第25話

ピーンヨロー

「トンビか。」

「主、敵襲が近くまで来ているらしい。鳶が次に鳴いたら、頼也の閃光がある。次に霧だ。」

「あぁ。」

「才造、敵の飛行型兵器は撃ち落としていいのか?」

「撃ち落とせばワシらに被害があるんだが?」

「空中処理をかければいい。」

「そうしてくれ。」

ピーンヨロー

「来るぞ。死ぬなよ。」

「了解。」

キィーン

カッ

「頼也、閃光の程度が過ぎる…。目眩しどころかそれ以上だぞ。」

「頼也も浮き足立ってんじゃねぇの?」

「小助、敵襲の戦力は見えるか?」

「兵器を積んだな。片っ端から破壊しねぇと、いくら硬いっつってもこの氷壁ひょうへきが耐えれねぇ。」

「ワシは毒薬を撒いてくる。霧も問題無さそうだからな。あと、数分くらいか。」

―――らーらーらー―――

「当てやすい的だな。」

「忍だけでも防げそうな勢いだな。まだ霧も薄い。今の内に前進するぞ!」

「ん?あれは…。」

「小助!何処に行くつもりだ!!」

「…ッ!!才造…、不味い…この俺でも引っかかる。罠だ!」

「罠だと?」

「幻覚…に、気を付け、」

ドサッ

「小助!幻覚?この状況で、か?…ッ!!頼也!!戻って来い!!冬獅郎、三好もだ!!」

「何があった!?」

「頼也と三好は…クソッ!冬獅郎、幻覚らしい。小助がやられた。ただの幻覚じゃなさそうだ。」

「……厄介だな。頼也と小助、それと才造…お前だけは戦力として欠けたら困る。霧を濃くして下がった方がいい。」

「冬獅郎、お前も下がれ。いや、忍隊総員、下がれ!主の部隊の背後から後方支援に徹する!」

「何が原因かはまだ不明なだけ、面倒だな。頼也がわからない。三好は…上で倒れてる。回収に行く。」

「冬獅郎、お前は行くな。」

「だが!」

「分身を使う。敵に忍隊の動きを悟らせてはならん。」

「…まさか、総員、分身をさせる気か?」

「なんだ?不味いのか?」

「いや、鬼畜な策をとるな、と。」

「関心する暇があるならさっさと分身を出せ。三好を分身で拾ってこい。」

「…!?忍隊の数が増えた?こんなにいたか?まぁいい。好都合だ。」

「頼也は?」

「分身で探してはいるんだが…諦めた方が良さそうだ。」

「捕まったか…。後で救出に行かんとならんな。それは兎も角、十勇士は頼也と夜影を除いて揃ってるな?」

「意識ないけどな…。」

「さて…分身にも限界がある。部下の減りは?」

「捕まった可能性があるのは頼也だけだ。」

「まさかこう攻められるとはな。いつまでも休んでいるわけにもいかん。ワシらは防戦よりも攻戦の方が得意だからな。」

「防戦といったのはお前だろうが。なに攻めに転じようかみたいな雰囲気を、」

「攻めん。後方支援と言った通りにする。援護射撃準備に移れ。」

「援護射撃…って、あぁ、なるほど。俺には俺の、でか。」

「得意だろ?」

「任せとけ。見ずとも当たる射撃だ。得意もくそもない。」

キィーン

カッ

「閃光!?どうやら頼也は問題無いらしいな。」

「多分、敵で遊んでるぞ。阿呆め。」

「ったく、こりゃどういう戦況よ。才造らしいわ。」

「夜影!?」

「どうした?才造?」

「これが幻覚、か?」

「幻覚作用を疑うのはいいけど、こちとらを疑うのは嬉しくないね。」

「冬獅郎、夜影が見えるか?」

「何処に?」

「上だ。」

「上?…って、え!?帰ってくるの早ッ!?」

「頼也に幻覚作用の心配は要らないから気にしなさんな。」

「修行か何かか?」

「いんや、ただ単に何も見えてないだけ。」

「いくら夢中でも、」

「そうじゃなくて、目隠ししてお楽しみ中なの。だから、本当に見えてない。」

「阿呆なのか?それとも、天才か?」

「視界を消さないとやってらんないのさ。悲鳴が上がる前に殺せても、血だけは避けられない。こちとらだからわかるわ。頼也もこちとらも、血にはちょいと面倒な精神だから。」

「お前が、暴走するのは血だと言いたいのか?」

「暴走の条件は血じゃないかんね?そうじゃなくてさ、変に興奮状態陥っちゃって、やってる最中はいいけど終わった後に放心状態になったりとか、精神的に極度に不安定になって、感情の起伏が激しくなるとか、鬱っぽくなるとか、色々面倒な状態になるの。戦力としては別に問題ないんだけど、本人は苦痛でね。最悪の場合、数日はずっとその繰り返しになる。」

「だが、いつもは目隠ししないだろう?」

「一人で仲間の目が届かないって時は目隠しするよ、頼也は。それに、誰かと共闘したあとは必ず一人になるでしょ?そん時に、精神統一してみるとかしてどうにか自分なりに上手くやってるみたい。」

