下船病の闘病記と対処法

下船病には、ブラッドパッチが効くかも？

　東京都港区赤坂に、山王病院（さんのうびょういん）という、脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）や正常圧水頭症（せいじょうあつすいとうしょう）などの髄液循環障害（ずいえきじゅんかんしょうがい）の診療において高い専門性を持つ病院があります。

　髄液循環障害（ずいえきじゅんかんしょうがい）とは、脳と脊髄（せきずい）を循環する脳脊髄液が、何らかの原因（脳腫瘍（のうしゅよう）、脳出血、くも膜下出血（まっかしゅっけつ）、髄膜炎（ずいまくえん）など）で循環障害（じゅんかんしょうがい）を起こし、頭蓋内（ずがいない）に脳脊髄液（のうせきずいえき）がたまったため、脳室（のうしつ）が大きくなり様々な症状を引き起こす病気のことです。

　山王病院の脳神経外科に所属されている医師の高橋浩一氏は、めまいメニエール病センターの高橋正紘（たかはしまさひろ）氏の紹介で、下船病患者を診察されて、脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）と下船病の病態を考慮した治療を行われています。

　高橋正紘（たかはしまさひろ）氏は、下船病に、脳脊髄液減少症病態（のうせきずいえきげんしょうしょうびょうたい）が合併（がっぺい）している可能性を考慮されているのです。

　病態（びょうたい）とは、病状・病気の状態・病気の具合のこと。

　脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）（低髄液圧症候群（ていずいえきあつしょうこうぐん））は、脳や脊髄（せきずい）を包む髄液（ずいえき）(脳と脊髄（せきずい）を保護し、栄養を供給（きょうきゅう）する役割を果たしている)が減少することで、脳や脊髄（せきずい）の保護機能が低下し、さまざまな症状を引き起こす病気のことです。

　脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）の原因は、外傷や手術、腰椎穿刺（ようついせんし）などがあります。

　腰椎穿刺（ようついせんし）は、脳や脊髄（せきずい）の疾患（しっかん）を診断・治療するために、腰椎間（ようついかん）の髄液（ずいえき）を採取する侵襲的（しんしゅうてき）な方法です。

　脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）の症状は、起立性頭痛（きりつせいずつう）(立ち上がったときに悪化)、ふらつきなどのめまい、首や肩の痛み、耳の中で音が鳴る感じの耳鳴り、視力低下、全身の倦怠感（けんたいかん）など。

　中でも、持続的な揺れやふらつき感、頭痛、めまいなどの症状は、下船病の症状と共通しています。

　脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）の治療法は、安静にすることや水分補給（すいぶんほきゅう）などの保存的加療。

　それらが効（き）かない場合は、ブラッドパッチ療法（りょうほう）があります。

　ブラッドパッチ療法（りょうほう）（硬膜外自家血注入療法（こうまくがいじかけつちゅうにゅうりょうほう））は、患者自身の血液を硬膜外腔（こうまくがいくう）に注入することで、髄液（ずいえき）が漏（も）れている部位を、固まった血液で塞（ふさ）ぐ侵襲的（しんしゅうてき）な方法です。

　要するに、脳脊髄液（のうせきずいえき）の漏れを、固まった自分の血液(ブラッド)で防ぐ(パッチする)ことで、症状を改善する効果があります。

　特に、起立性頭痛（きりつせいずつう）の軽減に効果的です。

　ブラッドパッチ療法の副作用として、注入部の痛み、頭痛、感染症などが報告されていますが、ほとんどが一時的なものです。

　硬膜外腔（こうまくがいくう）とは、硬膜と椎骨（ついこつ）（脊椎（せきつい））の間の潜在的（せんざいてき）な空間のこと。硬膜外麻酔（こうまくがいますい）や薬剤の投与にも利用されます。

　硬膜（こうまく）は、脳と脊髄（せきずい）を覆（おお）う三層の髄膜（ずいまく）のうち、一番外にある膜のことで。非常に厚く強靭（きょうじん）なため、外傷や感染から脳と脊髄（せきずい）を守る役割を担（にな）っています。

　ブラッドパッチ療法の手順ですが、まず患者から静脈血（じょうみゃくけつ）を採取（さいしゅ）します。

　次に、髄液（ずいえき）が漏（も）れている部位の近くに針を挿入し、硬膜外腔（こうまくがいくう）に到達させます。

　そして採取した血液を硬膜外腔（こうまくがいくう）に注入。血液が広がり、漏（も）れている部位を塞（ふさ）ぎます。

　注入された血液が固まると、硬膜（こうまく）の穴を塞（ふさ）ぎます。

　一部の下船病患者に対して、実際にブラッドパッチを含む保存的加療(直接原因を取り除くのではなく、症状の改善や緩和を目指す)が試みられ、症状の改善が報告された症例もあります。

　なお、4回ブラッドパッチを行っても効果がないときは、脳脊髄液減少症（のうせきずいえきげんしょうしょう）以外を考慮する場合があるそうです。