第七回 居酒屋にて・その二
「いやいや、勘違いしてもらっては困る。あのひとのところに、私が事件を持ち込むわけないじゃないか」
わざとらしく憤慨した素振りを見せる
「では、どういう理由で……」
「うむ。謎解きを頼むつもりはないが、事件の話だけでも聞いてもらいたくてな」
そして、少し
「……この私が解決した事件の話を」
いや、それだって『事件を持ち込む』の一種だろう。
そう思ったが、俺は口には出さず、代わりに、
「おお! 解決済みの事件ですか! ……しかし姉にわざわざ話そうというくらいです。なんらかのトリックが使われた事件なのですね?」
「そうだ。私が、あばいてやった。ただ……」
少し警部のトーンが落ちた。
俺は「おや?」と思ったが、俺の疑問も、警部の次の発言で解消された。
「……謎は解けたけれど、まだ確証はないからね。私の推理を一通り聞いてもらって、意見をもらおうと思ったのさ」
おいおい。
それは『解決した』と言ってはダメな段階だろう。むしろ、謎解きドラマの中で警察側の担当者が「よーし、わかった!」と叫ぶ段階ではなかろうか。そういうのは必ず、正解とは程遠く、探偵役を引き立てるための迷推理でしかないのだが……。
心の中で、俺がかなり失礼なことを考えていたら、
「だから、実のところ。あのひとじゃなくて、話し相手は君程度でも十分だったのさ」
警部も少し失礼な言葉をぶつけてきた。まあ、俺の心の中と比べたら『失礼』の度合いは、はるかに小さいわけだが。
木を隠すなら森の中、という言葉がある。
死体を隠すなら大量の死体の中、という趣旨の短編ミステリ小説も読んだことがある。
それと同じで。
人に聞かれたくない話をする時は、むしろ
今。
捜査状況という機密に類する話を始めた我孫瓦警部も、こういう話ならば喧騒に紛れた方がいいと考えて、敢えて居酒屋を選んだのかもしれなかった。
「
すまん。
全然、知らねえ。
……などと口に出来るわけもなく。
何も言わない俺に対して、
「……一応、順を追って最初から話そう」
警部は、物語でも読み聞かせるかのように、頭の中を整理しながら語り始めた。
そう。
ここまで色々と前置きが長くなったが、さあ、ようやく事件の話が始まる!
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