第20話
「嫌な予感がする…。」
「嫌な予感、か。ということは今度こそ当たりか?」
「かもしれん。」
「あれは…。」
「兵器…?夜影が好かん代物だ。伝説野郎も居る可能性もある。」
「成程。」
―――侵入者の気配を察知―――
―――警戒態勢に移行―――
―――警戒強度2―――
「長の声?」
「よく聞いてみろ。機械音声だ。夜影の声と違う。」
「俺には聞き分けられん。」
「そうだろうな。以前の兵器なら、多少の雑音混じり…。だが、この兵器…夜影を読み込んでるのか?」
「どういうことだ?」
「死んだ兵士やらの記憶を凝縮したもんじゃなく、夜影単体の記憶などを詰め込んだ兵器。どんな優秀な奴も夜影には劣るからな。」
「何故そう思う。」
「何年分の経験が夜影の中に詰まってると思う?記憶を保持したまま生死を繰り返し、潜入、暗殺、諜報なんでもやってのけた。時代を越え、時空も越え…。」
「兎に角、どの核兵器にも勝る兵器と化すわけか。ただ、兵器の脳がそうでもあの巨体までそうとは限らんよ。」
「人の技術の限界、もあるだろうが…本当に夜影のままの思考をするならば厄介だ。夜影なら己の限界と、状況把握、それら総合して見た時如何に動けば目的を達成することが可能かを瞬時に決断できる。」
「鈍いなら鈍いなりの戦い方、脆いなら脆いなりの最大限の戦い方で目的を達するのか。」
「破壊されず標的を排除しろと命令を下されれば、そうするだろうな。破壊されようとも最悪、標的を排除することだけが達しようとするはず。」
「相討ち、か?」
「標的の強弱から判断し、最初から道連れにするつもりで戦う方法だ。だが、正直ワシが目の当たりにしたその戦法では道連れにするまでもなく結局は標的を暗殺していた。」
「その最初そうするつもりで戦う場合、もし敵の強弱を測り間違えていたら?」
「戦闘に陥ればわかるらしい。見ただけでもかなりの正確さだが。道連れにも種類がある。夜影なら禁術で夜影が死ねば標的も死ぬようにすることも、死に際に影を広げ標的を討つことも、どうとでもできる。死に際の判断は誰よりも慣れているからな。」
「転生する強みか。兵器が術を使えないのならいいが。」
「忍術、妖術は人の技術では不可能だ。二次元な例だが魔術なら可能だったかもしれんが、忍術をあの巨体でするのは夜影でも不可能なはず。妖術は夜影があの中でこの巨体を操縦していない限り不可能。」
「妖術って、妖怪が使う術のことか?あれは、条件があるのか?」
「どの術にも条件はある。妖術は、人が妖怪と呼称している奴にしか基本的は扱えない。妖力が無ければ妖術を使えないということだ。」
「その妖力は生まれつきってわけか。」
「あぁ。身体に流れる力でもなく、そいつの魂の中から溢れる特殊な力だ。その力が弱ければ弱いほど大した術はできんが、強いければ強いほどその術は強力だ。」
「空想的な話だが、魂を他へ移す手段があったりするのか?」
「その手段を持つ妖は存在する。だが、全ての妖がその手段を持っているわけではない。結局、その行為も強力な妖力を持つ妖でなければできん。」
「人や機械に移すことは?」
「妖の魂をか?人の魂が妖の魂になる奴もある。可能なんじゃないか?機械といった物には容易いことらしい。」
「なら、魂が移された場合、妖力が、」
「それは確率的に低い。妖力にも合う合わんがあるらしくてな。妖力を消耗し他の妖から妖力を分け与えてもらう時も同種の妖でほぼ同等の強さの妖力を持つ奴でないとならんらしく、人に移された場合は、そいつが妖化するか妖力に蝕まれ死ぬか、妖力が消滅するだろう。機械なら機械に自我が芽生える、機械の形が変形するというような現象が起こるらしい。それに、成功したとしても完全な妖にはなれんかもしれんな。妖術もそうまともに使えまい。」
「なら、その心配はないのか?」
「心配するべきなのは、夜影が魂を吸うことだ。夜影は猫又だが、ただの猫又ではない。魂を吸い、妖力や体力や傷など全てを回復することも可能だ。それに、九尾の狐に育てられただけあって九尾の狐にしかできないことも習得してるとも聞いた。」
「クローンの俺にも、魂があるのか?」
「人造人間にも魂は宿る。魂は人の自我の源でな、魂が無ければ動く屍或いは動く人形のようなものになる。命と魂は同じというわけではない。夜影が言うには命を吸うか、魂を吸うかで色々と変わってくるらしい。」
「命まで吸えるのか!?」
「魂と違い、命の方が美味しいらしいが吸った時は濃い過ぎて一時的興奮状態に陥るみたいだ。元々、吸う妖じゃないだけにその影響はどうしてもでるらしい。」
「吸収か…。」
「不味いもんは吸わんようだ。どうも、不味いもんは自分に悪影響なもんが混ざり込んでいる証拠らしい。逆に美味いもんは吸収すれば色々と回復する。外傷なくして原因不明の死に至らしめる方法になる。命、魂が吸われたからといって体内や体外に何か異常が起こるわけじゃない。今までにも報道されたが。」
