第21話

「見た所、あの兵器はまだ完成系じゃなさそうだ。今の内に破壊しておいた方がいい。が、これが複数あるのならば難儀するぞ。」

「長が読み込まれているんだよな?」

「それがどうした?」

「俺の声が通用するのかどうかだ。制御、できるんだろう?」

「…やってみる価値はあるかもしれん。ただ、通用せん場合は即、戦闘に入るぞ。」

「わかっている。…夜影!」

 ―――侵入者の発見に失敗―――

 ―――警戒態勢を解除―――

「俺は名前しか呼んでないんだが…こうなるのか?」

「多分だが…、単純に声を聞いて警戒すべき相手じゃないと判断したんだろう…。」

「自爆しろ、と言えばするのか?」

 ―――自爆態勢に移行―――

 ―――道連れ範囲―――

 ―――約四九八九―――

 ―――自爆開始―――

 ―――十秒―――

「あ。」

「おい!!離れるぞ!!余裕で巻き込まれる!!あの機械に聞こえる範囲だったら命令になるんだ!!」

「わ、悪い…。予想外だった。」

「というか…、夜影を読み込んだにしては単純過ぎるだろうが…。」

「確かにそうだな。長はこうじゃないだろう?こうしないと、都合が悪いのか?」

「そうかもしれんが、酷過ぎると思わんか?お前さえ入れば難儀しなくて済むとは言え…。」

「ポジティブ思考で行こう。気にするな。さて、長は?」

「今の爆発音で警戒して出てこないだろうな。」

「まるで猫だな。」

「猫又だからな。」

「それで、出てくるまで待つのか?」

「お前に、そういった忍耐力があるのならばそれでもいいが?」

「忍ほどとは言わないが、そこらの奴よりかはある。」

「やめておけ。夜影と忍耐力勝負したいなら別の機会でいい。何年もかける気は無い。」

「年単位、なのか…。」

「耳栓するような性格はしてないからな。いっそ、命令を叫べ。それが早い。」

「だんだん、疲れてきてないか?」

「疲れないと思ったのか?」

「忍はタフだと思っていた。」

「一応言っておくが、忍も人と変わらん。特殊な修行を終えて人より優れただけに過ぎん。現実を見ろ。二次元じゃないんだぞ。ワシは長期任務帰りに即行で夜影を探してるんだ。」

「俺の場合、その長期任務後ならどうなってる?」

「人造人間がどこまで優れたものか知らん。まぁ、察するが無休で夜影探しは無理だろうな。せめて腹に何か入れんことには空腹で気が散るだろうし、一睡くらいはしておいた方がいい。どうせ、そんな訓練もせんだろう?」

「三日間なら無睡で働ける。訓練はしたが人間の限界なんだろうな。」

「当然だ。軍人のお前やワシら忍は一般人の無睡三日と違う。人間は三日間以上無理に働けば過労で倒れる可能性がある。最悪は過労死だろう。夜影が過労でよく倒れるのと同じだな…社畜か何か知らんが。」

「三日以上働く為の薬品も開発されているだろう。」

「やめとけ。そもそも生物は自然に逆らうべきじゃない。お前もワシも、変わらんがな。」

「変わらない?」

「意図的に造られた命、強化された人体、精神。ワシらの場合、寿命も老化もない。過労で倒れはしても、病気で床につくことになろうと死ぬことはない。お前の場合は、短命で老化が人より早い。」

「……俺のことに詳しいのか?」

「お前に詳しいというより人造人間に関する知識だ。聞いておくか?」

「あぁ。勿論だ。」

「日本ではなく、外国でだが錬金術師が生み出した技術、人造人間についてだ。蒸留器に人間の精液を入れ40日間密閉し腐敗させる。すると透明で人の形をした物体ではないものが現れるらしい。それに毎日人間の血液を与え馬の胎内と同等の温度で保温、40週間保存すると人間の子供ができるそうだ。」

「そうやって俺が造られた、のか?」

「どうだろうな。実際その大きさは人間と異なり小さく、その段階ではそのフラスコの中でしか生きられない。外に出せば死ぬ。」

「不可能に思えるがな…。」

「ちなみに、生まれながらにしてあらゆる知識を既に身に付けているという。空想的な話だが、まぁ悪くない。」

「悪くない?」

「初めに成功した奴以外、それを生み出すことに成功した奴はいない。人間が残した話だ、嘘であっても可笑しくはない。この知識とお前の短命について関係があるかと言われればあまりないが、寿命が短い理由は人工的生命体であるからだ。生物を人工的に生み出せても完全ではない。自然に生み出されたものには劣る。」

「成程。人造人間の寿命はどのくらいかわかるか?」

「そうだな…三十代後半に差し掛かった辺りで急速に老化が進み、四十代か五十代前半辺りで老衰するだろうな。今、歳は?」

「25だ。そうか、そう長くないな。」

「死ぬのが怖いか?」

「人間、誰でもそうだろう?」

「通常ならな。常にとは言わんが、死を唐突の突き付けられれば恐怖する。軍人のお前なら死に対する恐怖には慣れたんじゃないか?」

「どうだろうな。忍はどうなんだ?」

「優秀な忍ほど、死ぬ覚悟はできている。まぁ…己が死ぬ恐怖よりもワシらの場合は他が死ぬ恐怖の方が大きいからな…。」

「話を戻すと、ホムンクルスのその技術だと魂はどうなる?」

「完全には完成しない。魂が宿るかどうかも危うい。欠如だらけだ。長話のおかげか感覚的には早かったな。」

「何が?」

「夜影だ。話に夢中になっただろ。」

「悪い…。」

「長居はお勧めしないねぇ。」

「長、今度こそ本物だな?」

「諦めてくれてもいいんだけど?」

「断る。長、お前に頼みがある。」

「なぁに?」

「俺と来てくれないか?」

「……はは、冗談…。」

「冗談じゃない。本気だ。俺の忍になれ。そして、もう計画をやめろ。戦場にいたいなら、そうさせてやる。俺と戦場を走れ。確かに俺は短命だ。だが、それでも、言う。俺が死ぬまで俺の影となれ!」

「……御意…。」

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