第28話

「拠点…というレベルではない気がするんだが…。」

「細かいことを気にしてはいけない。」

「決して細かくはない。海底都市でも目指したのか?」

「海底都市を真似たのは否定しない。天空都市や海底都市、地中都市なんて未来に行きゃいくらでもあるさ。」

「部下は既に移動は済んでひとしきり散策した後だ。後はお前の部下が此処を覚えれば問題ない。最初のうちは忍に聞け。」

「わかった。……そういえば、長は過去から来たんだよな?」

「まぁね。過去のこちとらで、現在のこちとらではないね。」

「その、現在の長は何処に?」

「さぁてね。同じ時代にいることにゃ変わんない。ややこしいことに、こちとらにとっちゃ現在のこちとらも未来のこちとらだし、最初からずっと未来のこちとらって言ってる奴は現在のこちとらにとっての未来のこちとらだもの。まぁ、こちとらがこの時代にいるのが間違いなわけですけれどね。」

「ということは、過去の時代には居るべき存在の長がいないことになってるんだな?そうなると、歴史がかなり変わる。」

「上手いこといってるから歴史にはこちとらが残ってるんだな、これが。妖としてのこちとらと、忍としてのこちとらは人間様にとってまったくの別物だから。」

「その境目がよくわからないな。忍としての歴史が始まったのは戦国時代だ。だが、長はそれより昔から生きていた。」

「人間様の歴史ができる前に、一度妖界は大災害で滅びかけてるし、その時にこちとらは時空に逃げて戦国時代へ飛んだ。そして忍となった。その飛んだ時間、時代にこちとらが存在しないだけであって、戦国時代からは普通に歴史を残してる。勿論、妖としてのこちとらの歴史は一旦途切れているけどそんな歴史は人間様の手元にはそもそも残らない。」

「人が産まれる前の歴史は、想像や研究の成果でしか作れないからか。」

「そう。研究の成果では妖なんてわかんない。想像では妖なんて生まれない。妖という概念が人間様に生まれたのは、かなり遅かった。歴史に妖の始めは記録されていないのさ。だから、まったく不自然じゃない。」

「だが、そうなると戦国時代で長が二人いたことになる。だが、そんな歴史は残されていない。どういうことだ?」

「会ったこともないからわかんないねぇ。もしかしたら、未来に飛んでそこで暮らしてるかもしんない。未来に飛んだ時偶然こちとらが現れたんだとしたら、歴史に支障はないかんね。」

「ややこしいことになってるな。」

「最早、笑えない状況だかんね。」

「今思ったが、夜影が二人いても他人は不思議がらないだろう。」

「あぁ、影分身だと思われるか。忍だしね。飛んですぐは人間様のような姿でもなかったから、ほら、珍しい動物だ、くらいにしかなんないかもだしね。」

「都合がいいんだな。」

「おっかないもんだよ。『力あるもの知を持て、知あるもの力を持て、二つある者世を変える一歩を踏め』って知ってる?」

「なんだそれは。」

「力があろうがその力の使い方を知らなければ無知。知識があろうがその知識を使う力がなければ無力。そのどちらもを持ってい者は世を変える者である。ってこと。要するに、お前はどうだ、世を変えることができるのか、って言いたいんだよ。」

「誰の言葉だ?」

「武雷家の教えですけれど。蘭丸様は源次郎様に何度も言われてたさ。こちとらは好きだった。人間様にしては賢いと思わない?」

「…覚えておこう。」

「うん。覚えといて。あんた様がただの無知や無力に成り下がらないように。短命でも、世を変えるほどの影響力を持ってるって自覚を心に。この時代に生きる者にしかできないこともきっとあるはずだから。」

「長…?」

「夜影も、怯えてる。常に。そうは見えんかもしれん。だが、妖も忍も人間も、完璧ではない。ワシらよりも夜影はものを知っている。誰よりも恐怖と向き合っている。それを忘れるな。」

「才造。」

「どんな奴も、結局は独りでは生きていけん。誰かが支えてやる。お前も、二つある者も、誰かがいなければ無知無力も同然。夜影のように強大な力を持てば己が何よりも恐ろしくなるもんだ。願わくば、影を濃くする光となれ。」

「…あぁ。」

「忘るることなかれ。」

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常に蚊帳の外 影宮 @yagami_kagemiya

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