第16話

「どうやら当たりだな。」

「本体か?」

「そこまではわからんが、交戦中だ。」

「分身の戦闘力は本体と同じなのか?」

「いや、分身の方が劣る。だが、分身に勝てないとなれば本体とはまともに戦り合えない。分身と本体を同じ戦闘力にすることはまずない。」

「何か問題があるのか?」

「分身で相手の強さを測るのが夜影だ。夜影の中で作られた基準に沿った戦闘力になっているはずだ。分身を倒されたならば要注意、分身に相手が勝てないようならば加減してもいい…というようにな。」

「ということは、初戦で本体と戦うようなことは無い、か。」

「殆どな。だが、分身を作らず見て測ることもある。事前に探りを入れておいたり、な。」

「それで、自分より強い或いは同等だとわかったら?」

「手を出すかどうか悩みどころだろうな。強い相手と殺り合うのも一興、静かにやり過ごすも良し。」

「そういう性格なのか。」

「夜影は、地獄で育てられた。ワシらとは天と地ほどの差。殺し合いを楽しむのはただ、そうしていないと精神が壊れる。」

「伝説の忍も、そうなのか。」

「いや、伝説野郎は夜影とは明らかに違う。どちらかというとワシらに近い。」

「それなのに、互角となると…。」

「伝説野郎の場合、ただの兵器として育てられたと言っていい。特化されただけだ。それに才能もあったんだろう。だが夜影は、長として育てられた。一人の兵器でありながら、また多くの兵器を束ね指揮する核のような存在。」

「ということは、本来ならば互角ではなく伝説の忍が上であることが普通?」

「そうだ。だが夜影が肩を並べ、それどころか本気を出せば上にいく。夜影は育てられ強くなったわけじゃない。自分で極めたんだ。」

「極めた…。伝説の忍が長のように極めたとしたら?」

「もう遅い。今から極めてどうする。だが、伝説野郎が極めようと過去にしていたなら、夜影は本気でかかっても勝てない相手だったかもしれん。」

「長は何故、極めようと?」

「知らん。本人に聞け。お前になら語ってくれるかもな。」

「音が止んだ…?」

「いいか、夜影の姿が見えずともあの地獄耳なら必ず聞き取る。叫べ。」

「長…いや、夜影!!」

「……気配が揺れた…!命令をかけろ。」

「今すぐこの行為をやめろ!!」

 ―――オールダウン―――

 ―――データを、データ、を―――

 ―――デ、タ―――

 ―――ギギギ―――

「なんだ?」

「伏せて!!!!」

「ッ!?」

 ―――侵、入者、を、を、発見―――

 ―――排除、しま、し、す―――

 ―――あ”、あ”―――

「何が起こっている!?」

「知らん。が、これは分身だな。伏せたままにしておけ。死ぬぞ。」

「倒壊したないか?爆発音が聞こえるが…。」

「お前の命令は確かに届いているはず…。機能停止に手をかけているのかもな。」

「機能?何の?」

「この施設。」

「長!」

「卑怯な手を使ってくれるね。」

「分身だな?本体は何処だ。」

「さぁてね。」

「分身と本体は繋がっているんだろう?」

「基本はな。だが、これは分身に自我を持たせて本体とは完全に切っている状態だ。」

「?」

「本来なら分身の視界、聞こえるもの、現在地など全て状況がわかるんだが、自我を持たせて歩かせる場合は分身を消すまで分身のことはわからない。その持たせた自我も、まったくの別人な性格にさせるか本体の複製にするかも思いのまま。」

「本体のコピーなら、本体のことがわかるはずだ。それに、本体の知っていることも。」

「それはない。夜影なら分身に鍵を付けているだろう。陥ってはいけない思考、思考してはならない事、記憶していてはいけない事、その他諸々本体に不都合なモノは全て。分身に聞いたとしても、答えないのではなく答えられない。」

「そうなのか。」

「忍全てができる術ではない。夜影だけが可能な術だ。分身が本体の意思とは関係無く可能な行動といえば、消滅…つまり自滅。」

「自滅?」

「本体が分身を消すことができるように、この分身も自分自身を消すことができる。分身が『自分を消して本体にこの事を知らせるべきだ』と判断した場合、自滅する。消えた分身の記憶は全て本体へ、本体は分身が消えてようやく何があったのかを全て知ることができる。」

「分身がそうすべき場面で自滅を決断できなかった場合は?自我があるということは、消えることを理解し自身の終わりを強制させられる。消えたくない、と思うのが普通だろう。」

「確かに分身は本体と違ってそういう思考に陥る可能性が高い。だが、そういった思考さえも鍵を付けることができる。」

「……。」

「長話…というか、説明は済んだ?」

「多分な。」

「こちとらは、消えたくないって思考に鍵は付けられてないけどね。」

「そうだろうな。」

「どうして?そうなると支障をきたすんだろう?」

「こちとらは本体も分身も似たよなもんだからね。情報を守る為の死処、情報を伝える為の死処。ただ、それだけ。」

「要するに、夜影が分身の自我を複製にしたのも、いちいち鍵を付けずに済む、判断も誤らない性格といったら自分だった…ということだ。」

「自我を持たせる必要はあったのか?」

「ある。ワシも自我を持たせる術は心得ているが、実の所…分身の数だけ本体に負担が大きい。自我を持たせてほぼ完全に切り離す方が負担が小さくて済む。それだけのことだ。何せ、その分身を操作しながら、此方側のことにも目を向けなければならないからな。目が回る。」

「そ、そうなのか。分身は結構大変だな。」

「最悪の場合、分身を多く作り本体はまったく動かず分身に集中するようなことまである。VRと似た感覚だが、一気に十、二十も動かせば混乱さえしてくる。ワシの限界はせいぜい三十といったところだな。」

「長は?」

「夜影は分身だけだと五十はいけるだろうな。」

「だけ?」

「自我を持たせた分身と単なる分身の混合なら百はいけるだろう。ワシは自我を持たせられるのは高度な術なせいもあって、三体が限界…三十三が混合限界だ。」

「それでもかなり多いぞ。他の十勇士もか?」

「自我持ち分身はワシと夜影しかできん。だが、分身のみでも得意不得意があってな…戻ったら聞いてみろ。夜影を超える奴はおらん。だがワシもそう得意とは言えん。」

「何か、本体に言伝があるなら聞くよ。用も済んだらしいし、自滅しないと。」

「長、俺達の方へ戻ってきてくれ。お前の時代は遠い昔、戦国時代に終わった。頼む、これ以上戦争を続けようとしないでくれ。」

「ふふ、本体はあんたが来るのを待ってるよ。」

「俺を?」

「きっと、懐かしい声に止めて欲しいんだろうね。」

「それは、分身…お前の思考か?それとも、本体…長自身の本心か?」

「こちとらは本体の複製。分身に過ぎない。だけどね、だからこそ本体が気付かない本心も、言えない望みもわかる。分身として言うね…本体は主を探してるんだよ。」

 ―――ザァッ―――

「消えた…。」

「夜影らしいな。」

「…素直じゃない、か?」

「次に行くぞ。」

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