第12話

「主ぃ、落ち着けって。」

「…長は、あぁいう奴なのか?」

「……長は変わった。武雷が滅んでから、弱くなった。」

「弱くなった?」

「昔は…武雷がまだ生きてた頃、戦国時代の話になる。長は、喜怒哀楽が無い忍だった。」

「感情が無い?まったく?」

「初期は欠如していた感情が幼い主に絆されて徐々に人並みには感情表現ができるようになった。」

「今と変わらないだろう。」

「違う。明らかに。長が可笑しい。」

「それには同感だな。」

「四番手。何が当時と違う?」

「武雷が滅んでから、人里に触れて、紛れて、才造と長は一緒に暮らしていた。人とまったく同じように。」

「お前たちは?」

「俺らも近辺で人に紛れてたさ。会社、喫茶店…なんかで働きながらな。」

「夜の字は、それから暫く経って、生き残りの忍を集めて、人の目から隠れることを決めた。その理由は俺らにも明かされてない。」

「だが、いきなり消えればお前たちと今まで接していた人間は気付くだろう?」

「忍だと気付かれてなかったんだ。行方不明者としか見られていない。大勢の行方不明者が突然出たことも報道されてる。記録にも残った。」

「ニュースになるほどか。」

「十人が居なくなるどころか、何十、百まで居なくなったんだ。それも、範囲は広島に限られた。記者が目を付けない方が可笑しい。」

「『集団行方不明事件』か。何の前触れもない、同時に消えた未解決事件。」

「それが、人に紛れてた忍隊総員だった。」

「だが、そんな大勢が何処に隠れる?無理がある。」

「そもそも忍は忍の里を作りそこで人に隠れて生活し、育てられ外に出て人に仕えていた。可能だ。」

「それは昔の話だ。山も残らないこの日本で、どうやって隠れたんだ。」

「忍の隠れ里を作った。それだけだ。」

「何処に?どうやって?」

「今もまだ残っている。主にだけ教えておこう。もし、何かあった時は忍の隠れ里に身を隠せばいい。」

「数は二つ。琵琶湖の底と、瀬戸内海の海底。そこに入口がある。」

「現実的に考えて不可能だろう。ファンタジーじゃないんだぞ。」

「長が作ったモノだからな。不可能、可能を言っても仕方ない。いつ、どうやって作ったのか、わからないんだから。」

「お前たちは何も知らされていないのか?」

「長は昔からそういう忍だからな。騙すならばまず味方からって言うだろ。知った俺らが少しでも敵に勘づかれるような言動を取らないように、必要最低限で行動する。」

「お前たちはなんとも思わないのか?」

「思うも何も、長が間違ったことはない。寧ろ、こうした方が安全なんだろうな。」

「安全…か。随分と信頼されているようだな、長は。」

「話を戻すぞ。長い間隠れたままの生活だった。人になった長は感情豊かだったし隠し事も減少していた。それなのにその潜伏期間に、欠如した。」

「何かあったのか?」

「いいや、何も。感情表現も何も変わってないように見えた。見せられてうただけだった。才造と頼也が気付いてからやっと気付けた。長の様子が可笑しいことも。」

「長を、疑っているのか?」

「どうだろうな。疑い、というより心配、に近い。長が何かを企んでるのは確定だ。」

「それは、今も?」

「達成されてないんだろうな。ただ初めてだ。長なら今まで才造や頼也にさえ気付かせないで目的を達成させてた。それなのに。露骨だ。」

「露骨…。」

「長の感情表現に違和感があるし、何処か別人みたいな感覚…。」

「その二番手と三番手は長と兄弟か何かか?」

「いいや、才造は旦那で頼也は親友。近い分、長のことをよくわかってる。だから疑惑の念に舌打ちしてるのはこの二人だ。」

「探りをかけているのか?」

「かけようもないらしい。どうも、拒絶するんだとか。夜の字は今まで許していた距離感を許さない。俺ら全員に対する警戒心。」

「警戒心?長がか?」

「そうだ。長なのか、長に酷似した偽物か。わからない。」

「長いこと一緒に行動してきたのにか?」

「長が死んでる可能性もある。」

「おい、それは…。」

「転生するまでの間が、長い。死んだのがいつなのかもわからない。これが偽物だったとしたら、この弱体化には説明がつく。ただ、俺らを欺けるほどとなれば、長しかいない。ここで矛盾するんだ。」

