巨人にもてあそばれているような感覚ですよ

 前章で記した、大きな存在にもてあそばれているような感覚とは、大きく分けて次の二つだ。


 力一杯、頭を押さえつけられているような感覚。

 体の一部をつかまれて、思いっきり引っ張られるような感覚。


 頭を押さえつけられているような感覚は、上からのときもあれば、両サイドからだったり、全体的に押し潰されそうに感じられたりするときもある。


 上からのときは、無理矢理お辞儀をさせられているようで、苛立ちだけでなく怒りも覚えた。

 息がしづらかったり、足が地面に埋まるように感じられたりするときもある。

 そんな感覚にともなって、まるで上顎うわあごと下顎は、磁石のように反発し合っているかのように、口が勝手に開く。上顎が、舌に押されている感覚だ。


 頭だけでなく、肩も一緒に上から押されているように感じたときもある。

 自分の真上だけ、重力が1Gでなくなったような錯覚。ジェットコースターで、急降下する際に感じるような圧力だ。

 上にスイカでも載せられているんじゃないか、と思うくらいの頭の重さ。

 鼻や口が、脳から圧迫されている感じ。


 全体的に押される感覚のときには、鼻血が出そうに感じられる。


 両サイドから、大きな手で押さえつけられていると感じたときには、そのまま体ごと持ち上げられて、すぽーんとどこかに投げ飛ばされるんじゃないかという恐怖があった。


 自分よりも力が強く、大きな手を持つ存在に、おもちゃにされる感覚。


 体を引っ張られるような感覚を覚えたときには、自分はクレーンゲームの景品なのかと錯覚しそうになった。

 鷲掴わしづかみにされているような頭の違和感。

 掴まれているような後ろ首の圧迫感。


 実際に、投げ飛ばされるような感覚を覚えたときもあった。

 肩とお尻を持たれて、そのまま担がれたかと思うと、斜め上に二メートルくらいポーンと飛んだ感覚を想像して欲しい。


 まるでホラー映画だ。

 それらの感覚はどれもリアルで、逃げることなど絶対に出来ない。



 振り子ややじろべいになったような感覚は、まだよかった。

 何度も何度も、繰り返し前転し続けるような感覚よりは。


 発症して三週間ほど経った十月九日と、その五日後の十月十四日。

 踊りたくもないのに、強制的にチューチュートレインを踊らされているような感覚を覚えたときには、まるでマリオネットの気分だった。


 この病気に関して、最後に病院へ検査をしに行ったのは、発症から三ヶ月後の十一月十五日。

 それ以降、私は四年と五ヶ月の間、一度も外出しなかった。




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