフリをして、実は忍へ此方の情報を流す。

 それが二重スパイなのだが、してやられた。

 我らが二重スパイに気付くまでは、裏切った彼は確かに生きていた。

 いや、生かされていた。

 だが我らが気付いた時、彼は始末された。

 リスクのあるモノを感情無く始末するのは、忍なりの生存方法かもしれない。

 自己防衛かもしれない。

 そうしていないと、何処から崩れえ我らに潰されるかわからないのだろう。

 怯えている。

 だがそのまま数を減らしていけば必ず、忍は滅ぶ。

 長年、このままを保ってきている忍隊が、まったく衰えない秘密も暴きたいものだ。

 忍は全てが悪いわけではないようだ。

 忍には忍なりの考えがあっての行動だろうし、だからといって我らはそれを見逃せない。

 驚いたのは、忍の働きによって核実験が阻止、核が正しく破壊されたことだ。

 破壊された…は正しくはないが。

 厳密には、核兵器が消滅した。

 もし、忍が保有しているとすれば、我らはそれを奪取しなければならない。だが、忍がそれ以来核について触れた行動を起こしていない。

 可能性として、忍が核を我らに突きつけ邪魔をするのであれば消すとでも言うかもしれない。

 何に使うかは多種多様。

 核兵器廃絶に、忍が協力するとは思えないのだ。

 何を目的とし、忍が活動を続けているかはわからない。

 忍の組織は日本に限定されており、その組織の拠点は各地に存在する。

 本拠地は未だ不明だが、一つ拠点を破壊した。

 だが、それは仮拠点という名のダミーだった。

 忍が数名そのダミーで活動し、我らが攻め入ると同時に姿を眩ませた。

 そしてその直後、数名の忍によって軍隊員が数名、拉致監禁された。

 もしかしたら、攻め入られることを察知し、その機に乗じたのかもしれない。

 一瞬の隙を突き、軍隊員を捕え何処かの拠点に監禁。

 通常ならばそのまま殺されるであろう軍隊員は、歩いて戻ってきた。

 体内に、爆弾を抱えたまま。

 そして、泣きながら自爆した。

 その爆発によって肉塊すら消滅した軍隊員と、巻き込まれた者は死した。

 意外にも戻ってきたということに油断したのがいけなかったのだ。

 軍隊員は、自分が爆発を飲み込まされていることを、それが仲間の元で爆発するものだということをきっとわかっていただろう。

 それなのにただ泣くだけで、何も言わなかったのは口封じがされていたと見える。

 そして彼らが簡単にそれに引っ掛かった理由、彼らの家族や恋人で脅された以外に想像ができない。

 忍術で操るわけでもなく、自らの足で歩かせ死ねと命じたのは、酷いものだ。

 我らは、それが忍からの警告であったのだと気付いたのは、それから立て続けに自爆があったからだった。

 飛行機のパイロットに成りすました忍が、突っ込めと指示を出し自分は飛行機から飛び降りたのだという記録もある。

 上空から飛び降りたとなればパラシュートがなければ結局は死ぬのだろうが、そもそもどのタイミングでどうやって飛び降りたのかもわからない。

 もしかしたら、飛び降りたのでもなくそれは分身であった場合も考えられる。

 飛行機の操縦士はただ一人、それに従った。

 乗客含めて、全員がそのまま死んだ。

 次には、烏と黒猫に爆弾を持たせて人へ近付かせ爆破したことだった。

 烏は上空から小型爆弾を落とし、猫は咥えていた爆弾を人の足元へ置いていく。

 烏、黒猫が死ぬことはなかったが、その後を追って見ると忍が烏、黒猫を撫でる様子が確認された。

 そして、小さな声で会話を挟んだ後に新たな爆弾を持たせる行為まで確認出来た。

 それは、忍が動物を使役可能であるということがわかる。

 その烏、黒猫を捕まえ爆弾を処理し保護と称して檻に収めた。

 しかし、烏は自ら檻の鍵を器用に開け脱走、黒猫もどうやって鍵を解いたのか脱走を果たしていた。

 監視カメラには、廊下を疾走する黒猫と、窓を器用に開けて飛び去る烏の姿が映っていた。

 我らがお前に依頼する理由はわかるだろう?

「俺なら忍と戦りあえる、か?」

 そうだ。

 忍が保有する核の破壊、忍の無力化を頼む。

 勿論、一人での任務だ。

 装備の支給は期待しない方がいい。

「了解だ。その忍の詳細は?」

 忍の組織、忍隊の拠点はいくつか場所はわかっている。

 だが、本拠地はまだわかっていない。

 核を保有しているという確証はないが、もし保有している場合は即刻破壊してくれ。

「まずは本拠地を探せと?」

 そういうことになる。

 忍と接触ができれば、その忍を捕らえて吐かせるまでだ。

 忍の記録からして、銃弾の速さも追える素早さはある。

 彼らの本領は、暗殺に諜報だ。

 わかっているな?

 忍の詳細は残念だが、忍隊の長の記録ばかり残っている。

 今はまだ役に立てそうにない。

「長がわかれば、その部下への対処もきくだろう。」

 いや、そうとも言えん。

 忍隊には十勇士といって、長を含めた上位十名が存在する。

 忍隊の無力化は、この十名を全て殺す他ないだろう。

 或いは、交渉し活動停止させるか。

 十勇士の頭は長だが、他九名は長とは異なるそれぞれの得意分野で戦いを仕掛けてくるだろう。

 忍と言えど、我らが想像する忍とは実際にはまったく異なるモノであると見た方がいい。

 イメージで行動を決めるなよ。

 ここにある記録も、偽りがあっても可笑しくはない。

 我らの勝ち目となるのは、お前だ。

「そうか。記録には何て書かれてる。」

 記録には…、ぐぁっ!?

 誰だッ!?

 クソッ!!

 あ、ガ、ガガ………。

 ザー―――。

「おい!どうした!!何があった!!」

 ザ、ザザ、ガ。

 ガタ、カチッ。

「なんだ?」

 ビー―――。

 これか?

 嗚呼、それで間違いない。

 長の記録……か……、重要そうな内容に見えん。

 長曰く、脱字誤字の修正をしたいとか。

 暇かよ…あ、今は暇か。

 さて、時間が余ったからな……何処に行く?

 ん、この無線機…明らかに電源入ってる…よな?

 うわぁ、筒抜けかよ。

 まぁ、大したこと喋ってないし大丈夫だろ。

 ガタタッ。

 おい、ドアを開けろ!!

 邪魔が来たな。

 帰るか。

 ガチャッ、カツカツ、ブツッ―――。

「忍か……?」

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