2023年までの論文まとめ ①運動誘発型と自発発症型


 船を下りた際に、多くの人が感じる地面が波打なみうつような感覚は、一時的なMal de Débarquement。

 慢性的まんせいてき、つまり地面が波打なみうつような感覚と頭痛や、その他の症状が1ヶ月以上続く場合が、MdDS(Mal de Débarquement Syndrome:下船病)と区別されます。

 Syndromeシンドロームとは「症候群しょうこうぐん」で、いくつかの症状が常にともなって認められること。



 下船病(MdDS)の主な特徴とくちょうとして、海上旅行後に0.2 Hzヘルツ、飛行後に0.3 Hzヘルツで、継続的けいぞくてきな前後・左右・上下のれを感じるというものがあります。


 Hzヘルツは、1秒間の振動数しんどうすうの単位で、電磁波でんじは音波おんぱなどに使われます。

 1Hzヘルツとは、周期的現象が、1秒間に1回繰り返される周波数しゅうはすうです。

 つまり海上旅行後に、上下の揺れを0.2Hzヘルツ感じるというのは、10秒間に上下ワンセットのれが2回感じられることです。


 揺れは数ヶ月または数年間続くことがあり、非常に不快ふかいです。

 関連する症状は、不安定な運動感覚に起因きいんするものと考えられています。


 下船病の症状 は、正確な診断を得る前に、多くの患者が自己診断したり、精神的な問題と誤診ごしんされてしまったりしています。

 そのため、しばしば誤った治療を受け、症状の処置も誤った方法に繋がってしまいます。


 下船病自体は、精神的な病ではありません。が、医療従事者による患者の状態への理解不足、治療オプション(選択肢)の不足、そして症状の強さなどにより、患者に精神的な健康問題が生じる可能性があると提唱ていしょうされています。


 極めて残念ことに、この病は、たとえ治療が成功した(一時的に症状が消えた)としても、自宅に帰る(長時間の移動)だけで再発することがあります。

 それは、発症のきっかけが乗り物に乗ることだからです。



 下船病は最近、発症する原因や症状によってグループ分けされています。


 まずは運動誘発型うんどうゆうはつがた下船病。

 通称MT-MDDSは、Motion-Triggered Mal de Débarquement Syndromeの略であり、船やボート、飛行機、車などの乗り物に乗ったことが引き金となり、揺れる感覚が持続する症状のこと。


 下船病のほとんどは、乗り物に乗り、受動的な運動にさらされたことで引き起こされ、自分自身が動いているという感覚が持続します。


 しかし自発発症型じはつはっしょうがた下船病、通称SO-MDDSは、特に乗り物に乗ったり、運動したりしたわけではないのに、揺れる感覚が起こる症状で。

 自発的に発症したか、手術、出産、脳震盪のうしんとう、物理的外傷。または極端きょくたんなホルモン変化の出来事がありながら、感情的または身体的なストレスが起こり発症します。


 SO-MDDSは、Spontaneous-Onset Mal de Débarquement Syndromeの略であり。   

 Spontaneousは「自発的な、自然発生の」という意味で、onsetとは「病気の発症」です。


 下船病と他のめまい(平衡器障害へいこうきしょうがい)との見分け方は、下船病は受動的な運動(乗り物に乗ったり)に再びさらされると、一時的に症状が軽減されるという点です。

 ただしそれは乗っている間だけで、乗り物から降りた途端とたんに、乗る前よりも症状は悪化しています。


 しかし、自発発症型じはつはっしょうがた下船病(SO-MDDS)患者は、受動的な運動にさらされることにより、症状が悪化するケースも多くあります。


 ニューヨークにあるマウント・サイナイ医学校とブルックリン・カレッジの医師が、2022年に記した共著論文きょうちょろんぶんによれば、自発発症型じはつはっしょうがた下船病患者(SO-MDDS)のほぼ半数で、症状の発症と関連する出来事を特定できませんでした。


 残りの半数のうち、最も多かったのは、患者が自身の発症をめまい発作ほっさと関連づけていたことです。

 めまい発作とは、突発的とっぱつてきにめまいが起き、それが時間をおいて何度も繰り返されるもの。


 その他の引き金として患者がうったえたものには、歯磨きやマッサージ、避妊法ひにんほうの変更なども。


 MT-MDDSとSO-MDDSという2つのグループが、臨床的りんしょうてきな側面(機器による測定)で、どのように重複・区別されるかはまだ分かっていません。


 発症の違いにもかかわらず、どちらの下船病にも同じ症状が見られ、患者は圧倒的に女性が多いです。


 更に女性患者は、どちらの下船病であっても、月経周期や月経による症状の悪化が特徴的です。


 月経周期のある運動誘発型うんどうゆうはつがた下船病(MT-MDDS)患者は、月経期と中期(排卵期)に症状が悪化することがより多いため、MT-MDDSにおけるホルモンの変動と症状の悪化との間に、潜在的せんざいてきな関係があると示唆しさされています。


 一般的に、女性は月経周期全体(28日前後)でホルモンの変化を経験し、例えばプロゲステロン、エストロゲン、黄体おうたい形成ホルモンなどのホルモンの変動にともなって、気分や言動の変化をうったえます。


 そして避妊法の変更も、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンのレベルに影響を与えることがあります。これらのホルモンは、脳内の神経回路や平衡感覚へいこうかんかくに関与しています。


 前庭片頭痛ぜんていへんずつうやメニエール病などの前庭障害においても、ホルモンの変動が重要な役割を果たすことがわかっています。



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