第二十七回 警部は語る・その十七
そうやって脳内で推理を巡らせていた私は、上司の次の言葉で、現実に引き戻された。
「この
「既に死んでいる?」
思わず私は、聞き返してしまった。
「死体こそ発見されていないが、現場に残された血の量から、そう考えて間違いないそうだ。通報してきたのは、秋座吾郎に仕事を依頼しにいった客だった」
その客は、事前に電話した際に「二十六日の夜に来てください」と言われていたのだが、いざ行ってみると事務所は真っ暗。どう見ても無人で、しかしドアは施錠されていない。勝手に入った客は、適当にドアの近くにあるだろうとスイッチを探して、室内灯をつけた。すると、床は血の海だった……。
そうした説明の後で、上司は、
「その客が頼みにいった仕事も、浮気の際のアリバイ作りだったそうだ。なんだか、寒い時代になったものだな」
と、ボソッと意見を挟んでから、話を続けた。
「秋座吾郎の稼ぎはわからないが、調べた限り、金目のものが盗まれた形跡はなかった。まあ金銭目当ての強盗が死体まで盗んでいくとも思えぬから、その意味でも普通の強盗殺人ではないだろう。それに、金目のものではないが、死体と共に現場から消え失せたものがあった。何だと思う?」
突然の上司の質問に対して。
まず私の頭に浮かんだのは「わかりません」だった。だが、それを口にする前に、思いついた可能性があった。
「……仕事の記録ですか?」
「そうだ。仕事の関連書類が一切合切、きれいに消えていた。一応、秋座吾郎自身が自宅へ持ち帰っていた可能性も考慮したが、後で彼の自宅を調べても、それらしきものは発見できなかった。自宅にあったのは、私的な書類ばかり。だから、やはり事務所の書類は犯人が盗んだのだろう、と判断できた」
説明を聞きながら、私は考えていた。
上司は最初にアリバイ工作云々のビラを見せてきたくらいだし、話の流れとしては、その関係なのだろう。そこで書類の消失とくれば、こんな推理が成り立つ。
犯人は秋座吾郎にアリバイ工作を依頼した。おそらく「浮気がバレそうで」などといった名目で。
しかし実際は、浮気調査対策ではなく、重大な犯罪行為のためのアリバイ工作だった。そして後日、口封じのために秋座吾郎まで殺害し、偽のアリバイの件が露呈しないよう、関係書類を破棄したのだ……。
私が考えている間にも、上司は話を進めていた。さらなる重大な情報を含んだ話を。
「しかし、犯人は一つのミスを犯した」
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