第18話 バンド活動

第18章  バンド活動


 Geek Sliders と名を変えて、バンドはあの夏以降、どんどんと人気を集めて、M市のハコものでは、小さいものになっていった。ギター職人の袴田亮平が、M市のライブハウスDOPEで、学校の後に働き始めて、セッションに呼ばれながら、ギターの腕を磨き、次から次へとコネを作っていった。

 高瀬純は、英語の腕前をいかんなく発揮し、ポップでロックな曲をネイティブそのままに歌い上げた。もう生徒会長のようなヒーローではなく、自分の思うままの世界へと没頭し、好きな格好で好きなように振舞った。往年のジョンレノンのように。

 キーボードの松原圭は、早々と辞めてしまった。かといって暴走族に戻ることもなく、気儘に女遊びとバイクいじりに没頭した。それでも近所だから、なにかと酒を飲んでは、僕らとよく遊んだ。

 

 ドラムスやキーボードは、袴田のコネを生かして、いろんなプログレな奴らを迎え入れたが、なかなか固定しなかった。


バンドの打ち上げには、四方山話ばかりだが、女の子の性欲の強さを初めて知った。なんかむなしかった。僕は沙穂美のことなどすっかり忘れて耽美な世界に浸ってしまった。

 

最初はメジャーな先輩にくっついていって、下北沢や高円寺、池袋などを中心にライブハウスを回った。チケットの売りさばきは大変だったけどCDは良く売れた。

 原宿のホコ天では、ずいぶんとファンがつくようになって、インディーズレーベルの小さな会社が、CDのマージン3割をとって彼らを買い取った。

 日比谷の野音に出た時には、緊張してアルコールを飲みすぎてしまった。ベースの音があと乗りになっていて恥ずかしい思いをした。

 そのうちに会社から、高瀬の曲に干渉がはいったり、キーボードに音楽学校を出た可愛い女の子をいれるだの、ヴィジュアルがどうだのと、言いだして彼らシラケていったんだ。

 若いのに老けている。これは販売戦略としては致命的だった。高校生には高校生らしく、暴れ回るようなビートが求められた。

 それでも3人は仲が良かったから、毎日は楽しかった。仲が良すぎたのかもしれない。高瀬とは高校3年間、一緒のクラスだった。学校を除けば、いつも一緒に行動していたわけだ。


     *


 大学はフツーに入った。

 彼女はフツーにできた。

 Geek Sliders は完全に、彼らの家やスタジオでの宅録に変わった。もうメンバーは人前に出ることすら拒絶し、往年の輝きは失っていた。だれにも聞かすこともない

「自分たちだけで聞くオーガニックな音楽」、それで充分だった。

 僕は贖罪するように毎日真面目に大学に通った。


    *


 山形では、祖父母が相次いで死んでいった。薬屋は廃業した。

 大学4年には、今までの人生に疲れたのか、なにかしただけで高熱がでる病魔に襲われる1年間を過ごした。就職ができずに卒業した。


    *


 病気が治ると、狂ったように働いた。20年・・・。

 結婚し、かわいい娘2人ができて、都内に広い庭の新築の戸建てを買って、一部上場企業の管理職になった。年収は4ケタをこえて・・・。僕は気づいていた。僕たち夫婦は知らず知らずに山の頂から見る風景を眺めることなく通り過ぎていったことを。


    *


 歯車が狂い始めた。

父が死んだ。狂ったまま。後妻の百合子さんを残して。

僕は葬式で、酒におぼれて織田信長のように狂乱し失態を犯した。


続けて、

庸介伯父さんが死んだ。

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