第27話
「死んだ者の魂が、何処に行くのか…考えたことはあるか?」
「ない。忍にそれを思考する必要は無かった。それに、夜影は知っていた。」
「知っていた?」
「夜影は魂を扱える。生み出すことは出来ずとも、魂を呼び寄せ己の力とすることも、喰らうこともできた。」
「長から聞いたのか。」
「夜影はよく様々な知識を口にする。その一つだった。」
「極楽浄土か、地獄か?それともなんだ。」
「無、だ。極楽浄土や地獄というのは人間が想像した死後の世界に他ならない。夜影なら何度死んだか、何度生きたか、死後さえ知っている。魂は何処へ行くでもなく消滅する。無でしかなく、それ以上も以下にも成らない。夜影のような奴に魂を呼び寄せられて、使われるか喰われるか、はたまたその自我でそこに留まり続けるか、誰かに乗り移るか。」
「死後の世界まで、聞いたのか?」
「聞くまでもない。」
「忍だから必要ない、か?」
「いや、ワシも一度死んだことがある。そして、何があったか生き返った。その時、確かにワシは魂の状態だった。つまり、人体は生きたまま魂の消滅があったということだろう。その消滅を阻止されたのか、再形成でもされたのか。わからん。」
「死後の世界を見た、ということか?」
「見とらん。死後の世界というものは存在しない。死は、無だ。死後というものは本人にはない。他人がどうこうする話であって、どうというものでもない。長い眠り、それさえ深く夢の見ない…永眠。生き返った時にはそれから目覚めたようなものだ。」
「全て、人の想像だったというわけか。」
「死ねば楽になる、という話を夜影が笑うのもわかる。死ねば無であり、楽も苦も無し。楽がどういったものか、無がどういったものか、その違いがわけられていない。」
「長やお前にとっては、生死に関してはよくわかっていそうだな。」
「忍は人間よりも、死が身近にあるからな。」
「そろそろ、移動するよ。確認に行ったところ、完成してるかんね。」
「……そうか。」
「…命を表すのは生死だ。けど、生死っていうのは言葉の上にしかない。現実的じゃないんだよ。命なんてもんは、実際には存在しないものなんだから。」
「長…?」
「生死に境界線はない。生き返ってから、あぁ死んだのか。そういうふうにしかわかんない。自分の死は他人が決めることなんだよ。嘘も真も、善悪も、自分自身じゃ意味が無い。自分のことは自分で決められないんだよ。」
「ワシらはいつでも死ねる。事実と異なっていても、そいつが死んだと言えば死んだことになる。」
「同じように、事実と異なっていても生きていると言えば、生きていることにできる。ただ、思い込みさえすれば。人間様はいい加減だよ。限りあるものに大きな価値を見出だしたと思えば、限りのないものだけに価値を置いた。再生可能、量産可能、都合のいいものを好んだ。当然と言えば当然。人間様は戦国時代も忍をそう見ていたんだから。」
「その結果、お前が産み出され、さらなる進化を求めて退化していくことに気付き始めた。」
「どういうことだ?」
「人間様は超能力を手に入れる。その研究が今こっそりと進んでいるとこだよ。便利になればなるほどそれに頼りきりになり、運動能力や思考力などの低下が酷かった。誰もそんなことを気にしない。だって、必要のないほどに便利だったから。でも科学者は違った。記録を見りゃオリンピックやらの選手や特殊部隊やらじゃない一般人の数値は壊滅的。夢見た世界の実現とその数値を取り戻す計画は一致した。」
「夢見た世界?」
「二次元。画面の向こう側で輝く世界。誰もが憧れた。その超能力を?その美貌を?その全てを?それらを手に入れるのに人間様に不可能はないのさ。犠牲者が陰で実験台にされていくことに、違法だとか何だとか言ってられない。人間様は立ち止まる術を持たない。残念ながら、ね。」
「……変えられない未来、か。」
「どうだろうねぇ。変えられても、変えなくていいって未来のこちとらが判断したからこのままなんでしょうし。人間様の歴史をそう全て正そうなんて忍も妖も思わないだけさ。」
「準備は整ったらしい。夜影、行くぞ。」
「話の続きは、移動してからさ。ちょいと位置を都合よく変えてある。歩きましょうや。」
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