2023年までの論文まとめ ②前庭性片頭痛の有無

 ここで、おさらいにもなりますが、下船病というやまいはまだ希少きしょうで、人々の理解が不十分な神経耳科学的しんけいじかがくてきな障害であり、前庭系ぜんていけいに影響を与えます。

 つまりは、中枢性前庭障害ちゅうすうせいぜんていしょうがい一形態いちけいたいとも見なされています。


 前庭系とは、耳の中にある前庭器官からの情報を処理する神経系、及び前庭器官とそれに関連する神経や筋肉などのことを指します。


 前庭器官は、身体のバランスを保つために、頭部の動きや姿勢の変化(つまり頭部の位置、方向、加速度)を感知する重要な役割を果たしています。


 そしてこの前庭器官は、三半規管さんはんきかんと呼ばれる内耳ないじにある3つのかん、及び球形嚢きゅうけいのう卵形嚢らんけいのうという2つの袋から構成されています。


 下船病患者は、常に前後・左右・上下などに揺れているような感覚(連続的な振動運動感覚)に襲われますが、乗り物に乗っている間などは症状が緩和かんわされます。


 中枢性前庭障害ちゅうすうせいぜんていしょうがいとは、前庭器官(内耳ないじの一部)が正常に機能しないために(機能障害におちいり)、めまいや平衡感覚へいこうかんかく喪失そうしつなどの症状が引き起こされる疾患しっかんのことです。


 その病態びょうたい(病状)は、疲労、認知障害にんちしょうがい、および感覚刺激に対する過敏症状かびんしょうじょうによっても特徴付とくちょうづけられます。


 前庭器官は、身体の位置や動きを感知するために重要な役割を果たしており、中枢性前庭障害ちゅうすうせいぜんていしょうがいは、この器官の機能障害きのうしょうがいによって引き起こされます 。

 この疾患しっかんは、脳や脊髄せきずいなどの中枢神経系ちゅうすうしんけいけいの異常によっても、引き起こされる場合があります。



 前章(まとめ①)の最後に、ホルモンについて記しましたが、ホルモンの変動へんどうは、前庭障害のいくつかの症状。例えば、めまい、不安定感、耳鳴り、難聴なんちょう、および内耳圧ないじあつの変動に関連しています。


 女性の前庭患者において、性腺せいせんホルモンが症状に影響を与える可能性があることが示唆しさされており、特に、特定のホルモン期(閉経前、閉経後など)における前庭障害の優位性(患者の多さ)が見過ごされていることがあります。


 前庭器官は、ホルモンを含む病理学的および生理学的要因の影響に非常に敏感びんかんであり、それによってホメオスタシス(体温調節機能など)がみだれ、バランスが崩れる可能性があります。


 そして下船病は、主に閉経期の女性に影響する神経学的な障害であり、ホルモンの変化や神経伝達物質しんけいでんたつぶっしつ不均衡ふきんこうが原因となっているという仮説もあります。



 下船病患者の多くは、発症後に片頭痛へんずつうの症状があります。


 揺れる感覚に加えて、めまいや頭痛などの前庭性片頭痛の症状をていする下船病患者のことを、前庭性片頭痛合併ぜんていせいへんずつうがっぺい下船病と呼びます。

 通称MDDS-VM。つまりMal de Débarquement Syndrome with Vestibular Migraineの略です。

 Vestibularが、「前庭の」。Migraineは、「片頭痛」のこと。


 揺れる感覚のみを主な症状とする下船病患者は、前庭性片頭痛非合併ぜんていせいへんずつうひがっぺい下船病と呼ばれます。

 通称MDDS-O。Mal de Débarquement Syndrome without Vestibular Migraineの略です。


 前庭性片頭痛合併ぜんていせいへんずつうがっぺい下船病患者(MDDS-VM)は、めまいの重症度、仕事への影響、症状数の面で、前庭性片頭痛非合併ぜんていせいへんずつうひがっぺい下船病患者(MDDS-O)よりも障害が大きいようですが、特に片頭痛予防治療によって、一部の患者の生活の質を改善することが出来ています。


 他には、抗てんかん薬や前庭物理療法、ベンゾジアゼピン系薬(統合失調症の治療に用いられる)、片頭痛薬でも改善する患者がいました。



 下船病の症状として他に上がるものは、ブレインフォグ(頭のもやもや感)、姿勢不安定性、気分障害、疲労、認知障害、音や蛍光灯に対する過敏症状かびんしょうじょう、頭部の圧迫感など。


 また、重力引っ張り感覚と呼ばれる、一方向や複数方向に体が引っ張られるような感覚も。

 これは、動く視覚刺激や大きな音・蛍光灯けいこうとうに対する過敏性かびんせい、耳のまり感、頭部の圧迫感あっぱくかん、疲労感、頭部の動きに対する過敏性と一般的にともなっています。


 一部の患者は、重力引っ張り感覚と揺れを、自分で区別できない場合があります。


 ブルックリン・カレッジとマウント・サイナイ医科大学が、2022年に発表した論文に、尿路造影分析にょうろぞうえいぶんせきによって、下船病の重力引っ張り感覚と揺れの症状を区別できるとしるしてあります。


 尿路造影分析とは、尿路(腎臓、腎盂じんう、尿管、膀胱ぼうこう)の形や機能を調べるために、造影剤ぞうえいざい(レントゲンに映る薬)を静脈じょうみゃくに注入し、その後、X線撮影を行う検査のことです。

 CT尿路造影分析という方法もあり、どちらも尿路の病気やがんの診断に役立ちます。


 体の揺らぎと揺れであれば、通常、直立中心位置から両方向に等しい振幅しんぷくがあり、特定の周波数で典型的に正弦波的せいげんはてきだそうです。つまり尿路の揺れは単調なもの。


 しかし重力引っ張り感覚の場合、非正弦波的で、周波数が異なるやや眼振がんしんのような振動が起こり、更に、直立中心位置から離れて戻る振動が明らかになりました。


 しかし、この静的な尿路造影法も、重力引っ張り感覚と振動性めまいの区別をする上で、常に信頼性が高いわけではありません。



 下船病患者はしばしば、マルチタスクができない、集中力が低下する、話す速度が遅くなるといった認知的な不満を抱えています。


 そして光に対する感受性が高いままだと、治療が成功した後でも、症状が再発さいはつすることがあるそうです。


 下船病を発症する可能性が高いのは、女性、40歳以上の年齢層、および運動器系の疾患しっかんのある方。



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