発病前は浮かれてた 後編

 自作の映画が、公式出品作に選ばれたとメールがきたのは、半年後、つまり翌年の四月だった。

 その映画祭の場合、開催期間は、前夜祭も含めて六日間。

 前夜祭はホテルの屋上で行われ、セントラルパークや、ブロードウェーを走る車の明かりを見下ろせた。


 パーティーはそこまでフォーマルなものでなく、アルコールや軽食が用意されていて、普段着で来ている人も少なくなかった。

 私は三人の役者と一緒に参加した。主催者側から事前に、参加人数は一作品につき四人までと連絡があったからだ。


 待ち合わせ場所にしたのは、同じ通りにある近くのカフェ。

 一年振りの再会だった。


 ホテルの受付で、映画祭前に送られたメールのコピーを見せると、首に掛けられるよう細いゴム紐が掛けてあるパスを、それぞれに渡された。

 出品作品の監督には、既に他の映画祭でいくつも賞を獲っている人や、世界的に有名な映画にエキストラとして出演した経験のある人。映画会社の社員もいた。


 私の作品が上映されたのは、翌日の午後だった。国際短編部門の最後だ。

 熱気のたちこめる外とは打って変わって、劇場内は冷房が効き過ぎていたため、上着を持ってくれば良かったと後悔した。

 前方の座席には、普段着を着た観客が多く、おそらく彼らは、監督や役者の家族や友人だったのだろう。

 他の作品と比較して、私は自分の実力不足を思い知り、叩きのめされた。技術面で明らかに劣っていて、基礎すらなっていなかったということを。


 翌日からの四日間、私はひたすら観光を楽しみ、日曜に行われた授賞式には、情けないことにとうとう参加しなかった。



 発病する前日、私は友人四人と食事を楽しんだ。

 互いの再会を喜び合い、近況報告をし合って、別れの際には笑顔でさよならと言い合った。


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