第15話
「夜影は戦と戦の合間にある一時の平和が懐かしいんだろうな。」
「どういうことだ?」
「勝利の余韻、宴、次の戦への束の間の休息。夜影は戦の中にある爽快感と、勝ち戦が終わった後の余韻に浸りたいだけだ。それを繰り返し繰り返し。」
「そんなことが可能なのか?」
「可能だと考えたんだろう。夢ではなく、現実にしようとしている。兵器を破壊するのは、それを実現させる為に行う調節。破壊、妨害、援助を繰り返すことによって、常世の戦を作り出す。そして、その中で生きていきたい。そういうことだ。」
「伝説の忍のところに留まっているのも、その調節の為?」
「あぁ。恐らく。分身を作って、伝説野郎以外のとこにも調節の為に行ってるはずだ。」
「俺のようなクローンが量産されてないのか?長が制御されていない、ということだろう?」
「いや、量産化は確かにしているみたいだ。」
「頼也。何処に行ったかと思えば。」
「影が、制御される前に殺しているらしい。量産化はもう武雷の証が尽きたのを理由に止まったらしいが、お前を除いた全員が既に排除済み。」
「だからか。」
「で、死体の眼球は抉り取られている状態…また、首も潰されている。完全に影が狙って武雷の証を掴もうとした痕跡だ。」
「長は武雷の証を取り戻そうとしている?」
「それが推測でなく事実となった場合、狙われて当然…。だが、さっきはそんな素振りは無かった。気付いてないとは思えない。」
「『殺せなかった』、じゃないか?」
「それだと、量産化された奴らが殺されたのと矛盾する。」
「いや、量産した結果、最も強く受け継いでいたのがお前だったとしたら、夜影が手を出さなかったのも頷ける。」
「なら、確定だな。分身、本物に限らず夜影はお前に手を出せない。制御させることは可能だ。虱潰しに命令をかけていくか。」
「そんな時間はあるのか?」
「杞憂だ。何せ、調節されて今兵器開発が遅延しているということは、核兵器が完成、新兵器の導入はまず無い。」
「だが、長を止めた瞬間から兵器は…。」
「破壊、妨害をしているんだ。夜影が此方側に入れば、抑えられる。」
「それには限界がある。いくら分身と本体で破壊、妨害にかかっても、開発を止めることはできない。」
「開発を進める科学者は全員、忍隊が暗殺に向かう。そして、研究の成果も、何もかも消滅させる。総出でかかれば、一時の隙間が生まれる。数年と言ったところだろうがな。」
「暗殺…だと?」
「この際、綺麗事は抜きだ。科学者に関係した人間を抹殺する。」
「乱暴だな。」
「人間の制御は不可能だ。抑止力なんぞ使えない。その抑止力で次の争いを生む醜い人間から生み出された兵器、いつの時代も変わらない。ワシら忍は、その醜い人間が作り出した人間を使った兵器。」
「そうだな。生憎、忍に善悪は無い。任務を遂行し、たとえ旧知の仲であっても愛しい相手であっても殺さなければならない時は来る。敵となれば尚更。影を此方に連れ戻せないならば、忍隊は影に従ってその常世を実現させよう。」
「本来、忍隊がこうも散ることはない。才夜さえ、居なければな。」
「……ッ!」
「だが、こうなれば選択は二つ。長に行くか、長を来させるか。夜影はどうなろうと忍隊の長に変わりはない。武雷忍隊は長は不動、死ねば空席と決まっている。それを今更、変える気は無い。」
「そうか…、悩んでいる場合じゃないな。長を止めにかかる。」
「………。」
「才夜、お前は我が娘であろうとも忍隊ではない。忍となったならば、歳十五にして大人、未熟であろうが己の力で生き延びろ。助けを求めるな。忍をやめ人になるも良し、忍として死ぬも良し。忍は甘くない。」
「二番手、忍といえどまだ子供だ。父親だろう。確かにこの子は長に成りすまし、忍隊を混乱させた。だが、」
「それが子供だからと許されると思うのは甘い。忍は忍、人は人。十五となれば大人同然。今の時代十八で大人だが、それは人の世の決まり事。子供でいたければ人に成れ。」
「怒っているのか?」
「何故そうなる。…はぁ…、これが人と忍の違いだ。行くぞ。」
「親父…。」
「忍隊に入れると思うなよ。ワシもだが、夜影は拒否するだろうな。」
「どうして?」
「忍の事情だな。才夜、死にたくなければ大人しく機を待て。人に紛れ、生きろ。急いては事を仕損じる。」
「……うん……。」
「ワシにまた実の子を殺させるな。夜影に、殺させるようなことは絶対するな。いいな。」
「わかった。」
「……ふっ、夜影に似ていい子だ。」
「才造、親父面が出てるぞ。しまえ。」
「しまえってなんだ。これでも親父だ。頼也、行け。機械忍を連れて機会を伺え。」
「…お前の命令は腹が立つ。早く影を連れ戻さなくては。」
「余計な言葉を残していくな。出るぞ。」
「長の居場所がわかるのか?」
「勘で行く。心配するな。旦那だからな。嫁の行先くらい予想できる。」
「それはそれで怖いがな。」
「何か言ったか?」
「いいや、何も。」
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