第十二回 警部は語る・その四
ただし、おおよその、犯人の手の大きさは推測できた。女性の手にしては大き過ぎるということで、男のものだろうと判断できた。もちろん女性でも、例えばプロレスラーみたいに、男性並みに大きな手の持ち主もいるだろうけどな。
さて。
ここまで二人の死体の酷似した点について語ってきたが、殺された日だけは異なっていた。検視によると、山田原安壱が殺されたのは、発見された日の前日。そのさらに一日前に、山田原豪次は殺されていた。どちらも、夕方から夜にかけての時間帯に殺されたらしい。まあ、犯人も昼間は忙しかったんだろうな……というのは冗談として。
ここまでの情報が得られた段階で、私は部下を一人連れて、
山田原修、三十二歳。四つ年下の妻、
店先には『山田原食料雑貨店』という看板が掲げられていたが、まあ今時カタカナ一つ入らないで「雑貨店」と言われれば、だいたいイメージ出来るだろう。お世辞にも、大きな店とは言えなかった。小さな店内に所狭しと商品が置かれていて、奥の様子は見えなかったな。
「いらっしゃいませ」
私たちを出迎えたのは、涼やかな声だった。奥から現れたのは、ふっくらとした顔立ちで中肉中背の、おっとりとした感じの女性。個人商店の妻というより、どこぞのお嬢様の方が似合いそうな雰囲気だったが、もちろん修ではない以上、これが修の妻である香也子だった。
私たちは最初、客だと思われたようだが、警察手帳と私の説明で、来訪意図を理解してもらえた。
「あら。では、主人を呼んできますので、少しだけお待ちください」
香也子は奥に引っ込み、体感としては「少しだけ」よりも経ってから、修が現れた。親鳥の後に従う雛のように、修の体に半分隠れながら、香也子もついてくる。
「立ち話も何ですから、どうぞこちらへ」
修は面長な顔立ちで、それが似合うくらい背が高く、まあ女からはハンサムに見えるのだろう。だが鋭い目つきのせいだろうか、私から見れば、冷酷な人物という印象だった。
今も「立ち話では疲れるでしょう」という親切心からではなく、「店の中では邪魔になる」という迷惑心から言っている感じだった。
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