「ワシは確信を得たがな。」

「才造、おかえり。任務は?」

「夜影が、『伝説野郎の痕跡を辿れ』とは命令しないはずだからな。元からしてない。」

「は?じゃ、今までその任務中何してたんだよ。」

「夜影かどうかを見極めていた。頼也は任務しているがな。」

「何故、命令しないと判断できた?」

「旦那が嫁のことを何も知らないことはない。夜影は、伝説野郎をワシに今更任せない。」

「ということは、偽物か?」

「偽物か、操られているかはこれからわかる。夜影が戻り次第、仕掛ける。」

「何を?」

「押し倒すだけだ。夜影なら、ワシに押し倒されて抵抗はしない。文句は言うが、されるがままだ。」

「正気か?」

「勿論、ワシを嫌がって攻撃に移る可能性は本物でもあるから、協力しろ。」

「基準がわからんな。押し倒されそうになる段階は駄目で、押し倒されたらもういいのか。」

「諦め、だな。押し倒された後はもう好きにしろ状態に陥るだけだ。」

「そう簡単に押し倒せるのか?」

「だから、協力しろと言っている。若しくは、主が何かしら仕掛ければいい。主かワシならば尻尾を掴める。夜影の性格上、な。」

「俺が何をすれば尻尾を掴めるんだ?」

「知らん。」

「おい。って、もうそろそろ夜の字帰ってくるぞ。」

「協力って…。」

「何の話?何の協力?」

「おかえり。」

「あぁ、主。ただいま。」

「夜影。」

「ん?って、ちょっと待った!何考えてんの?」

「ワシの嫁がワシの考えを察せないわけがない。」

「あんたねぇ…。」

「長、話がある。」

「え?この状況で?」

「大事な話なんだが。」

「その大事な話をこの状況で!?」

「あぁ、実はな…。」

「ちょ、語んないで!?」

「隙あり!」

「きゃっ!?ちょ、才造!今すぐ退きな!!」

「殴るな。成程、そうか。」

「何処触ってんの!!いくら旦那でも、」

「誰が誰の旦那だ?どちらかというと、父だろう?」

「な、何言って、」

「才夜、だな?夜影に似て、声も顔も…またややこしい。」

「……その娘と嫁の区別もできないってどうなのよ、親父。」

「残念だったな。お前の母なら押し倒されて殴るような性格じゃない。それに、触ればわかる。違う。」

「おぉ、此処で変態能力発揮か。」

「否定はしないが、そういうのはやめろ。で、何を企んでるんだ?答えによっては、娘だろうとただじゃ済まん。それは理解してるな?」

「……母さんが、伝説の忍と組んでるから。忍隊の皆や、親父も、私も捨てて、敵に回ってる!!そんなの許せない!!」

「才夜…。」

「絶対、伝説の忍を殺してやるんだから!!」

「そっちか。…じゃなくて、才夜、何故それを言わなかった?いつそれを知った?」

「黙って母さんの振りをしてたら、皆協力してくれるから。母さんが武雷の証を使って、コイツを造ったから!!」

「俺を…!?長が、か?」

「そう!戦争を、望んでるのは母さんなの!!新兵器全部、母さんが!!」

「…有り得なくは無い話だな。」

「二番手…、どういうことだ?」

「武雷忍隊の生き残りの殆どは、戦忍。十勇士全員戦忍だ。戦忍は、戦の兵器と言ってもいい。現代の人型兵器と同じだ。」

「アイツらと同じことを言うのか。お前は、そういう風に、言うのか。」

「事実だ。そういう風に育てられた。殺し、主を守る。それだけの為に。だが、それは完璧ではない。現に、ワシら忍隊は戦を望まない。もう、忍の暗躍するような時代は終わった。それでいい。」

「なら、何故?」

「夜影は、ワシらと違う。武雷の主に仕えるまでは、自分以外を排除する兵器だった。暴走はその名残り。戦のない世では生きていけない。その精神は消えていない。ワシが、人里に引っ張っていき、人として生きること共に選んだつもりだった。」

「つもり?」

「夜影は、暇を嫌う。殺傷を好む。それも名残り。刃のような鋭利なモノを好み、それを目にし触れた時興奮状態に陥り敵へ向かうのも、そうだ。それは変わらない。戦を望んでいる可能性は大きい。」

「なら、何故伝説の忍と組む?単独でも可能性だろう。」

「確かに可能だ。これは一致。」

「一致…、長と伝説の忍が二人とも戦を望んでるって言いたいのか?俺らを裏切ってまで?」

「裏切り、というよりは夜影からすればワシらが戦を望まないのを知っているから離れたんだろう。戦を好まないワシらを連れて行くことができない、と判断したとしか思えない。」

「母さんを止めなきゃ!!核兵器だって、使うかもしれない!!そしたら!」

「その心配は無用。」

「どうして?」

「夜影は自らの手で殺るのを好む。核に興味は無い。兵器は、伝説の忍の方だろうな。夜影はただ、殺す快感に溺れたいだけだ。暴走したがっている。」

「暴走したがっている?」

「止めるには、制御する存在がいる。夜影は今、主を武雷を失った反動で走ってることになる。」

「その制御する存在は何処に?」

「お前のことだ。」

「俺が?どうやって?」

「伝説野郎がお前を造った理由は、夜影の制御の為。お前を使って、夜影を操作しようとしている。」

「長をコントロールすることができるのか?そう簡単に?」

「夜影は武雷の声、目に弱い。逆らえない。つまり、お前の命令『殺せ』『止まれ』さえあればいい。お前を造り、お前を従わせて、お前に夜影を従わせる。伝説野郎が、潰すべき頭だ。」

「才造、よく察せられるな。」

「だから、任務と偽って見極めていたといったんだが。色々と調べ回っていたんだ。」

「親父、母さんを止められるの?」

「操作機器が此処に居るからな。夜影の制御はワシらならば可能。だが、伝説野郎の動き次第では、どうなるか…。」

「才夜は何故長のことに詳しいんだ?最後の命令は、長だけが知っているものじゃないのか?」

「わかんないとこは全部私が即興で作ってただけ。だから、本当の最後の命令はわかんない。」

「そうか。」

「それに、あんたを連れて逃げたのは私だし、伝説の忍が研究員を殺したっていうのは嘘。」

「制御できない長を、伝説の忍は今どうやっているんだ?」

「知らん。だが、制御が効かん今立場上有利なのは夜影だ。夜影の方が強いからな。」

「そうとも限らんぞ。」

「頼也か。」

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