「血が、駄目なのか…。」

「こちとらの場合、この片目が赤くなった原因が血だからねぇ。」

「目の色素が極端にないから血管が見えて赤いのかと思ってたんだが。」

「こちとらは兎か。初めて人を殺した時、片目にそいつの血が入ってさ。何故だか、その日からずぅっと赤目。目を洗っても治らない。多分、妖の影響もあるかもしれない。」

「目が蒼くなるのもか?」

「それは単に妖力の影響。自分が殺した相手の魂と頭蓋骨を合わせて操るあの術ってのは、そもそも猫又のできることじゃなかった。九尾の狐、雪さんに育てられた時に得た術。その術を扱うのに雪さんの妖力と同じものを自ら生み出せるように修行を積んで、可能になった。その過程で蒼くなるようにもなった。この蒼は、雪さんの目の色と同じもので、つまりは雪さんと同じ力を使おうと切り替えた時にどうしても蒼くなってしまう。」

「妖の目の色ってのは、妖力次第なのか?」

「そう。目の色が同じ妖なら、妖力の代用がきく場合が多いし、使う術も似ていることが多い。ただ、妖も忍と同じく本領は騙し討ちにある。目の色だけでの判断は馬鹿のすることよ。」

「ちなみに、夜影の漆黒の片目は?」

「あぁ、人間様より不自然に黒いでしょ?どこか特化したようなとこもないけれど、総合的に大概のことはできる。漆黒ってのは、偏りがつかなかったせいで何色にもならなかったってだけ。蒼くなるのは、そっちに力を偏らせたせい。だから、実のところ…教えられ修行さえすればできないことはなかった。だから、雪さんのようにもできる。」

「成程な。」

「そこで楽しくお喋り中悪いんだが、分身が疎かになってるぞ。戦の真っ最中に余裕だな、おい。」

「あっはは、まぁね。」

「影、いつ戻った?そろそろ終わりが見えてきたぞ。」

「長ぁ!!手を貸せ!!」

「主のお呼びなら、仕方ないね。頼也、目隠しのままちと休みな。」

「……。」

「頼也、何故血が駄目なんだ。」

「俺が、忍に向いていないからだ。」

「どういう意味だ?」

「俺がもともと盗賊だったのを知ってるか?」

「盗賊…だと?」

「才造、お前の先祖が薬師だったように、忍じゃなかった。忍の里に盗みに入り殺されかけた。運良く生かされた俺は忍として育てられる羽目になったんだ。無殺の盗賊聞いた事くらいはあるだろう?それの次期頭領だったんだ。」

「盗賊の仲間は?」

「知らない。俺は、忍になって初めて誰かを殺した。その時の風景、感触をよく覚えている。」

「それが、精神的打撃を与えたのか。」

「快感だった。」

「……頼也…。」

「これが、者を殺す快感なのか、と。溢れ出る血を浴びて、命が絶えるのを見るのが楽しかった。俺は、最初から人殺しの才能があったらしい。狂ったように周辺の人間を殺した。夜影ならわかる。夜影は俺と同じように、」

「頼也!…夜影と同じにするな!夜影が、お前と、」

「影の伝説を忘れたか?狂ったように同業の忍を殺し、忍の里さえ滅ぼし続けた。俺と、同じだ。狂った人殺しだ。夜影のように、戦に酔いしれ、殺しに楽しみを見出し、爽快感を得る。何が違う?言っておくが、影の暴走と俺のこれが同じだと言っているわけじゃない。暴走については知らないからな。」

「血を見ると、狂うのか。」

「正しくは、血を見ると歯止めが利かなくなるだけだ。感触さえわかれば殺す快感は得られる。狂っているのは最初からだ。それでも、お前や影…誰かと共闘をしているとどうにかなる。その仕組みは俺自身もよくわかってはいないが…。」

「お互い、本当にここまで長い付き合いのくせに何も知らねぇな。」

「そういうものだろう。人間もな。忍なんだから、人間よりもわからないものだ。」

「その狂いの割りには、才造に勝てないんだな。」

「才造の戦法と俺の戦法は相性が悪い。俺の閃光は才造の霧の中では変に反射してな。なかなかに幻想的になる。」

「戦闘中に見とれているわけじゃないだろう?」

「当然だ。閃光と霧はどちらも視界を妨害するものでしかない。霧は閃光すら妨害する。どうしようもない。」

「嗚呼、そういうことか。」

「冬獅郎の場合は、氷があっても閃光が厄介なんだろう?」

「氷で閃光を反射させられて、目潰しだぜ?」

「目隠しするくらいだから、頼也は目が見えずとも問題ないんだろうな?っていうか、だから閃光なんだろうけど。」

「盗賊の時から視界を捨てた戦闘は可能だった。」

「あんたら…こっちで大乱闘してるってのに力添えもなしかい?」

「もう終わったんじゃないのか?」

「トドメは主に任せてきた。ほら、戦の後片付けに取り掛かりな!」

「了解。」

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