「なんとなく記憶にあるぞ。それら全て長が?」
「多分な。煙草と同じでなかなかやめられんようになる行為らしい。夜影は煙管に魂を入れて吸うのが好みだぞ。」
「それは…何か意味があるのか?」
「『外見は人らしい一方、実のところは妖の行為』という裏表だろう。煙管を選んだのは夜影の趣味だろうし、詳しくはわからんが。」
「魂はどうやって宿るんだ?」
「人造人間でも、道具でも、生き物でも魂は宿る。道具の場合は人の魂の影響を受けるか、人の魂が自然に移ってしまうかの話だ。お前の場合、もしかしたら武雷の証に宿っていた魂の欠片かもしれんな。」
「そういうことか。」
「人の魂は産んだ親の魂の分裂といっっていい。卵子の状態から既に分裂し母親の魂の欠片が宿り精子と合い受精卵の時点で父親の魂の欠片も宿り、両親の魂の欠片が合体して完全な魂一つできあがる、といった流れになる。命が絶えても魂は残る。」
「残る、のか?」
「欠片の段階ではその器が死滅すれば魂も消滅するが、一つの魂として完成されていれば魂はそこに在り続ける。だが、そう長くはない。器のない魂は自我が芽生えていない場合は数時間しかもたん。だが、自我が芽生え死に際強い感情を持っていたなら魂はそうそう消えない。」
「もしかして、幽霊になるってことか?」
「そうだ。だが残った魂にある感情は強く抱いた感情に限定されることが殆どだ。例えば、喜怒哀楽の内、怒りが強かったとしよう。その時、喜哀楽の感情は消滅し所謂、悪霊と化す。怒りのみの感情が強力過ぎて、人に悪影響を及ぼすことが可能になってしまっている状態だ。」
「残された魂のことを、霊体、悪霊だとか、俺たちは呼んでいるというだけのことか。」
「つまり、成仏というのは魂を消滅させるということだ。魂にある僅かな自我を満足させるといった方法を聞くことがあるだろうが、その方法はただ単に強力な感情を弱めることで魂がそこに存在することができなくなる状態にさせようとしているだけのことだ。魂が器なくして存在できるのは自我がそこに在り続けようと本能的にしているからだ。自我が無ければ魂はそこの在ろうとする力が働かず数時間で消滅する。」
「何故、数時間はそこに居れるんだ?」
「魂の消滅速度の問題だ。一瞬にして消滅できない。徐々に消えていくのにかかる時間が数時間というだけのこと。いくら消滅までの猶予があるからといって自我があっても消滅しようとする力によってその自我もやがて崩壊していく。自我は所詮、消滅を遅延させる程度の力しか持たない。」
「その魂にある力は?」
「忍術は幼い頃から修行をしていれば人だろうが妖だろうが問題ない。妖術に消費する妖力は、少々異なる。そもそも妖というのは人から産まれた。人がまだ科学も知らん時代、自分らでは説明できない不可思議な現象を妖怪と呼称し納得しようとしてきた。その不可思議な現象は時代が過ぎて科学を得て解明された。つまり、妖とは人が作った架空の異物だった。」
「あぁ、それは知っている。だが、それだと、妖が実在するのに都合が合わないだろう。」
「そうだ。だから、人が思う妖というのは不可思議な現象の正体ではない。人の魂に芽生えた自我が強い感情でまだ生きようとした結果だ。妖は一度死んで第二の人生を送ろうとしたものといっていい。」
「死体から、他の物へ魂が移ったのか?」
「妖の始まりはそこからだ。死体から物へではなく、死体に留まったまま魂が死を受け入れなかった。身体が死に、脳みそ、心臓も停止している。だが、よっぽどの事があったんだろうな。魂に残った感情が程度を超えたらしい、死体を変形させながら再び異物として生きることを実現させた。その力を妖力と呼称し、その妖力を消費し不可思議な現象を呼び込むそれを妖術と呼称した。科学では解明できない力だ。」
「どうやって妖は増えた?」
「その瞬間の強力な妖力は外にさえ溢れ出ていたろう。そうなると周辺のものにも影響が出てその時点で弱いが妖化した道具や生き物はいたはず。妖にも繁殖手段は多くある。人と交わり半妖を生み出すことも、その強力な妖力で道具や生き物を妖化させたり、妖同士で交わったり。」
「今でも妖は生きているのか?」
「数は少ない。人に紛れた妖もいる。夜影の育て親の九尾の狐もまだ健在らしい。人が自然を削れば削る程に、人の足が踏み入れば踏み入る程に妖は存在できる場所を失う。中には踏み入る人を殺すことによって縄張りを守ろうとした妖もいたそうだ。」
「妖にも寿命があるのか?」
「人よりかは遥かに長生きするが…妖の寿命は源の魂の消滅だからな。妖には命がなく、魂だけだ。器があるとしても器が酷く傷付けば消滅してしまうこともあるし、魂にあった自我が危うければそれだけ終わりへ近付く。」
「長は…生まれつき妖なのか?」
「それはわからん。最初が何処なのかも…話が大分反れたな。すまん。話を戻すぞ。」
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