第10話

 階段を登れば、屋上だ。

 長が、ただ静かに立っている。

 その手には銃が握られていた。

「長…。」

 銃口が俺へ向く。

「教えてくれ。忍を、お前のことを。」

「遅かったな!」

「!!」

「この忍は、もうお前の仲間ではない。」

「どういうことだ!長!!」

「………。」

「長!!」

「無駄だ。武雷を蘇らせる。忍の願望を叶える。その為に、お前には消えて貰うがな。」

「お前に、何の得がある?」

「武雷が天下を逃した理由は、失速だ。本当であれば、天下統一を果たしていたはずだった。武雷の強さは知っている。」

「戦争に利用するつもりか!」

「忍隊が生きている、そして武雷が復活すれば、負け戦はない。」

「それは、戦国時代の話だ。今、この時代ではその強さは通用しない!」

「それはどうかな。現に忍は、強大な力を秘めている。忍使いの武雷が、通用しないわけはない。」

「長!!お前はそれでいいのか!!復活したところで、戦争に利用される!!お前が望んでいるのは、そんなモノか!!」

「無駄だと言っているだろう。この忍は戦忍だ。武雷も、戦を好んでいた。戦争と聞いて後退るようなモノじゃない。寧ろ、望んで戦場に向かうだろう。わかるか?忍も、戦を望んでいる。」

「ふざけるな!!望んでいるはずがない!!」

「戦忍は、戦う為の兵器だ。平和の中では生きていけない。」

「そんなことはない!」

「戦うことでしか、生きる意味を見いだせない!忍は兵器として、育てられた!この忍もそうだ!暴走するのを知っているだろう?それは、この忍の本来の姿だ。標的を排除するまで、止まらない。そこに、感情もない。」

「長は、それを拒んだ。違うか?暴走したくないと。戻ってこい。お前の大切な証を、こんなことに使わせるな!」

「………。」

「長!どうした!!」

「残念だったな。既に、忍には少々手を加えさせて貰った。もう、逆らうことはできない。この忍が私に従えば忍隊は自然と、私に従うことになる。」

「それはない。」

「八番手…!」

「ほう、十勇士の一人、か。」

「長に従うのは基本だが、長の主は貴様ではない。」

「八番手、長を説得できないか?」

「俺にはできない。長は今、意識が無い。」

「何故、長に従おうともしない?」

「長と主の命令が矛盾した時、優先される命令は主だ。勿論、時と場合によるが、今長は忍隊の長としての意識が無い。」

「ふん、まぁいい。この忍さえいればお前達の妨害も大したものではない。」

「確かに、忍隊総員でも長を倒すことは不可能。」

「なら、どうする。」

「主、長から忘るることなかれと言われたのを覚えているだろう?ついさっきのことだ。」

「声と、目…か?」

「殺せ。忍、お前なら容易いだろう?ほら、その銃で撃て。」

「主の命令は、絶対。」

「そうか…そういうことか。」

「撃て!」

「撃つな。長…いや、夜影。その銃を降ろせ。」

「何をしている!早く、撃て!」

 銃を持つ手がゆっくりと降ろされる。

「銃を捨てろ。」

 銃は床に落下した。

「何故だ!何故あんな男に従う!!忘れたか!!武雷を蘇らせてやるんだ!!殺せ!!」

「夜影、目を覚ませ!戻ってこい!!俺の、影なんだろう!!」

「………。」

「夜影!!」

「……そう、大きな声で呼ばれるのは…いつぶりだろうねぇ……。」

「意識が戻った、な。」

「武雷を利用しようなぞ、また舐めたことを考えてくれる。こりゃ、お仕置きが必要そうだ。」

「主、長の怒りに巻き込まれないように離れた方がいい。」

「はは…凄いな。」

「待て!!忍!!武雷を、蘇らせ、」

「黙んな。我が主を殺し武雷を復活させる?笑わせないで。我が主を殺すことそれ即ち、裏切りを意味する!」

「あの男は、武雷の血を混ぜただけの作り物だ!!」

「夜影、聞き入れるな。」

「武雷はそこに在る。」

「ぐぁああ!!!」

「……夜影。聞いていいか?」

「……。」

「何故、主を決めた。」

「武雷のことを吹き込まれた時、不覚にもこちとらは怯んだ。繰り返し、繰り返し言われる内に…。」

「それで、奴の命令に従い部下を動かし、俺をここまで導いたのか。」

「…そう。」

「だが、お前はまだ意識があった。」

「呑み込まれながら、あんた様のその目を見て、それに逆らうことができた。一か八か、主を定めて逃れる手段を残そうとした。主を定めることによって、忠義を誓い直す。揺らぐ思いを、どうにかしたくて。」

「俺の目が、武雷の目だったからか。」

「その目にだけは、どうしても逆らえない。屈してしまったあの日から、ずっと。その目に惹き込まれて、逃れられない。その声を聞けば、たとえ意識が離れていても届く。」

「依存か。」

「依存…そうかもしれない。」

「お前のことを教えてくれ。忍のことも、全て。」

「それはできない。」

「どうして?」

「今此処で明かせば、敵にも知られることになる。一旦、こちとらの体内の機器を外さないと。」

「そういうことか。俺の基地に来い。」

「その必要は、」

「いいから来い。」

「その声で言うのは狡い。」

「なんとなくコツを掴んできたぞ。」

「あんた様を主にて正解だったわ。」

「皮肉めいた言い方だな。」

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