第三十三回 再び、居酒屋にて・その二(解決編)
あの日、この居酒屋で、このトリックに気が付いた時。
俺は、
おそらく。
犯人は死体を隠すことで「いつ殺されたのか」を隠したかったのだ。
思うに、当初の計画では、日付を誤魔化すトリックなど考えていなかった。ただ秋座吾郎に偽のアリバイを作らせて、後で口封じするだけの予定だった。
ところが、いざ秋座吾郎を殺害し、仕事の関連書類を処分する際になって、例の日記を見つけた。そして、その利用法に気づいた。これは処分するより、細工をした上で残しておいた方が良いと考えたのだ。
ルーズリーフ形式であることも、一枚に一日分しか書かれていないことも、書かれた日のみファイルされていることも、全て好都合だった。おかげで『二十二日』のページは簡単に『二十三日』のページに化けたし、なくなった『二十二日』の代わりに偽の『二十二日』を新しく用意する必要もなかった。
こうして、あの日記は「アリバイ工作は、二十二日には行われず、二十三日に行われた」と主張するものに生まれ変わった。
もちろん、このような細工をしたのは、
だからこそ、修は正に罪をなすりつけるという計画を思いつくことが出来たのだ。
しかし、秋座吾郎殺害当日の情報に関しては、それ以前の行動とは異なり、入手していなかった。もしも修自身が正の友人であれば、互いの近況や近い将来の予定などを語り合う機会もあったかもしれないが、現実には、二人は仲良しどころか『険悪』と言われるくらいの間柄だった。だから修が秋座吾郎を殺したその日、正がどこで何をしているのか、修にはわからなかった。
万が一、その日の正に鉄壁のアリバイでもあろうものなら、正は秋座吾郎を殺せないことになる。当然「秋座吾郎を利用して正がアリバイ工作して、その後、口封じのために秋座吾郎を殺した」という筋書きも成立しなくなる。そんなことは誰も思わなくなる。
ならば。
正の当日の行動が――アリバイがあるのかないのか――不明であるならば、逆に『当日』の方を不明にしてしまえばいい。つまり、いつ秋座吾郎が殺されたのか、そちらを誰にもわからないようにしてしまえばいい。
そう考えて、修は、秋座吾郎の死体を運び去ったのだ……。
だいたいこの辺りまでが、あの日、俺が警部に告げた内容だ。
そして。
これは警部に告げることも出来なかったが。
今回のトリックは、パソコンワープロよりも手書きの方が一般的な、この1985年ならではのトリックだ……。
俺は、しみじみと思ったものだった。
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