第八回 警部は語る・その一
最初の被害者は、
そう、
すまんが響谷君、しばらく口を挟まずに、黙って耳を傾けてくれんかね。
では、話を続けよう。
ええっと、どこまで話したかな。
そうそう。
山田原豪次は、昔は敏腕記者とも呼ばれたそうだが、第一線を退いた今では、いくばくかの雑誌で細々と記事を掲載する程度だった。ジャーナリストというものは取材などの過程で人と接する機会も多く、そこで話を聞きだせるか否かは人柄次第だと私は思うのだが、山田原豪次は、どちらかというと
「ですが、仕事相手としては、悪い人ではありませんでした。記事の内容もそうですが、何よりも締め切りを守っていただけるのが、本当に助かりました。なんと毎回、こちらが指定した期日のちょうど三日前に原稿を届けてくださるのですから」
そう語ったのは、雑誌編集者の
ところが、その信頼を山田原豪次は裏切った。今回に限って、三日前どころか、締め切り二日前になっても、前日になっても連絡は来ない。とうとう締め切り日を過ぎてしまった。それでも詫びの電話一つないどころか、彼女の方から電話しても通じない。そこで、彼女は山田原豪次の家に乗り込んだのだった。
彼女は以前に「駅から徒歩十五分の安アパート」と聞いていたが、いざ行ってみると、少し迷ったせいもあって、三十分以上歩く羽目になった。
響谷君。君も時々「今時、都会の真ん中に何故こんな木造建築が」と思うような、ボロアパートを見かけることがあるだろう? 山田原豪次の
さて、森川涼子が部屋の前まで行ってみると、窓から室内の明かりが漏れている。ドアをノックしても、声をかけても返事はない。それまでは「原稿が遅れて迷惑!」という想いで頭がいっぱいだったが、相手の年齢が年齢だ。今さらになって「老人の孤独死」なんて可能性も頭に浮かんできた。心配になって「どうせボロアパートだ、ガチャガチャやっているうちに鍵も壊れるかも」とドアノブに手をかけてみたら、壊すまでもなく、鍵はかかっていなかった。
ドアを開けて、室内に目をやると……。
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