第二十五回 警部は語る・その十五
これを考えたのだろう、
ほら、やっぱりそうだ。その通りです、と顔に書いてある。
まあ、事件が二つあって、容疑者が二人いて、それぞれ片方ずつアリバイがあるからなあ。いわば『割れ鍋に綴じ蓋』で、二人が共犯で一人ずつ殺したならば、ぴったりなんだが……。
実はこの二人。兄弟仲が、かなり悪かったようなのだ。互いの妻同士は仲良しなのにねえ。まあ、だからこそ
二人の兄弟仲を踏まえると、修や正が父親の
何にせよ、とても二人で示し合わせて犯罪を、という間柄ではなかったのだ。遺産のために親族を殺そうという大仕事をするなら、互いに強い信頼関係がないと駄目だろうからな。
確かに推理小説などでは「共犯者同士が仲悪いと装って周囲を欺く」なんてトリックもあるにはあるが……。あれは所詮、
というわけで、私も一度は考えたものの、共犯説はボツになった。
これくらいの段階だったかな、私が上司の部屋に呼ばれたのは。
あの部屋に呼ばれるのは、なぜか、いつも決まって夕方だ。これが嫌でねえ。西側の壁に大きな窓があるから、西日が入り込んで眩しくてたまらない。しかも上司の席は、窓に背を向けた位置にあるもんだから、自分だけは、この眩しさから
「失礼します」
私がドアを開けると、いつものように上司は、西日を背にして座り、机の上には書類が散乱していた。
「ああ、君か」
呼んでおいて、この言葉だ。上司は書類から顔を上げたが、いつも通り無表情。
「
上司は椅子に深く座り直して、
「事件が起きたのは、確か先週の木曜日と金曜日だったな?」
「そうです」
「ふむ。では聞くが、
「ありません」
まあ、この事件の話で私は呼ばれたようだから、その男は、事件関係者なのだろう。だが、少なくとも、私や部下の捜査した範囲内では出てきていないからなあ。
「ふむ。君は、もっと視野を広げるべきだな。自分の担当事件だけでなく、同僚の担当にも、少しは関心を持っておいた方がいい」
「はい、わかりました」
私の返事は薄っぺらく聞こえたらしい。無表情の上司が、一瞬だけ顔をしかめたよ。それから彼は話を続けた。
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