第8話

 ――あーあーあーあー――

「なるほど、長はこれをわかっていたな?」

 ――らーらーらー――

 歌う兵器はその機械声に似合わない巨体で上空を飛行している。

 ミサイルを抱えているのが見えた。

 ボーカロイドの歌声は、兵器に使われると不気味に感じてくるほどに、製作者への嫌悪感を与えてくる。

 ――敵を発見――

 ――排除――

 ――あーあーあー――

 銃口が此方を向いた。

「『らりるれ』!」

 ――リンリンリン――

 ――自爆――

 落下してくる巨体を避ける。

「あまりその便利な言葉を使わない方がいい。」

「お前は…!」

「長から話は聞いた。面倒だが、援護射撃をしてやる。便利に頼るなよ。弱くなるぞ。」

「そうか、助かる。弓矢か…。」

「銃が好みだったか?」

「あぁ、いや、別にそうじゃない。」

「安心しろ。弓矢で十分な相手だからな。」

 強く引き絞り、放たれた矢は拡散、走り込んでくる兵士の心臓を貫く。

 この距離でそのスナイプ技術は素晴らしい。

 銃は真っ直ぐ進むが、弓矢は山なりのイメージがある。

 一息に矢を複数構えて、前方を睨んだ。

「走れ。敵に見つかっても走り続けろ。中に入るまでの間だけ、どうにかしてやる。それからは知らん。」

「わかった。ありがとう。」

「忍に礼を言うな。行け。」

 矢が背後から追って飛んで行き、頭上を超えて目の前の兵士を貫き、その真横を走り抜ける。

 真っ直ぐに、兵士が銃口を俺に向ける前に矢が貫くのを横目に中へと向かう。

 足を止めればきっとあの忍は俺を射抜いてでも進めと言うだろう。

 閉まっているドアのロック板に矢が刺さり、解除され自動的に開いた。

 振り返ることなく、走り込めば後ろでドアが静かに閉まった。

 あの忍の仕事はここまでなのだろう。

「…ッ!お前は、八番手!」

「俺が道を開く。ついて来い。俺の足に遅れをとれば攻撃を受けるぞ。」

「忍の足に俺が追えると思うのか?」

「その足を止めさえしなければ問題無い。道を開く。忍の足を追ってこい。」

 俺に背を向けると、構えた。

「行くぞ。」

 走り出したその背を追い掛けて、進めばそれは確かに速いが、確かな道があった。

 兵士を刺し弾き、真っ直ぐと。

 何処に導かれているのか、それはわからない。

 それでもいい。

 長がそう仕向けたのだろう。

 来い、そう言われている気がする。

 その背に置いていかれないように走る。

 閉じられたシャッターが目前にある。

 それに手を差し入れ、歯を食いしばった。

「おい、そのシャッターは人ひとりの力で開くはずが、」

「ぐ、あぁあああ!!!」

 持ち上げられたシャッターは、十分人が立って入れるくらいの高さにあった。

 それを両手で支えて俺を見る。

「ここから先は行かん。進め。誰一人としてこの部屋の兵士にお前の追跡をさせん。」

「わかった!」

 シャッターの先へ進めば、背後でシャッターが落ちる音がする。

 後戻りが許されない。

 階段を駆け登る。

「地を這うことをお勧めするぜ。匍匐前進なら、仕掛けられた爆弾に気付けるだろ?」

「五番手!」

「無事に進め。蛇が如く、焦るな。俺は助言くらいしかしてやれない。」

「それでもいい。」

 爆弾を避けて進む。

 頭上を赤い線が通り過ぎていく。

「触れるなよ。死ぬぞ。」

 頭上から声がする。

 どういうことだ?

「俺は天井で十分だが、お前はそうはいかない。這って進め。」

「忍には、重力も関係無いのか?」

「自分の体重くらい、指二本で支えられる。」

「そうか。」

 這って進めばもう、目の前。

「その黄色い線を超えれば立っていい。というか、そっからは走って行け。」

 進んだ先に何が待ちわびているのか、想像もできなかった。

 それでも、進むべきだ。

 戦場での恐れは、死に直結するくらいに危うい。

 覚悟が無ければ立てない。

「長……。」

「無傷…よし、部下の仕事は十分だったってことね。」

「どうして俺を?」

「あんたに伝えなきゃならないことがあった。」

「何を?」

「あんた…否、あんた様は今この瞬間から、こちとらの主だ。忍隊総員、あんた様に忠義を誓う!」

「……俺でいいのか。お前は、」

「忘るることなかれ。我ら忍隊は、あんた様の忍。たとえ、何があろうとも!あんた様の影とし、命令に従う!」

「服従の証…!長、血迷うな。撤回しろ。」

「あんた様の影に入れば、血迷うこともないだろうさ。」

「いくら武雷の血を受け継いでいようが、俺は武士でもない。お前達が望むような、武雷の面影でもない!」

「あんた様が拒絶するなら、それでもいい。だけど、その声も、その目も…忘れないで欲しい。影は光の元にある。」

「おい、待て!」

 影となって去った。

 この場には兵士の死体が転がっているだけだ。

 先へ進む道は開かれたままに。

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